介護現場における未払い賃金・残業代請求の現実

平和な介護施設に、元職員から未払い賃金請求通知が…そのとき、どうする?

介護施設・事業所の経営者の皆様は、「突然、職員から残業代請求されたけれど、対応しないといけないの?」等のトラブルや、「職員たちから一斉に未払い賃金を請求されたら、どうしよう」といったお悩みを抱えておられないでしょうか。

 

万一職員から残業代等の未払い賃金(以下、残業代を含め「未払い賃金」と表現します)を請求されてしまったら、速やかに対応する必要があります。

決して「言いがかりだ」等と決めつけ無視・放置してはいけません。

また介護現場で、できるだけ想定外の賃金が発生しないよう、予防策を講じることも重要です。特に残業代は、見えないところで日々膨らんでいく爆弾のようなものなので、爆発する前に撤去・抑止することが肝心です。

未払い賃金請求の現状やリスクを知ることで、「もしも」の備えをすることができるでしょう。

本コラムでは、未払い賃金や残業代未払いが発生してしまう要因、それらが引き起こす事業所の経営リスクを解説します。また、実際に発生した裁判事例を解説し、当事者がどのような結果を迎えたのか、そして、事業所が未払い賃金、残業代未払いを起こさないようにするために今からできることをご説明していきます。

 

未払い賃金が発生してしまう要因

「社労士の先生にも都度相談し、賃金規程もしっかり作り込んでいるのに、なぜ未払い賃金のトラブルが起きてしまうのか」と素朴な疑問を抱かれる方も多いことでしょう。

その原因は様々ですが、以下のような場合が代表的です。

 

・残業を許可制にしたにも拘らず無許可で残業してしまう(いわゆる「生活残業」)

・職員が仕事を自宅に持ち帰る等して、使用者(雇用主)が把握していないところで働いてしまう

・休憩時間中に事実上休むことができず、休憩時間も勤務時間と見做される

・着替えや申し送り等の勤務前後の時間や、行事参加、外部研修の時間をカウント外としてきたことによる計上漏れ

 

お気づきの方がいらっしゃるかもしれませんが、上記4点のうち2点は、事業所側が知らないところで発生した労働が要因となっています。

 

こうやって知らない間に未払い賃金が発生する

この中で、「無許可で残業したような場合にも残業代を払わなければならないのか」と疑問に思われた方もいることでしょう。

シビアな話ですが、たとえ許可制のもと、職員が勝手に残業していたとしても、雇用主としてその実態を知っていながら積極的に是正(禁止)しなかった場合は、「黙認していた」と見做される可能性があるのです。何度口頭で注意しても聞かない職員に対しては、必ず書面など形に残るよう指導し、懲戒処分等の厳格な対応を取る必要があります

(ただしそうは言いながらも、あまりに「残業禁止」を徹底し過ぎると現実に仕事が回らないことから、今度は職員がやむを得ず仕事を家に持ち帰り作業するといった事態になりかねません。その挙げ句、業務過多で過労死等の最悪の事態に至っては本末転倒です。残業を悪と決めつけず、仕事量と職員数のバランスの観点から適切か否かを見極めるようにしましょう)。

 

休めていないならば、休憩時間は労働時間になる事実

また介護施設等では、夜勤者が休憩時間をとろうにも、都度利用者のコールに呼び出され、緊急対応をする等の理由で休むことができないという事態がしばしば発生します。

二人体制であれば良いのですが、慢性的に人手不足の状況では難しいのかもしれません。

 

休憩時間とは、「労働者が休息のために労働から完全に解放されること」を意味します。

休憩とはいえ現実に休めていない場合は、全ての時間が勤務時間と認定され、割増賃金等も含めて追加で支給する必要が生じます。

ご利用者のスペースと明確に区切られた、職員のための休憩場所が用意されていることも重要です。呼び出されることが無い状態で、休憩ができる部屋を1室設けられるのが最適ですが、どうしても明確に区切られたスペースを用意できない場合は、パーテーションで区切ったスペースを設けるなどして職員が一息つける場所を用意するという方法もあります。

 

業務のためならば、研修や移動時間も労働時間になる

業務に必須となる資格継続のために受けざるを得ない外部研修など、雇用主である法人から行うように命令されている行為、或いは「事業場内でせざるを得ない行為は全て労働時間に該当します(極端な例としては、全社員強制参加であれば忘年会の出席にも賃金を支払わなければなりません)。

法人からの指示、業務遂行のために必要な行動である場合は、労働時間としてみなされると考えた方が良いです。

例えば、訪問介護でよく指摘されることですが、ヘルパーがご利用者宅から別のご利用者宅へ移動する際の移動時間も労働時間であり、賃金が支払われなければなりません。

そのような観点から日常業務を見直してみると、意外にも未払い分があることに気づかれるのではないでしょうか。厳しい表現ですが、各職員の善意(サービス残業)に、無意識のうちに甘えているような経営では、いつか足元をすくわれかねません。「うちはそのようなことはしていない」と思われたとしても、例えば始業前の簡単な掃除なども、これを職員に命じていれば労働時間に該当するため、何かしら綻びが無いか点検することは有意義といえるでしょう。

一人ひとりの労働者と誠実に向き合い、支払うべき額はしっかりと支払うという意識を持ちたいものです。

 

未払い賃金や残業代(以下「未払い賃金」と総称)を請求された場合は速やかに誠意を持って対応することが、事態をこれ以上悪化させないために大切です。解決に時間がかかるほど、遅延損害金などが増えるリスクがあります。また、表面的な対応や相手の主張を頭から否定するような発言をして相手の心証を悪くすれば、円満解決が難しくなるでしょう。

まず、相手方から勤務時間算定の根拠となるタイムカード等勤務履歴の提出を求められた場合は、速やかに開示するようにしましょう。

他職員の氏名等も併記されているのであれば、その箇所はマスキングして構いません。

 

より具体的な未払い賃金・残業代請求に関する対応方法については下記にて解説しております。

未払い賃金・残業代が発生したら?介護事業所が最初に対応すべきこと

 

弁護士法人おかげさまは「介護福祉特化型の弁護士法人」です

当事務所は、介護福祉分野において発生した問題を解決させる、或いは問題が発生する前に対策を実施することを得意とする弁護士法人です。現在全国で100社を超える顧問先があり、介護福祉の現場が日々の業務をスムーズに行えるようにご支援させていただいております。

弁護士というと「問題が発生してから活躍する」と思われがちですが、当事務所では、介護福祉現場で問題が発生する前の予防策をアドバイスしたり、問題が発生しないような仕組み作りをサポートさせていただくなど、「問題が発生しにくい体質にする」ということも重視しております。

当事務所が介護福祉業界に特化した理由は当事務所のホームページ内(https://okagesama.jp/office/lawyer/)でご覧いただけますが、介護福祉業界はトラブルなどで日々の業務を止めてしまうと、ご利用者、そこで働く職員に大きな迷惑がかかってしまいます。場合によってはご利用者の生命、健康にまで影響を及ぼすこととなります。

賃金未払いは事業所と職員間の問題ではりますが、賃金未払いにより職員の仕事に対する意欲が低下することで提供される介護サービスの品質が低下すれば、最終的にご利用者の健康に影響を及ぼしたり、事業所の評判を落とすリスクに繋がってしまいます。未払い賃金に関する裁判事例、具体的なリスクについて解説しているページがにございますので、是非そちらもご覧ください。

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