(障害福祉サービス)虐待・身体拘束研修

今回は、障害福祉サービスの現場職員向けの内部研修内容になります。

ご利用者の虐待防止と身体拘束の適正化

虐待防止と身体拘束の適正化の2点は、令和4年から義務化されまして、年1回と新規採用時に必ず職員全員が受講しなければいけないことになりました。ですので、しっかり勉強していきましょう。ご利用者の人権を守ることが一番大事になりますが、早速虐待について見ていきます。

 

虐待とは

虐待と言いますと非常に恐ろしい響きの言葉ですが、皆さんはどんなことを連想しますか。例えば、ご利用者を殴る蹴るとか、あるいは閉じ込めてしまったり、言葉の暴力などいろいろあると思いますが、まずは「虐待かな?」と思いついたことをメモに書き出してみたり、隣の人と話し合ってみてください。

 

例えば以前、職員が入所者に対して自分の手をハンマーで叩かせたというニュースがありました。信じられないような事件ですが、「ハンマーで叩けと言ったら叩くのか」と言い、叩かせてしまったと。さらに「包丁で刺せといったら刺すのか」と煽るようなことを言ったら、包丁を自分に向けてしまったので止めたということです。

 

どうしてこんなことを言ったのかというと、「何でも素直に言うことを聞いてしまうので、自分の考えを持ってほしいという思いで発言した」とのことです。皆さんはどう思いますか。やはり障害者の特性や接し方をわかってないと思われるかもしれませんが、自分だったら絶対にしないか、または自分のいる現場では絶対に起こらないかと言いますと、その保証はないですよね。

 

やはり人間である以上、感情の生き物ですから、つい自分の思い込みで発言したり、声を荒げたり、場合によっては手を挙げてしまうこともあるかもしれません。それらを自分事としてしっかり「してはいけないんだ」という思いで学んでいくことが大事です。

 

虐待の5つの種類

虐待防止のために一番大事なことは何か。これはまず、虐待には5種類あり、その5つの類型を理解して頭に入れておくことです。

◆身体的虐待……いわゆる殴る蹴るなどの暴力を振るうこと。

◆ネグレクト……放棄や放置。

◆心理的虐待……言葉の暴力。

◆性的虐待

◆経済的虐待

 

この5つの類型があることをしっかり頭に入れた上で現場を見て、もしこれに引っかかるようなことがあれば「これは虐待かもしれない」と判断し、適切に動けるようになること、それがこの虐待防止研修を学ぶ意味です。

 

これらの言葉を全て暗記する必要はありませんが、少なくとも「虐待には5種類がある」と、「虐待はご利用者に対する人権侵害に当たる許されない行為だから、現場職員として適切に動かなければいけない」と、まずはしっかり頭に入れておいてください。

 

5つの類型の具体的な定義

上記類型の具体的な定義ですが、これは「障害者虐待防止法」に書かれています。他にも高齢者や児童などがあり、大体書いてあることは共通しています。

 

一.身体的虐待

「障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」は、身体的虐待にあたります。あとで説明します“身体拘束の3つの要件、緊急やむを得ない場合”が認められない場合のみです。

 

二.性的虐待

「障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること」は、性的虐待になります。

 

三.心理的虐待

「著しい暴言、拒絶的な対応、不当な差別的言動、そういった心理的な外傷を与える言動」は、心理的虐待です。

 

四.ネグレクト

「障害者を衰弱させるような著しい減食や放置、そういった義務を怠ること」をネグレクトと言います。

 

五.経済的虐待

「障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること」を、経済的虐待と言います。

 

虐待には2つの場面が想定されており、それは家庭内虐待と、施設や事業所の現場で起きる虐待、職員による虐待です。統計によりますと、やはり家庭内の虐待は経済的虐待が圧倒的に多いです。一方で、施設や事業所では本来あってはなりませんが、身体的虐待や心理的虐待がどうしても多いです。

 

