運営指導・監査対策
行政による運営指導の実態
そもそも「運営指導」とは?
業界では「泣く子も黙る」と恐れられる運営指導・監査ですが、役所の担当者も人の子であり、指導内容に誤りがあり、或いは指導方法が不当であるということも当然あり得るところです。
ところが世間に出回っているこのテーマに関する情報をみると、「運営指導・監査対策」等と一見、事業所向けに銘打ってはいても、結局は「日頃から法令遵守を徹底し必要な書類や記録を揃えましょう」といった結論が圧倒的多数であり、「行政は常に正しい」という前提で語られているように思えます。
しかしそれは必ずしも真実ではなく、現に当事務所にはおかしな指導に疑問を持つ相談がこれまで数多く寄せられてきました。中には、当事務所において現在訴訟の場で保険者による指導内容の是非を争っているケースもあります。
「指導」と「監査」の違い
一般に「運営指導」とは、サービスの質の確保・向上を図ることを主眼とする「指導」であり、通常は和やかな雰囲気の下行われるものであるとされ、一方で「監査」は指定基準違反や不正請求等が疑われる場合に、報酬返還や指定取消等のペナルティを課すことまで視野に入れ権限を行使するものとされています。
運営指導における「行政」と「事業所」の立場
しかし現実には、監査に切り替えることはいつでもできる以上、これを受ける事業所の側は運営指導の段階で戦々恐々としているのが実態です。介護保険という枠組みの中でしか実質生きられない世界である以上、究極のペナルティである「指定取り消し」、さらにグループ全体に追い討ちをかける「連座制」は運営法人にとって死刑宣告に等しいといえます。事業に関わる全ての職員を路頭に迷わせ、利用者やその家族、その他関係者全員に多大なご迷惑をかけることになるかもしれない。そのような身を切るような思いと緊張感をもって、経営者以下事業所の皆様は運営指導と向き合っておられることと思います。
一方で行政の職員は何ら経営上のリスクを負うことなく、ただ法令に照らしダメ出しをすればいいという気楽な立場にあります(それが指導監査というものではありますが)。仮に指導が誤っていたとしても、それにより事業所が被った損害の賠償責任を、個人として負わされることもありません。
更には、役所の担当者個人が不適切な態度や行為を取ったとしても、被害者の立場からは当該公務員に対し名指しで慰謝料等を請求する訴訟を提起することはできず、国賠請求の方法によりその所属する市区町村自体を訴えることしかできません。公務員は極めて安定した、実質ノーリスクの地位にあるといえるでしょう。
実際にあった「行政」の立場を利用した事業所からのご相談
そのような事業所側の思いや、圧倒的な力関係を知ってか知らずか、事業所いじめといわざるを得ない暴言や傲岸不遜な態度を取る役所の担当者が、残念ながら一定数存在するといわざるを得ません。「莫大な金額の報酬返還」や「行政側の横暴な立ち振舞い」等、実際に当事務所にご相談のあった内容の詳細をご確認いただくことでよりイメージがつくかと思います。
記事:「運営指導に関する行政側の対応と現状|実際の当事務所へのご相談事例」
運営指導における「行政」と「事業所」の理想的な関係性とは?
確かに介護事業所の側にも何らかの落ち度があり、減算や指定の一部取消し等のペナルティを受けても、法令に照らしやむを得ないという場合も考えられます。しかし、重要なことは「行政」と「事業所」というプレイヤー同士が対等の立場にあって、法令という共通のルールの下に忌憚のない意見を交わし十分議論できるという関係性です。
要するに「指導がおかしい」と思えばそれを率直に指摘できる関係でなければ、行政側の暴走、迷走はエスカレートする一方であり、権限を振りかざす強者が絶対的弱者をいじめるという構図が定着してしまうのです。
それでは、行政の指導は元来アンフェアなものであり、理不尽なことをされても耐えるより仕方ないという諦めが先行してしまい、真の意味の法令遵守の意識は育たないでしょう。
運営指導の種類と必要な対応
運営指導についてはご相談いただく内容を、大きく分けて3つのケースに分類できます。
各ケースで必要な対応が異なりますので、十分に理解をして適切な対応を行うことが重要です。
こちらに非があり、報酬返還や改善報告を要するケース
該当するケース
重大な違法事実が認められ、組織全体として法令遵守を徹底するよう改善命令が下され、悪質と見做された場合は指定取り消しまでなされるケースです。後述する2,3と異なり、言い逃れができず、如何に最小の傷(ダメージ)で切り抜けるかを考える「守り」のパターンです。グループ内で施設・事業所も順調に増え、トップが全ての現場を把握できなくなってきたようなときに起こりがちです。本来順調に成長するはずの大事なステージで地雷を踏んでしまうようなものですが、「これ以上事態が水面下で悪化する前に発覚してむしろ良かった」と気持ちを奮い立たせ、一からやり直す覚悟で体質改善に取り組むことが重要です。
発端する背景
①定期の運営指導で帳簿等の不自然な記載や矛盾点から問題が発覚
指導予告が来てから時間的猶予があるため事前チェックで本来気づけていなければならないのですが、油断があり、そうした内部監査体制が疎かになっていた…という背景事情がよく見られます。
②現場で虐待や身体拘束が横行し、内部告発により行政が知る
