求人広告の「無料掲載」に安易に飛びつくな

求人広告の「無料掲載」に安易に飛びつくな

昨今はどの業界を見渡しても「人材不足」という言葉が飛び交っています。その中でも介護福祉業界においては、大変深刻な人材不足の状況で、今すぐにでも現場に出られる人が欲しいという経営者、施設責任者は多いのではないでしょうか。

少子高齢化に伴い、働き手がどんどん減っている中で、業界を超えた人材の取り合いになっています。人材採用においては、介護福祉業界以外の業界で仕事をする会社がライバルとなります。

そんな環境の中で何とか人材を採用しようと考えているときに使える手段としては、求人広告が最も使い慣れて、身近な手段ではないでしょうか。

しかし、この「求人広告」において、もはや詐欺と言っても過言ではない悪質な営業を行う業者が近年増えています。

 

今回は、当事務所の周りでも多発したことのある、求人広告業者の詐欺まがいの悪質営業についての解説と注意していただきたいポイントをお伝えしてまいります。

採用活動を行う予定の方はぜひご一読ください。

求人広告の「無料掲載」という悪質営業

これは以前、当事務所に介護事業所から実際に持ち込まれたトラブル案件です。当時は同じタイミングで3件持ち込まれ、とても驚いた記憶があります。

どのご相談も共通して求人広告の「無料掲載」を利用していて発生したトラブルでした。

ある日、施設の事務局に求人広告の営業マンが電話し、「1か月無料で求人情報を掲載します」という提案を持ち込んできました。「無料期間が経過する前に更新するかどうかの確認の連絡をします」という話を聞き、施設側は「どうせ無料だし、1か月だけ掲載してもらおう」と考えて掲載を依頼しました。

求人広告の「無料掲載」という営業の例

そして1か月が経とうとする前に、施設側から求人広告の会社に「無料掲載期間で掲載を終わりにしたい」と電話で申し出ました。しかし、電話の先に担当者はおらず、担当部署をたらい回しにされてしまいました。ようやく繋がったと思ったら「後ほど解約書類を送ります」と言われたのですが、待てど暮らせど書類は届かず、後日、「解約依頼の書類が届かなかったので、年間契約で自動更新致しました。つきましては12か月分の掲載料45万円をお支払いください。」という通達が来ました。

無料掲載期間で解約の意思を示し、送られるはずの解約依頼の書類は届かず、最終的には解約依頼が無いので年間契約の自動更新となったのです。

悪質な求人広告会社から返信がない事例

さらに不味いことに、相談に来られた施設の中には、施設長のような責任者に確認せず、対応した窓口担当者の独自の判断で無料掲載に契約していたところもありました。「どうせ無料なんだし、無料掲載期間で掲載を終わらせれば良いから、責任者への連絡はしなくて大丈夫だろう」と考えて実行したそうです。

 

求人広告会社から突然の請求書

 

被害に遭った施設のその後は

求人広告会社から「自動更新された」という連絡を受けたそれぞれの施設から相談を受け、当事務所は「自動更新にかかる費用請求に対して支払いはしない」ことをアドバイスしました。電話連絡をして「無料掲載期間で終了する」という意思をはっきりと相手方に伝えていたため、その費用を支払う義務が発生しないからです。

求人広告会社も簡単には引き下がらず「掲載終了は正式な申し入れ書によらなければならないことは約款に明記してある」「もう更新してしまって掲載が始まっている以上、支払うべきだ」などと言葉巧みに自身の正当性を主張します。これに対し怯む必要はありません。

「無料掲載期間で終了を伝えたため支払いには応じない」「自動更新の請求が来たが応じない」という意思、さらに「今掲載している広告は直ちに取り下げるように」との意思をはっきり伝えるべく、配達証明と内容証明で相手側に送りました。

本件の掲載料は金額が小さいため、回収コストを考えると紹介会社側が訴訟してくるとは思えませんが、その可能性は0ではないので、「念には念を」の考えで時系列を思い出せる限り詳細に記録するようアドバイスしました。

