在宅ケアマネなら絶対に知っておきたいトラブル事例と対応策 ケアマネ事業者が保険者に勝訴!

私は普段、弁護士として事業所から依頼を受け活動していますが、この度私が代理人を務める行政訴訟が、令和6年1月15日をもって勝訴判決として確定しました。

一介護事業所が保険者に裁判で勝つことは大変珍しく、また地裁の判決ですが後の実務(行政側からみた運営指導)に重い教訓をもたらすものであることから、この度特別編としてご報告させて頂きます。

本件は、大阪地方裁判所第7民事部、令和3年(行ウ)第82号 介護給付費返還義務不存在確認請求事件といいます。

訴えた側(原告)は、ケアマネ事業所を営む株式会社です。被告は寝屋川市(以下「市」)でした。

 

令和3年7月に始まった裁判は、令和5年10月19日に判決が言渡されました。この時点で勝訴を喜びたかったのですが、日本の裁判は控訴(いわゆるリベンジ)が可能であり、市側が控訴してきたので勝利はお預けとなりました。ところが年が明けて、突然市側が「控訴を取り下げる」と申し出たのです。これにより本裁判はこちらの勝訴で確定しました。

 

 

争いの概要

令和2年11月24日、市は原告の事業所に対し、国(厚生労働省)の定める運営基準第4条2項(以下「本規定」)に違反するとして介護報酬の全額返還を求めました。

本規定は「利用者は複数の指定居宅サービス事業者等を紹介するよう(ケアマネに)求めることができること等につき説明」することを義務付けるものでしたが、市は「原告の用いていた説明書に同文が記載されていない」という理由のみをもって利用者116名分につき生じたケアマネとしてのサービス提供が無効であると断罪し、後日2926万7249円の返還を請求してきたのです。

これに対し原告が当該返還債務の不存在確認訴訟を提起し、原告の交付した書面には類似の記載があること、実質的にも全ての利用者に対し本規定と同意義の説明をしていたことから、違反は認められないとして行政処分を争いました。

 

 

地域でも傑出したスーパーケアマネなのに…

先に申し上げておきますと、今回の訴訟で原告となった事業所代表のAさんは、事業所経営において雑であったとか、未熟なところがあり、その結果、市から指摘を受けて訴訟になったというわけではありません。

むしろAさんはケアマネの中でもしっかりとした理念を掲げ、平成24年に事業所を立ち上げ、これまで10年以上もご利用者と真摯に向き合って事業を続けてこられた方です。

Aさんは「入浴をしたということではなく、その方が入浴をしてどう感じたかを大切にしたい」という理念を掲げており、例えば以下のような真摯な対応例もありました。

 

元路上生活のご利用者。公園で倒れていたところを救急搬送されたものの、病院から「支払い能力がない上に家もないので当院では面倒を見れないから何とかしてくれ」と依頼を受けた。

生活保護取得の支援や住居を一緒に探し、介護保険認定を受けた後、担当ご利用者となった。当初3か月ほどは無報酬であったが、小規模であるがゆえに融通が利き臨機応変な対応が可能である、うちにしかできないとの意識から、生活再建のため必要な全ての手続を無償で支援した。

デイサービスやヘルパーを紹介してもなかなか馴染めず、何度も体験利用や事業所変更を繰り返された。最終的には全てのサービスに納得頂け、生活が安定した。

 

このように、ご利用者がサービスを気に入らなければ何軒も紹介し、時には生活保護の手続や家族全員のサポートまでしながら粘り強く課題を解決していきました。

その実力は広く認められ、包括や保健所からも困難事例が持ち込まれ「困ったときのAさん」と評価されていました。Aさんの理念に共鳴し、多くのケアマネが集まり沢山の高齢者を助けてきたのです。

 

 

合流したケアマネは皆、口をそろえて「この事業所は、ケアマネ同士が相談できる、何かあったら一緒に動くことができることが、本当に珍しいことだ」と称賛しました。Aさんの事業所が、困難事例も断ることなく受け続けることができたのは、他事業所とのチームケアだけでなく、事業所の構成員自体が強固なチームであり続けたからであったといいます。

Aさんは「ご利用者に対して、複数のサービス・事業所を提案し、体験などを重ねて本人や家族に選んでいただく」という点を一番大切なポリシーとして、勉強会でも仲間と何度も確認をしてきました。

 

追い打ちをかけるように伝える市の担当者

そのAさんの事業所に、実地指導が入りました。担当官は重説を一瞥(いちべつ)し、「紙に書かれたことが全て。一言一句変えずに書いてください」と言い放ちました。Aさん達がどれだけ尽力し地域に貢献してきたかを全く見ようともせず、機械的に法令の文言が書かれていないというだけで、数年分、100名以上の利用者に対する介護報酬プラス特定事業所加算の返還を命じたのです。

追い討ちをかけるように、担当官はAさんに「家を売ってでも返してもらう」と迫ったそうです。Aさんの絶望は想像を絶するものがあります。

 

 

