問題社員・問題職員への対応

たった一人の問題職員が施設を潰す時代

介護の現場は、チームワークが全てといっても過言ではありません。

特に施設の場合、毎日同じメンバーが一か所に集い、密接に連携しながらご利用者の状態変化等に合わせ臨機応変に対応していかなければなりません。そのように高度な連携が求められる職場において少しでもコミュニケーションに違和感があれば、それは靴底に紛れ込んだ微小な小石のようなもので、最初は気になる程度であったとしても、徐々に不快感が増し場合によっては歩けなくなるほどのダメージに発展するおそれもあるのです。

筆者の顧問先である介護施設で、長年にわたり施設長による横暴が放置されていました。その施設長は気に入った職員は優遇し親しく話しかけますが、自分に逆らう職員は容赦なくミスを指摘し、賞与を説明なくカットしました。自分以外の職員が皆さぼっているのではないかと疑心暗鬼になり、残業をしている部屋の電気をいきなり消し「帰りなさい」と問答無用で言い放つような人でした。嫌気が差し退職した有志の嘆願書で事実がようやく本部の知るところとなりましたが、筆者が被害をぽつぽつと語りだした現場職員に尋ねたところ、このような言葉が返ってきました。

「仕事に対する意欲を持てない現場は危険です。ご利用者は高齢だから、どれだけ手を尽くしても亡くなるのは仕方ありません。それに少しでも抗い、目の前のご利用者のために全力を尽くすのがこの仕事であり、その本質は奉仕であると思います。ところが、現場は一生懸命やっているのに、何も知らず知ろうともしない上司から「あなたは仕事が遅い」等と決めつけられると、途端にやる気も失せてしまいます。それが一番の罪であると思います。」

これを聞いて、介護現場の質の良し悪しは、一人ひとりの介護職の心の状態、言い換えればストレスなくご利用者と向き合うことができる環境か否かにかかっているということを痛感しました。事態が深刻化すれば、溜まったストレスが利用者に向けられ、虐待が起きてしまうかもしれません。そこまで行かずとも、見守り一つとっても親身な思いが伴っていなければ転倒事故を防止することもできず、組織を見限った職員はいち早く辞職…あっという間に現場が悪循環に陥ることが容易に想像できます。

このように、現場職員ができる限りストレスなく、安心して働ける環境を整えることは、この人材窮乏の時代において必須の経営課題といえるのです。

そのために、現場職員の安心を損なわせ、士気を下げるような問題職員に毅然と対処していかなければなりません。

現場の安心・安全を脅かす問題職員・頻出の3パターン

筆者がこれまで経験した事例の中から、典型的な問題職員像を紹介します。

パターン1:独裁者として振る舞う中間管理職

長年組織に居ることから管理者の役職に就き、部下に対し権力を振りかざし横柄に振る舞うパターンです。明らかなパワハラ行為はしませんが、えこひいきや執拗な文句、不条理な指示等で現場の士気を低下させます。

この場合、当人自身がハラスメントの相談を受ける窓口である等、労務環境を整備する立場にあるため、問題の発覚が遅れエスカレートしがちであるという危険があります。加えて、要のポジションであり業務内容も当人に依存している等の事情から、替わりとなる適切な人材がおらず現状が放置されがちであるという問題があります。

パターン2:指示に従わず権利主張に執心する職員

何かというと「そのやり方は間違っている」「あり得ない」等と反抗し、指示に従わない職員です。自分の経験が全てであり、絶対の自信を持っていますが根拠はありません。

少し厳しく指導すると、すぐに「それ、パワハラですよ。慰謝料を請求します」等と言うため、上司も及び腰となってしまいます。上司の腫れ物に触るような接し方を見て、他の職員は「声の大きい人の意見が通る不公平な職場だ」「あの人ばかり好き勝手が許されていて、馬鹿馬鹿しい」といった不満を募らせます。真似をして指示に従わなくなる者も現れます。

ベテランの人に多く見られますが、有資格者でもあるため事業継続のためには無くてはならない人材であることが多く、パターン1と同様問題が先送りされがちです。

パターン3:何かと疑惑を巻き起こす職員

特定の職員がシフトに入るときに限って「利用者が不審な怪我をする」「職員の財布からお金が盗まれる」といった事件が起き、その職員に疑惑が生じるパターンです。

本人は「自分は何もしていない」と断言しますが、限りなく黒に近いグレー…という状況のとき、確たる証拠がなければ虐待をした等と決めつけることもできませんが、更なる被害を抑止するため何か策を講じなければなりません。

対応が困難な場合が多いといえますが、現場では多々見られるパターンであり、対策は必須です。

現場の「和を護る」ためにこれをやる!

介護事業を運営する法人として、問題職員から現場の調和を護るために必要なものは、ずばり就業規則です。

就業規則は現場を司るルールブックであり、組織の管理者は現場において就業規則が守られているかをチェックし、常に就業規則に則って行動するよう求めていかなければなりません。

ところが実際には、「就業規則など見たことも無い」という職員がしばしば見受けられるのが現実です。小規模の事業所では、そもそも就業規則が無いということもあるかもしれません。それは実は経営者にとって大変危険な状態であり、問題職員を無法地帯に置くようなものと心得るべきです。

以下、介護現場において就業規則を活かす具体的な方法について解説します。

「遵守事項」を抜き出し周知する

就業規則の内容は多岐にわたり、通読するにはボリュームが大き過ぎるものですが、現場のルールとして最重要な項目は実は1ページ程度しかありません。それが職員に求められる遵守事項(服務規律)です。次のような規定が並ぶ条項です。

