介護業界における未払い賃金・残業代請求のリスク

介護業界においては、人手不足の影響で労働時間が長くなりやすいという特徴があります。

十分な労働時間管理がされていなかったり、サービス残業が慢性化してしまったりすると企業経営にも大きな影響があります。

 

本コラムでは、未払い賃金・残業代を請求された際に事業所がとるべき対応について解説しております。

 

未払い賃金・残業代請求をされた際にとるべき対応

従業員や元従業員から未払い賃金・残業代請求をされてしまった場合、対処方法について焦ってしまうことも少なくありません。

しかし焦って従業員の意図のままに回答をしてしまうと、結果として多額の請求に繋がる可能性もあります。

法人として回答をする前に2つのポイントを検討することが重要です。

 

まずは請求否定ポイントを探索しよう

未払い賃金を請求されたからといって、相手の言い分が100パーセント認められるとは限りません。

まずは、請求された額について支払う義務は無いと主張できる点が無いか、確認しましょう。

 

【請求否定ポイントの例】

・申告時間中に、実は勤務していなかった

・残業を禁止していたにも拘らず、無断で残業していた

・時効が成立している(給与支払日の翌日から3年※で消滅時効にかかる)

・労働基準法でいう「管理監督者」にあたる

※2020年4月1日以降に支払われる賃金については消滅時効が3年に延長されました(それ以前は2年)が、将来的には5年となる見込み

申告時間中に、実は勤務していなかった

「パソコンで仕事に必要な調べ物をしていた」等と主張しつつ、実はネットサーフィンをしていただけということもあり得ます。法人所有のパソコンであれば、ネットやメール等の閲覧履歴は雇用主としていつでも自由に確認できます。いざという時に備え、そのような履歴を無断で消されないよう設定しておきましょう。

これは自宅での持ち帰り勤務でも同様ですが、職場外での勤務についてはリモートワーク等、雇用主として明確に命じたものでない限り労働者側に主張立証責任があるため、具体的にいつ、どのような仕事をしていたのか説明を求めることが考えられます。

その他事前の対策としては、包括の職員や医療機関への営業担当など、外回りが多い者については車にGPSを設置したり、社用携帯のGPSで居場所を確認することも適法です。

こうしたトラッキング行為を、当該職員に秘密で実施して良いかが問題となりますが、そもそも従業員は、業務時間中は職場の業務に専念する義務があります(職務専念義務)。そのため、職務専念義務を果たさせることを目的として、会社が職員の位置等の勤務実態を把握しようとすることは原則として問題ありません。もっとも、例えば職員のマイカーに秘密でGPSを取り付け、休日の動きまで把握することはプライバシーの侵害であり違法となります。

筆者が相談を受けたケースで、「たばこ休憩」という謎の習慣が存在する施設がありました。トイレと同様、なぜか「たばこを一服するのであれば勤務時間中でも自由に抜けて喫煙スペースに行ってよい」という暗黙のルールがあり、後に辞めた職員が、四六時中たばこ休憩していたにも拘らずタイムカード記載の時間全てについて未払い賃金を請求してきたのです。健康増進法が改正された今の時代、「たばこは勤務時間中、どこであろうと一律禁止」としても良いくらいであると個人的には思いますが、あまり厳しすぎても隠れて吸ってしまうため逆効果です。せめて「たばこ休憩をする前に申告すること」といった、実態把握の措置を講じたいものです。

このような不合理なルールがはびこっている職場は、他でも「職場の私物化」が進んでいる可能性があり、要注意です。

 

ここが落とし穴!

SNSはいつでも気軽に繋がれる点で非常に便利ですが、落とし穴もあります。つい職員の勤務時間外でも、ラインで業務連絡や問い合わせをしてしまうことがあるかもしれません。しかし、休日にそのような指示に応じる義務はなく、もし応じていたとすればその時間についても賃金が発生してしまいます。

職員には、日頃から「勤務時間外は緊急時以外、携帯やメールに出る必要はない。休み明けに仕事が溜まってしまうが、オンとオフはしっかり区別するように」と指導しましょう。「見て見ぬ振り」、なあなあの姿勢が一番怖いことなのです。

 

残業を禁止していたにも拘らず、無断で残業していた

この場合は、前述の通り「雇用主として黙認していた」と主張されない事情があることが必要です。書面で残業禁止の命令書を提出し受領のサインをさせる、最低限メールで指示するなど、普段から証拠を残していく意識が大切です。

なお、「言ったいわない」を避けるために職員との会話を秘密録音することは、前述のGPSと同様の考え方により、基本的に合法です。もちろん職員にも等しく人権があり、プライバシーや個人情報の保護が認められますが、勤務時間内においては話は別であり、これらは相当程度制限されます。例えばトイレ等プライバシー保護の要請が高い場合を除きそのような音声の記録については雇用契約時に包括的に同意したと解すべきであるためです。

 