急遽決まる3日後の監査、そして訴訟して勝訴へ

私たちは最初、介護保険課と寝屋川市長宛てに手紙を送り、この指導は不当であると訴えました。しかし市はこれに耳を傾けることもなく、非情にも「監査を3日後に実施する」と宣告しました。結果的には監査がなされても何も追加の違反は見出されませんでしたが、市は最終的に3000万円弱を請求してきました。

 

 

ここまで追い詰められた事業所にとることができる手段は訴訟しか残されていませんでした。そして2年以上の争訟の末、ついに裁判所に「市の指導が誤りである」と認めさせることができたのです。

判決の中身や法律論についてはここでは詳述しませんが、要約しますと、裁判所は「複数の事業所を紹介するよう求めることができる、という運営基準4条2項の文言は必ずしも書面に記載しなければならないものではなく、利用者や家族に分かりやすく説明すれば足りる」との規範を示し、「説明をしていないことの主張・立証責任は行政側が負う」という原理原則論を確認しました。その上で、本件では寝屋川市は利用者や家族への聞き取り等必要な調査をしておらず、原告側の提出した証拠からは却ってきちんと説明していたことが認められる」と結論づけたのです。

当事務所のユーチューブチャンネルで、訴訟の中身について私が解説しております。興味のある方は以下の動画も是非ご視聴ください。

 

行政の判断を盲目的に過信するな

Aさんは「介護支援専門員は利用者の生活だけでなく、介護保険制度をも、守っていく存在である」との信念を持ち、これを貫かれました。これを破壊しようとした者が、外ならぬ保険者であったということが残念でなりません。実態を見極めようとせず、現場に寄り添わず書面の字面だけで判断するような「指導」は指導とはいえません。今回の裁判例は、その当たり前のことを改めて全国の保険者に示したものといえるでしょう。

最後に、判決を受けたAさんの思いを記して終わります。

 

「私はやはり、何かの文章が書いてあるかどうかを見て指導するのは実地指導でするべきことではなく、事前に書類提出などで確認すべきことであり、実地指導はできていることを認めより介護保険制度の理想に近づけるためのアドバイスをするべき場だと思います。

事業者と保険者は介護保険制度の両輪であり、ともに利用者を支える立場であり、相反するものではないと思います。重箱の隅をつつき、返還ありきの姿勢を本当に改めてもらいたいです。」

 

当事務所がサポートできること

当事務所ではこのような運営指導・監査に対して、本当に困っている事業所の方に向けて介護・福祉専門の弁護士として全国の介護事業所様をサポートしております。
運営指導・監査における行政対応について下記のようなサポートが可能です。

 

改善命令等の対処法に関する横断的な助言

改善命令が発出される場合、その指摘事項は数十にのぼることもあり、その全てにつき提出期限までに行政の求める水準の回答を用意することは多大な労力とマンパワーを要します。過去の対応経験に基づき、迅速かつ適切に回答方法や答え方につきご指導し、行政にとって悪印象となりかねない表現等を添削指導します。

 

行政に対する書面・抗議文の作成

指定取り消しをちらつかせ高圧的かつ横柄な指導をする行政担当者に対しては、所属する県庁の長である県知事(あるいは市長)に対し直接抗議文を送ることもあります。その他、根拠のない誤った指導に対しては、法律論を正面から展開することで毅然と対処していきます。
状況によりますが、講義を行っても事態が改善に向かわないと判断できた場合は、訴訟への準備も進めます。

 

運営指導・監査に関する代理人対応

監査は丸一日かかるものですが、始めから終わりまで弁護士が事業所に同室することで間接的圧力を与え、それにより行政の担当者が襟を正し、強引な指導等を抑止する効果が期待できます。勿論、想定外のことが起きたときにはその場で対処可能です。

 

 現場職員の方に向けた内部研修

虐待は組織(施設)の体質に根本原因があることも多く、虐待者を除外することで再発防止策が完了するほど生易しいものではありません。現場職員の一人ひとりが高齢者虐待防止法について正しく学び、身体拘束との関係についてまで理解できるような実践的研修プログラムをご提供します。その他介護保険法や資格職としての倫理、個人情報保護法など法令遵守全般について内部研修を提供致します(オンライン方式可)。

 

法令遵守監督機関としての就任   

定期的な委員会への出席、そこでの内部研修提供、各種質問への回答や問題点の指摘等を適宜行います。介護に精通した弁護士が外部監査役となることで、行政からの信頼も増す効果が期待できます。また顧問弁護士に合わせて就任することで、顧問としての相談対応も可能となります。

 

介護・福祉業界に特化した顧問弁護士

当事務所では介護・福祉業界に特化してサポートをさせていただいており、現在は100社を超える介護事業所様との顧問契約を締結しております。顧問契約を通じて、運営指導・監査の際の問題発生を未然に防ぐ体制構築が可能となります。

顧問弁護士と聞くと大変仰々しく思われるかもしれませんが、 介護福祉事業経営において発生するトラブルや法的問題を未然に、或いは適切に対応するためのサポーターとお考えいただければと思います。

顧問弁護士サービスのご案内ページもございますので、ぜひご覧ください。

 

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