言葉の暴力の例

人間ですから言葉の暴力については、つい言ってしまうということもあるかもしれません。どんな例があるのか、厚労省の出している手引きを参考に見てみます。

 

①威嚇的な発言、態度

怒鳴るとか罵るは、気をつければしないようにできるかもしれませんが、「ここにいられなくなるよ」や「給料をもらえないですよ」、または「好きなものを買えなくなりますよ」はもしかしたら、つい状況に応じて言ってしまうかもしれません。

 

例えば、就労継続支援B型で働いている方の場合、このご利用者をちゃんと指導して作業をしてもらわなければならない、そんな立場で「仕事をしないと給料が出ませんよ」と言ってしまうかもしれません。もちろん言い方や状況にもよりますが、そういった発言は「心理的虐待」に見なされかねません。そういう怖さがあります。ですから、そのような言動には気をつけましょう。

 

②侮辱的な発言態度

これは実務では結構な落とし穴です。交換条件を提示する言葉、例えば「これができたら外出させてあげる」や、「買いたいならこれをしてからにしなさい」などは、もしかしたらお子さんを持つような方なら、普通にしつけとして言ってしまう言葉かもしれません。ですがそれをご利用者や障害児に向けて言うのは、心理的虐待になりかねません。

 

言い方を気遣わなければいけないのですが、具体的な技法として良いのがまず、否定的な言葉はなるべく肯定的に言い換えるです。大声を出して騒いでいる児童がいたとして、「大声出さないの!」や「走らないの!」と言うのではなく、「小さい声で話そうね」「ゆっくり歩こうね」と、肯定的に言うわけです。

 

もう1つは、選択肢を提示するです。例えば、皆での学習時間があったとして、そこで1人の児童が興奮して暴れ回り、他の人の邪魔をしていたりすると、別のところへ連れて行き「勉強しないと帰れないよ」と言った場合、これは交換条件の提示になるので、心理的虐待になりかねません。

 

そういう時には、「もしかしたらこの子は帰りたいかものかもしれない。選んでもらおう」という意識で「お家に帰って勉強する? それともここでみんなと勉強する?」という言葉に言い換えます。これも言い方次第では問い詰めるような脅迫的な言い回しになりかねませんから、やはり言葉だけではなく雰囲気やジェスチャーなど、いろいろと気遣わなければなりません。基本的にはご利用者の意思を尊重するという想いが根底にあると良いと思います。

 

虐待を見たらどうすればいいのか

心理的虐待のケースを見てきましたが、この5つの類型を頭に入れたとして、では何をすればいいのか。これも大事な点ですが、虐待防止法は市町村に通報することを求めていて、「障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、市町村に通報せよ」とあります。“受けたと思われる”ですから、虐待だとはっきりはわからなくてもとにかく教えてください、それを役所に通報してください、と法律は求めています。

 

普通に考えればやはり、現場の直属の上司や施設長など組織内部の人がいますので、まずはそういう人に報告すると思います。それでいけないわけではないですが、あってはならないことに例えば、直属の上司が虐待の報告を受けても無視や隠蔽しようとしたらご利用者を守れませんので、これはもう躊躇せずに役所へ通報すべきです。

 

電話で匿名でも構いませんので、「実はこの施設で、こういったことを見聞きしました」と報告してください。被害を受けているご利用者は自分でSOSの声を上げられませんので、それは彼らを守ることになります。ご利用者の人権、生命や身体の安全を守れるのは、現場の職員1人1人なのです。

 

そのようなことから法律は、市町村へ通報することを求めていると理解していただければと思います。万が一通報したとしても、「不利益な取り扱いを受けない」となっていますので、そのせいで給料がカットされたり、クビにされたりすることはありませんのでご安心ください。

 

虐待が判明したら

通報を受けると市町村としては、県と連携して調査を実施します。その上で、法律に基づいて指導監査を行ったり、虐待の事実と認めれば場合によってそれを公表したり、改善命令を下します。事業所として悪質だと判断された場合には指定取り消しまで行いますので、そのような大きなペナルティを考えますと、組織・事業所としても「虐待は絶対に起こさない」という意識を持って一致団結することが大事です。