時効が成立している

数年前のことであれば、消滅時効が成立している可能性があります。時効は、当事者がこれを発動させる意思表示(これを「援用」といいます)をしなければ有効となりません。書面にて「消滅時効を援用します」と明記し、相手方に内容証明で届ける必要があります。うっかり払ってしまうと時効の利益を放棄したと見做されてしまうため、注意しましょう。

 

労働基準法でいう「管理監督者」にあたる

業務執行役員など、従業員を指揮監督する立場にあり、経営者一体的な立場にあると認められる者は「労働者」と認定されず、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限がありません。

しかし、管理監督者に当たると認められるには相当狭き門を通過しなければならず、例えばデイサービスの管理者といった程度では労働者と認められてしまうでしょう。その意味でこの論点は、一応確認するという程度のものです。

却って、管理監督者として扱っていたところ「労働者として働いていた」と主張され、未払い賃金を請求されるパターンの方が多いといえ、普段から役職名を理由に正当な対価を払わないといったことが無いよう、気をつけたいものです。

 

上記のように、残業代の支払義務が発生しないケースはさまざまです。反論の余地がある場合は、確実に反論するようにしましょう。「この件さえ凌げれば」という思いで、安易に残業代請求を認めてしまうと、それが噂となって広まり他の従業員達からも、さらに残業代請求をされることも起こり得ます。反論の余地がある場合にはきちんと反論する必要があります。

 

支払い義務のある未払い賃金の額を正しく把握しよう

法的に支払義務を負う賃金が認められるとしても、最終的に支払うべき額を正確に検証することも大切です。未払い賃金請求の対象となっている金額の算定には、誤りがある可能性があります。確認せずに支払ってしまうと、残業代を払いすぎる結果となるおそれもあるでしょう。

【算定誤りの例】

・基礎賃金の設定が誤っている

・固定残業代を考慮していない

・勤務時間を水増ししている

基礎賃金の設定が誤っている

例えば月給制の場合、「基本給と従業員に一律に支払われる諸手当の合計額」を、「月の所定労働時間数」で割った金額(時給換算額)を「基礎賃金」といい、これに時間外や深夜に労働した場合の倍率をかけたものが割増賃金となります。

割増賃金の算定根拠となる「基礎賃金」は極めて重要ですが、未払賃金請求に際し労働者側は家族手当や通勤手当なども基礎賃金に含めて大きくしようとしている場合があります。まずはこの点に注目しましょう。

手当というものは、本来労働の対価ではないため、従業員の個人的事情により支給されるものであれば基礎賃金には含まれません。

しかし、実態として一律支給していたのであれば、基礎賃金に入れられてしまうのです。例えば「家族手当」をみてみましょう。配偶者につき1万円、こども1人につき5千円といったルールで支給する場合は基礎賃金に含まれません。一方、家族の数に関係なく定額を支給するような場合は、基礎賃金に含まれてしまいます。

住宅手当や通勤手当も同様であり、これら諸手当が実態に即した支給となっているか、面倒でも全職員につき確認することをお薦めします。例えばある職員が自転車通勤しているにも拘らず、定期券代を支払っていた…といったことが明らかになれば、返還を求めていかなければなりません。

 

固定残業代を考慮していない

固定残業代制を導入しており、すでに残業代を支払っているという法人もあるでしょう。残業代を重複して支払う必要はないので、相手方の請求額に固定残業代を充当したところ超過分が無いのであれば、残業代の支払いを拒否できます。

ただし、固定残業代制は、普段から通常労働時間に対する賃金と明確に区別できるよう就業規則や雇用契約書に明記し、職員間に周知する等して正しく運用しなければ、無効と解される可能性があります。

 

勤務時間を水増ししている

本当は30分遅刻してきたのに、不正申告をして勤務していたことにしたり、1-1「申告時間中に、実は勤務していなかった」で解説したような休憩やさぼり時間を反映させていなかったりと、勤務時間数を水増ししている可能性があります。これら一つ一つを検証・立証することは労力を要し大変かと思いますが、その分日頃から勤務実態を把握する施策を講じていくことが大切です。今の時代、便利な勤怠ソフト等も商品化されているので、手書きの申告制などは即刻、正確かつ客観的な勤務時間計算システムに切り替えるべきといえます。

 

このように、相手の請求に応じ支払いをする場合でも、根拠資料に基づき正しい金額で請求されているかを必ず確認する必要があります。

その上で、当方で正しいと考える金額と根拠を書面にて回答し、その後は相手方との交渉になります。相手方が合意すれば合意書を取り交わし所定の額を支払って終結となります(その際、下記のように守秘条項を必ず入れるようにしましょう)。

合意に至らなければ「個別労働紛争のあっせん」(労働委員会による話し合い)や裁判所での「調停」、「労働審判」(労働訴訟よりスピーディーな解決が期待できる、労働トラブルに特化した訴訟制度)など、第三者を交えて手続を進めていく流れが一般的です。必ずしもこちらからそのような調停等を申し立てることも無いのですが、放置すればそれだけ遅延金が膨らんでいくため、なるべく早期解決を目指して動きたいものです。

 

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当事務所では介護事業所様を中心に、顧問弁護士として経営上のサポートを行っております。

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