不意打ち的に監査が入るので、経営者にとっては青天の霹靂でありショックも大きいのですが、マスコミに知られると報道等で更に関係者間の混乱をきたすため、迅速かつ確実、冷静に対処していかなければなりません。
必要な対応
「不正行為への組織的な関与」は無かったということを主張・立証していく必要があります。
グループ規模の法人が最も注意すべき点をご指摘しますと、それは「連座制」の適用を回避することです。連座制とは「不正行為への組織的な関与」が認められる場合に、その法人の営む他の事業所も指定を更新できなくなるという、いわば究極のペナルティなのですが、この事態だけは避けなければなりません。例えば組織のナンバー2に当たる役員クラスの者が、自分の所管する事業所で不正をしていたが、トップには知らされていなかったような場合、当時の組織図をはじめとして、日常業務の報告体制、代表が現場の出来事を把握するための仕組み、一連の問題が起きた経緯と各時点における代表の認識等を具体的に文章化して整理し、結論として「現場任せであり実態把握を怠っていた。ついては二度とこのような事にならないよう、現場と直結して情報収集する仕組みに改める」といった施策を打ち出すのです。
また、虐待や身体拘束が問題となるときは、再発防止のため如何に現場職員や関係者に虐待予防の知識とご利用者の権利擁護の考え方を身に着け、かつ現場でその実効性が持続するような内部研修を実施する必要があります。
行政の指摘事項が不適切な場合(実体面の問題)
該当するケース
行政の指導内容自体が曖昧でおかしいケースです。
具体的な事例については、過去にご相談のあった「障害事業所への報酬返還」をご確認いただくことで指導内容がおかしいことがイメージできるかと存じます。
記事:「小さな障害事業所が、あわや4000万の返還沙汰に…|実際の当事務所へのご相談事例」
必要な対応
行政からの指導内容に対して、丁寧に書面で主張反論をすることが肝要です。
感情面に訴えたり、「そんなこと聞いていなかった」と言うことは逆効果であり、飽くまで法令に基づき理詰めで法律論を展開するのです。対行政のこの問題は事業所にとって生死を分ける究極の問題であり、非常に高度な法律問題といえますが、適切な対応をすることで辛い思いをすることなく、介護事業所の運営を継続することが可能です。
行政の指導方体が不適切な場合(手続面の問題)
該当するケース
執拗な調査が入る等、行政の指導方体が不適切なケースです。
具体的な事例については、過去にご相談のあった「管理者の資格要件等への執拗な調査」をご確認いただくことで指導方体の不適切さを実感いただけるかと存じます。
記事:「執拗な調査・出頭命令で管理者がうつ病に…|実際の当事務所へのご相談事例」
必要な対応
行政の不適切な指導方体に対して、丁寧に書面で主張反論をすることが肝要です。
また管理している市区町村宛に実際の指導監査課の対応に対する抗議文等を送付する等して、事業所の方をしっかりと守っていくことが重要です。
当事務所でサポートできること
当事務所ではこのような対行政との運営指導・監査に対して、本当に困っている事業所の方に向けて介護・福祉専門の弁護士として全国の介護事業所様をサポートしております。
運営指導・監査における行政対応について下記のようなサポートが可能です。
改善命令等の対処法に関する横断的な助言
改善命令が発出される場合、その指摘事項は数十にのぼることもあり、その全てにつき提出期限までに行政の求める水準の回答を用意することは多大な労力とマンパワーを要します。過去の対応経験に基づき、迅速かつ適切に回答方法や答え方につきご指導し、行政にとって悪印象となりかねない表現等を添削指導します。
行政に対する書面・抗議文の作成
指定取り消しをちらつかせ高圧的かつ横柄な指導をする行政担当者に対しては、所属する県庁の長である県知事(あるいは市長)に対し直接抗議文を送ることもあります。その他、根拠のない誤った指導に対しては、法律論を正面から展開することで毅然と対処していきます。
運営指導・監査に関する代理人対応
監査は丸一日かかるものですが、始めから終わりまで弁護士が事業所に同室することで間接的圧力を与え、それにより行政の担当者が襟を正し、強引な指導等を抑止する効果が期待できます。勿論、想定外のことが起きたときにはその場で対処可能です。
現場職員の方に向けた内部研修
虐待は組織(施設)の体質に根本原因があることも多く、虐待者を除外することで再発防止策が完了するほど生易しいものではありません。現場職員の一人ひとりが高齢者虐待防止法について正しく学び、身体拘束との関係についてまで理解できるような実践的研修プログラムをご提供します。その他介護保険法や資格職としての倫理、個人情報保護法など法令遵守全般について内部研修を提供致します(オンライン方式可)。
法令遵守監督委員の就任
定期的な委員会への出席、そこでの内部研修提供、各種質問への回答や問題点の指摘等を適宜行います。介護に精通した弁護士が外部監査役となることで、行政からの信頼も増す効果が期待できます。また顧問弁護士に合わせて就任することで、顧問としての相談対応も可能となります。
介護・福祉業界に特化した当事務所にまずはご相談ください
当事務所では介護・福祉業界に特化してサポートをさせていただいており、現在は100社を超える介護事業所様との顧問契約を締結しております。顧問契約を通じて、運営指導・監査の際の問題発生を未然に防ぐ体制構築が可能となります。ぜひ一度ご相談ください。