職員は、次の事項を守らなければならない。

一 常に健康に留意するとともに、服装などの身だしなみについては、常に清潔に保つことを基本とし、お客様に不快感や違和感を与えないように心がけること。

二 社会福祉に携わるものとして社内の和、他人へのいたわりの心をもって業務にあたること。

三 他者に対しては率先して挨拶を行い、敬意をもって接すること。…

この該当部分を抜き出して印刷し、新規雇用した職員の研修初日等で読み上げ、お互いに確認します。どのようなことを考えたか、意見発表の場を設けても意識を高めることができ良いでしょう。特に新卒の人はいわゆる学生気分が抜けず、社会人になることの意味や、雇用され働くことの意味を理解していないこともあろうかと思います。挨拶や時間に遅れないなど、基本的な事柄をこの遵守事項に盛り込み徹底するようにしましょう。

また、時代の流れに応じて生じるさまざまなケースを想定し、例えばSNSの投稿に関する禁止事項等を常にアップデートしていくことも大切です。生の人間関係を交通整理するルールは、それ自体が生物であり常時見直しが必要であると意識しましょう。

懲戒処分を活用する

懲戒処分=懲戒解雇、と誤解している方もおり、ぎょっとされたかもしれませんが実は懲戒処分にはいくつかの段階があります。もっとも軽い処分は「戒告」、いわゆる注意指導にとどまるものですが、実務ではこれを多用し職員の問題行動を戒め続けることが極めて重要なのです。

戒告処分のポイントは、

①文書で発出すること

②相手の受領サインを貰うこと です。

口頭注意は、就業規則にそのように規定していない限り懲戒処分には含まれません。毎回文章に残しておくことで、確かにそのような問題行動があり都度指導していた、ということを示してくれる証拠になります。

戒告は、サッカーで言うところの「イエローカード」です。違反をしたタイミングですぐに出せるよう、普段から準備しておくことが現場の秩序を維持することに繋がります。

いざというときは解雇する

解雇はレッドカードに相当する退場命令です。そのため、いざとなると臆病になってしまい、解雇に踏み切ることができずお茶を濁してしまう…ということが繰り返されている職場もあるかもしれません。しかし、既に見てきたとおり問題職員の周囲に及ぼす悪影響は極めて深刻なものである以上、様子見が命取りになると肝に銘じるべきといえます。

一般に解雇はいざ裁判等に持ち込まれると大抵無効とされてしまい、法的には認められ難いという印象があろうかと思います。それはその通りで、解雇をするにも手順があるのです。

解雇には懲戒解雇と普通解雇の二種類がありますが、後者の方法は懲戒解雇に比べまだハードルが低いといえます。そして、普通解雇が裁判でも有効と認められるためには、その根拠=能力不足や協調性の欠如等を、どれだけ立証できるかにかかっています。その有力な証拠となるのが、先のイエローカード、戒告書なのです。

勿論、解雇できるか否かということと、実際に解雇するかは別次元の話です。背に腹は替えられないので、次の人材が補充されるまでは我慢して雇用し続けるという選択肢もあり得ることでしょう。重要なことは、いざというときにいつでも解雇できる状態にしておくこと、そのためにまずは解雇の「正しい作法」を知ることです。

当事務所でサポートできること

当事務所では介護・福祉・医療の経営者様に向けて、上記のような労務問題の対応に向けた随時のアドバイスはもちろん、事業所経営に関するサポートを行っております。

この業界は完全な労働集約型産業である以上、労務問題は経営者と従業員の間で日常的に起こる問題です。ところが、法令上はまだパワハラの予防措置程度しか義務化されていないため、労務問題対策は法人ごとに差が付きやすいポイントでもあります。

施設・事業所としてしっかりと対策を講じておくことで良い職員が定着し、離職率も低下し、安定した経営を実現することが可能です。

就業規則のチェック・アドバイス

現場の和を維持する要となる「遵守事項」と「懲戒処分」規定、また近年急増しているうつ病による休職対策としての「休職規定」の見直しを中心に、これまで経験した事例を元に実践的な改定のチェック・アドバイスを致します。

労務知識に関する内部研修講師

介護現場はアットホームな雰囲気が魅力ですが、皮肉なことに家庭的な雰囲気に終始し友達感覚、ボランティア感覚に浸ってしまうと、いざというとき適切に労務問題を処理できません。法律と介護は「水と油」の関係のようなところがありますが、やはり大元が雇用契約という法律関係である以上、雇用主・労働者として相互に担う義務と権利を確認しておかなければ、秩序を維持できないでしょう。年間80件近くのセミナー講師業を請け負う当事務所の代表弁護士が、貴法人のために特別に最も効果的な内部研修のプログラムを組み、現場職員の法令遵守の意識を向上させます。

問題職員への直接対応

当事務所では、多種多様な問題職員に関するご相談を受け、解決して参りました。その豊富な経験に基づき、現場に悪影響を及ぼす問題職員への実践的対策法についてアドバイス致します。戒告通知書の作成代行、相手方との面談の同席、法人の代理人として相手方との交渉や、労働訴訟の被告代理人としての対応まで網羅的にお引き受けします。

 

雇用主側からの労務問題のご相談は、大抵「一人の問題職員に長年振り回され、もう解雇しか選択肢がない…」という状態に追い込まれてから来られます。

労務問題は特に、トラブル発生予防と、事後対応としても先手を打つことによる損害拡大防止が重要です。日々の業務で起こる些細な出来事でも、放置すると大変な事態となりかねません。時の流れに沿って随時伴走する法律の専門家がいれば、心強いサポートとなることでしょう。いつでも何度でも、気兼ねなくご相談頂ける顧問契約サービスを是非ご検討ください。

 

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