自動更新されても1ヶ月以内に掲載終了を申し出たので支払いには応じないと主張

求人広告掲載のビジネスの仕組み

求人広告の掲載を勧誘してくる業者は、求人広告を掲載したい企業からお金をもらって掲載するというビジネスをしています。あくまで「掲載」という義務を果たしてお金をもらうということであり、その掲載によって人材採用ができたかどうかという「成果報酬」ではありません。この点に注意が必要です。

人材紹介会社の場合は、実際に成約に至らなければ報酬は発生しないというビジネスですが、求人広告は違います。同じ「人材」に関わるビジネスをしている会社ですが、ビジネス構造が全く異なっています。「掲載する」ということは「お金がかかる」ということなので、初めて掲載する方にとっては不安が多くなります。そこで、「無料掲載」という特典を付けて掲載に踏み切りやすくしているというわけです。

本来、善良な求人広告会社であれば、無料掲載期間の終了前に「無料期間は終了しますが、継続しませんか?」と連絡してくるか、或いは何もしなければ自動的に契約が終了するはずです。しかし、悪質な業者は、無料掲載期間終了を教えず、或いは依頼者から申し出てきても先のケースのように逃げ回ったり何かと理由を付けて期限を過ぎるようにして「無料掲載期限を過ぎたので自動更新しました」という状況に持ち込もうとするのです。

求人広告会社の儲けの仕組み

今回の場合、相手側は最初から「何とか無料掲載期間を過ぎるようにして自動更新に切り替えさせる」ことを狙って近づいてきていたといって良いでしょう。考えてみれば、このようなやり方はウェブ上のサービスや携帯会社、スポーツクラブ等あらゆるビジネスの形態で取り入れられている典型的な顧客獲得の手法なのですが、一消費者であれば消費者保護法による保護もあり、単価が比較的安いこともありダメージも小さくて済みます。一方で本件のようなBtoBビジネス(依頼者も事業所であり法人である場合)については、お互いビジネスのプロと見做されるので今回のような理不尽な結果になることもざらなのです。外部とやり取りをする法人担当者は、一消費者の感覚ではなくビジネスとして相手と向き合っていること、その分契約書記載の条件が極めて重要となること、「無料」という言葉に釣られたり、油断しないことが肝要といえます。

 

補償されるかどうかは被害者の属性による

 

電話で行った掲載終了の申し出は有効なのか

今回の場合、電話で「無料掲載期間で終了したい」という意思を伝えた時点で解約が成立します。民法上口頭でも有効であるため、相手側の用意する書面を待たなくても問題はありません。相手は所定の書式というマイルールを押し付けていますが、顧客がそのようなルールに従わなければならない理由はありませんし、終了するという意思表示は別の方法でも当然伝えられますから、無効といえます。

口頭でも申し出すれば民法上は解約が成立する

勝手な判断で職員が契約するのは大問題

今回は、窓口で対応した職員の判断で無料掲載に契約をしました。「責任者は忙しいし、どうせ無料掲載期間で終わらせればお金はかからないから、報告はしなくて良いだろう」という考えがあったそうです。施設に良かれと思っての行動でしたが、この場合、責任者の方は何も知らない状態で、問題が発覚した段階で事実確認を行うこととなります。これでは余計なことに時間を奪われてしまいます。

いくら人材不足という状況であっても、無料掲載だとしても、責任者への確認を行わずに掲載してはいけません。施設側がどのような職種で採用したいのか、どのような人物を欲しているのかを把握せずに、過去の求人情報の焼き直しで掲載したとして、もし、本来施設側が意図していない、正しくない求人情報であったとしたら採用することはできなくなります。

掲載する給与情報、待遇面に変更があったのに、それを知らずに掲載してしまった場合、双方合意のうえでの入社ができなくなります。

そして、何より責任者への確認をとらずに職員の判断で「契約」をすることが常態化してしまうと、今回のトラブル以上に大きな問題がいずれ発生することにもなるでしょう。施設として契約する場合、どのような業務フローで契約を行うべきなのかを予め設定し、職員間にも周知しておく必要があります。

 

「無料」というキーワードが出たら注意すること

求人広告に限らず「無料」を打ち出すサービスは多々あります。一般的に営利集団である企業が「無料」を打ち出す場合、何かしら得られるメリットがあるはずです。それが正当なものであれば何ら問題ありませんが、不当なものであれば、無料に安易に飛びついたこちら側が苦しめられることになってしまいます。