 

虐待をしてしまったら、個人としてはどうなるのかと言うと、特に虐待罪というものはありません。しかし、高齢者や障害者虐待防止法と並行して刑法はありますので、刑事罰に当たる場合はそれによって裁かれます。

 

具体的には、身体的虐待であれば“殺人罪”は滅多に無いとしても、“傷害罪”“暴行罪”は起きてしまいがちです。性的虐待で言えば“強制わいせつ罪”、または“心理的虐待”における“脅迫罪強要罪”など、何かしらの刑事罰があります。

 

現場で陥りやすい暴行罪

特に現場で陥りやすいケースが、暴行罪です。例えば「重度の知的障害者入所施設に勤務していた介護職員が、排泄を介助する際に自分の予想と異なるタイミングで排泄をし、トイレ内などを汚してしまった入所者に対して、その人の頭部や腹部を手で叩くなどの暴行を加えた」ということがありました。

 

文字だけ見ると酷いことをしたと思えるかもしれませんが、「早くしなさい」というつもりでペシペシ叩いたとか、急かす目的で少し触ったつもりでも暴行罪となってしまう場合があります。

 

これは極端なケースかもしれませんが、先程の心理的虐待と一緒で、ご利用者に手を挙げる暴行罪は、刑事罰にもなる大変重いことだと覚えていただければと思います。したがって、いくらご利用者と仲良くなったとしても、おでこを小突くなどふざけるのは厳禁です。

 

なぜ虐待をしてはいけないのか

では、どうして虐待をしてはいけないのかを考えてみましょう。少し抽象的な話ですが、皆さんどう思われますか。そもそもご利用者に対し、どうして虐待をしてはいけないのか。当たり前なだけに説明の仕方が難しいかもしれません。ですが少し考えていただきたいと思います。

 

これは法律的な言葉で説明すると、1つとしては「ご利用者の人格と尊厳を守るため」と言えます。人格とは、個人の心理面での特性、人柄や個性です。一方で尊厳とは、尊く厳かで犯してはならないこと。つまり、あらゆる人は全て平等な存在であり、互いに敬意を払い敬意を持って向き合わなければなりません。

 

もしそれが破られてしまえば、「この人は障害があるから人間より劣っているんだ。家畜扱いしていいんだ」とエスカレートしていき、それは差別や奴隷制に繋がってしまいます。それはもう、人間とは見なされていません。

 

「人格や尊厳」という言葉には、「すべての個人が、等しく互いを人間として尊重する法原理」が込められています。虐待とは、人格と尊厳を傷つける行為なので、絶対に許されないという考え方になります。これだけが正解ではありませんが、特にこの尊厳という言葉を、頭に入れておいていただきたいと思います。

 

虐待についてのまとめ

まずは「虐待には5種類ある」、それは身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待で、スラスラ言えなくても良いですが、現場に入った時に「これって虐待じゃないかな?」「心理的虐待じゃないかな?」など、頭にピンとくることが大事です。まず、虐待に気づけるようにやりましょう。

 

その上で「虐待を見つけたら、身近な上長や施設長にすぐ報告」をしましょう。この点で法律は「市町村に通報してください」と求めていますが、まずは施設長へ報告してください。組織として対応するのであれば問題はなく、最終的に施設が行政に報告すればこと足りますので、まずは直属の上司に報告をしましょう。

 

「これは虐待かどうかはっきりしないけれども、ちょっとモヤモヤするな」という場合でも、遠慮せずに上司へ報告してください。そうすることで、ご利用者の人格や尊厳を守ってあげていただければと思います。

 

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身体拘束の適正化

高齢者の場合だと歩いていて転ぶとか、安全確保の目的で拘束することはありますが、障害者の場合には、若い方であれば力が強く他の方を傷つけてしまうことがどうしてもあります。他のご利用者との殴り合いのような喧嘩を止めていいのか、体の自由を奪うのは身体拘束ですから「そんなことをしたらいけないのでは? でも止めなければ一方的に殴られた側は怪我をしてしまう」そんな場面に遭遇したら、どう考えればいいのでしょうか。

 

ここで必要になるのが、身体拘束についての知識になります。

 

身体拘束の原則

全ての事業所に当てはまる規定の運営基準では、まず原則として「身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならない」とあります。もちろんご利用者の自由を理由なく奪うということは人権侵害行為であり、身体的虐待にもあたりますから許されない、というのが大原則です。

 

ただし例外がありまして、「利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き」と書いてあります。緊急やむを得ない場合には、例外的に身体拘束をしてよいことになります。それを現場で見極められるようになるのが、身体拘束について学ぶ目的の1つです。

 

拘束をやむを得ずする場合には、「その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない」とあります。この記録をとることが、忘れがちですので注意をしてください。

 

身体拘束の例

身体拘束の例としては、車いすやベッドに縛り付けるとか、手袋を付けたりつなぎを着せたりなどの物理的な拘束以外にも、上から圧し掛かって体を動けなくしたり、部屋に閉じ込めることも当然、身体拘束となります。

 

令和4年の現段階ではまだ、身体拘束防止法のような法律はありませんが、平成13年に出版された『身体拘束ゼロへの手引き』には、身体拘束について詳しく書いてありますので、興味があれば読んでいただければと思います。その中でこの「緊急やむを得ない、例外的にしていい場合」で、3つの要件が書いてあります。これが一番大事なところですが、

①切迫性……危険が迫っていること。

②非代替性……危険を回避するにはこれしか方法がないと言えること。

③一時性……拘束するにしてもあくまで一時的なものであり、ずっと拘束するわけではないこと。

 

これらが言えるかどうかが分かれ目です。

 

先程のケースで言うと、“利用者が他の人に暴力を振るっている”場合に、体を押さえつけることができるか検討するにはまず切迫性を考えます。強い力で殴りかかっていて怪我人も出ている場合は、切迫性がまず認められます。

 

次に非代替性。それを収めるのに言葉をかけても応じてもらえなかったら、実力でやるしかないので、そういう場合は非代替性が認められます。ただしこの場合、1人の力で十分足りるのに、2人や3人で寄ってたかって上から圧し掛かったりすると、圧迫死してしまうことにもなりかねないので、そうなると大問題ですから、あくまでも身体拘束には必要最小限であることが大事です。

 

そして最後に一時性。落ち着くまでの少しの間、抑制するのであれば構いませんが、「罰として明日の朝までそこにいなさい」と閉じ込めたりすると、それはもう一時的ではなくなります。あくまで必要最小限と認められる時間でなければいけません。

 

裏を返せば、事前にこの3つの要件を満たしていると委員会で確認できなければ身体拘束できないわけではありませんし、ご利用者や家族の同意がなければできないわけでもありません。もちろん、これから身体拘束することがはっきりしている場合、家族の同意を得るのは、出来ることならした方が望ましいですが、緊急の場合には咄嗟に適切な判断ができるように、これを覚えていただければと思います。

 

適正な身体拘束についてのまとめ

まずは、身体拘束が許される場合の「3要件を頭に入れておく」切迫性・非代替性・一時性>を満たさない身体拘束は違法であり、身体的虐待に当たります。これらを満たすと判断した場合には、例外的に拘束をして良いわけですが、正しい検証や記録をしっかりとっておくのを忘れないようにしましょう。

 

まとめ

以上となりますが、いかがでしたでしょうか。他にも学ばなければならないことが沢山あると思いますが、だからこそポイントを押さえておき、ご利用者をしっかり守れるようになることが大事です。

 

虐待で言えば、どれが虐待に当たるのかを気づけるようになり、適切に通報なり報告をすることに慣れること。身体拘束については、3つの要件を満たさなければ身体拘束をしてはいけないことをしっかり押さえておき、これからも良いケアを提供していただければと思います。

 

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