 

少し話は逸れますが、私たちが普段業務でも私生活でも使用しているSNSは、無料で使うことができます。様々な機能を持っておりとても重宝しますが、有料であってもおかしくないほどの機能を無料で使えるのは理由があるのです。

SNS側は無料でユーザーに使わせることによって、大量のユーザーを集めることができます。様々なユーザーが集まることで、そこに対して広告を出したい企業から広告費を支払ってもらえます。沢山人が集まれば、それだけ沢山広告を出したい企業が集まるので、良い機能を沢山用意してユーザーを集めるのです。私たちが無料でSNSを使える背景には、私たちに広告を見てもらいたい企業からの広告費を狙ったSNS側の思惑(メリット)があるからなのです。

「無料」の裏には理由がある

日頃の業務において、様々な業者とのやり取りが発生していることと思いますが、商談の中で「無料」というキーワードが出てきた場合は、契約する前にその業者の信頼性、提供されるサービスの中身、無料の背景にある相手側のメリットをよく検討してみてください。

 

求人情報を掲載したらすぐ採用できる時代ではない

既に述べましたが、現在はどの業界も人材不足で困っています。人材の採用合戦といっても過言ではない状況です。したがって求人情報を掲載したからといって、それで採用ができるとは言えない時代であるといっても良いでしょう。そんな状況ですので、求人情報掲載も大切ですが、加えてSNSの活用、ホームページ情報のアップデート、職場環境の改善なども重要な要素となります。特に若い世代はSNSやホームページなどのWEB情報に敏感ですし、どんな人でも実際に自分が働く職場がどういう環境か気になるはずなので、働きやすい職場環境を作りもしなければいけません。SNSは無料で始められますし、様々な情報を発信し続けられます。無料の求人広告掲載は魅力的な手段に見えるでしょうが、実は無料という観点ではSNS活用も魅力的な手段といえるのではないでしょうか。

人材採用において活用できる手段はいろいろとありますので、ぜひご検討してみてはいかがでしょうか。

「求人情報+α」で情報を出さないと採用は難しい時代

当事務所がサポートできること

昨今の人材採用難で、喉から手が出るほど人材が欲しい介護施設を狙って、求人広告の無料掲載を使った詐欺が増えてきています。もちろん詐欺ではない善良な会社もありますが、しっかりと見分けて適切な対応をとる必要があります。

喫緊の課題であるからこそ、魅力的な情報に急いで飛びつくことでトラブルになってしまうことが増えやすくなります。

介護福祉施設は、人と人が密に接する場であるからこそ、トラブルや悩みが発生しやすくなります。さらに「人材採用」という新たな問題まで取り組まなければいけません。

 

私たち「弁護士法人おかげさま」は、介護福祉分野に特化した弁護士法人ですので、トラブルへの対応はもちろんですが、トラブルが発生する前の段階で回避するということにも力を入れています。

今回ご紹介したような詐欺まがいのトラブルをはじめ、「これはどうしたら良いだろうか」という悩みや疑問に対し、適切なアドバイス、対応を致しますので、お気軽にご相談ください。

 

介護福祉に関するトラブル対応・予防の顧問弁護士

介護福祉は人の生命、健康を常に預かる分野であるため、質の高い対応を常に提供していくことが求められます。尊い仕事である半面、あらゆる分野のトラブルが発生しやすいという特徴があります。本コラムのテーマであった介護施設の人材採用難という弱みに付け込んだ詐欺まがいのトラブルまで関連してきます。ただでさえ忙しい中で、トラブル対応まで行うというのは相当大変なことです。

出来る限り「いつもの介護福祉サービスを提供する」ことを維持するために、当事務所では介護福祉分野のトラブル対応、予防の顧問弁護士プランをご用意しております。トラブル発生だけでなく、未然に防ぐためのご相談、所内研修、アドバイスを行っております。

既に顧問弁護士がいらっしゃる場合でも、セカンドオピニオンとして介護福祉分野におけるトラブル対応のために当事務所をご利用いただくことも可能です。

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