介護事業所におけるカスハラ・クレーム問題の類型と悪影響

近年、当事務所において最も多くご相談を受けるケースがカスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ぶべき「利用者・家族からの圧力」です。
通常のクレームとの境が曖昧であり、現場の多くの方々が「福祉に携わる者としてどこまでエスカレートする要求や主張を甘受すべきか」という悩みを抱えておられます。
本ページでは、カスハラの概要と傾向、クレームとの違いについてご紹介します。

そもそも「介護現場のカスタマーハラスメント」とは何なのか?

一般的にカスタマーハラスメントは、利用者やその家族からの過度なクレームや悪質な迷惑行為を指します。いわゆるセクシュアルハラスメント(セクハラ)もこれに含まれます。
正当な理由や根拠のあるクレームと違い、根拠のない言いがかりや一般の許容範囲を超えた過度な要求・主張またそのような振る舞いが該当します(罵詈雑言、暴力行為、長時間の拘束等)。
介護現場のカスタマーハラスメントとは、「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(株式会社三菱総合研究所、平成31年3月)によると、次の通り3つに分類されます。


1)身体的暴力 身体的な力を使って危害を及ぼす行為
2)精神的暴力 個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、貶めたりする行為
3)セクシュアルハラスメント 意に沿わない性的誘いかけ、好意的態度の要求など、性的ないやがらせ行為

介護現場は、利用者と職員が物理的に接するシーンが多いため、利用者から暴力やセクシュアルハラスメントも受けやすくなります。
また、利用者は施設内にいらっしゃいますが、利用者家族は施設内にいらっしゃらないため、普段の状況が分からず誤解が募り、或いは「滅多にない機会だから、厳しく言わなければ」と来所時に気持ちが高まってしまい、職員のミスを過度に咎めるといったトラブルの可能性が高くなります。
上記3点が介護現場におけるカスタマーハラスメントの代表例です。

クレームとの違いは?

クレームの元の意味は「正当な要求・主張」であり、カスハラは要求の根拠や理由が無いことが違いの一つです。正当な根拠があっても、その伝え方が恫喝的であり、或いは執拗に繰り返す等、それ自体が迷惑・危険な行為であればカスハラとなります。

介護現場で問題となるのはどんなケースなのか?

実際に問題となるケースは、筆者の経験では先に挙げた「定義2)精神的暴力」が圧倒的に多く、「利用者家族が職員のミスを過度に咎め立て、ターゲットにされた職員が疲弊してしまう」というものが典型的です。

利用者家族は施設内でご利用者の普段の様子を見ていないため、実際に発生した事象を正しく理解できない場合があります。自身の想像力や過去の体験をもとに理解することになるため、事態を深刻に捉える方も多くなりがちです。また、人によって感じ方に差が出るため、過剰な反応を示す方が現われてもおかしくありません。

施設事業所にとっては、クレームとカスハラの中間にあるグレーケースを、いかに初期の段階で見極め被害を最小に抑えていくかという姿勢が重要になります。

或いは、クレームとカスハラの見極め方法として「何らかのゴール(解決)を求めて主張や要求をする」か否かという視点(解決を求めていればクレーム扱い)も考えられます。対応の改善や再発防止等を明確に求めているのであれば、そのニーズを満たす対応をすることでクレームは収束しますが、そもそもそのような具体的な要求を設定せず、ただ批判や恫喝を繰り返すという言動は事業所としても対応しようがなく、カスハラに該当するといえるでしょう。

カスタマーハラスメントによる事業所のリスクとは?

一見、相手の言い分にも根拠があるようなケースでは、相手の怒りが治まるまで様子見を選択したり、場当たり的な対応をしてしまいがちです。しかし、現場で日々対応しなければならない職員は毎回過剰なストレスを受け、精神的に追い詰められ、気づけば限界を超えてうつ病等になってしまうこともあります。

状況を放置して従業員に対応を任せた状態を維持することは、次のような事業所経営に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。

①貴重な時間や人件費の流出

カスハラ対応によって、長時間不毛な対応を強いられることになります。職員が対応することによって、職員の貴重な労働時間が浪費されます。本来は介護サービスに時間を使うべきですし、重大な事故が発生しないように意識を傾けたり、別の生産的な業務に振り分けるべき労働力や時間を失うことになります。大変勿体ないことです。

②優秀な人材の疲弊・離職

クレームはゴール(目的)が存在するため、満たすべきポイントが明確です。しかし、カスハラは過度な迷惑行為や迷惑行為であるため、これらに対して誠実な職員が誠心誠意対応すると過度なストレスを受けうつ病に罹患などが発生してしまうリスクがあります。その結果、休職や退職になることも充分あり得ます。昨今は働き手不足です。ただでさえ働き手が集まりにくい業界であるため、大事な戦力が休職・退職となると人材確保の問題が発生します。

③利用者・ご家族との関係性悪化による風評被害・業績への影響

利用者・ご家族との問題が起きることで「あの事業所は良くない」等のうわさ・新規の入居者様の獲得が難しくなる等の風評被害が発生するリスクがあります。近年は口コミサイトが充実しており、口コミ投稿をする方が増えています。口コミを検索して判断する習慣が一般化しているため、風評被害は大きなリスクが発生します。求職者が事業所の口コミを見て応募するかどうかの判断をすることもあるため、利用者視点だけでなく求職者視点でも印象が悪くなります。

④訴訟案件への発展

発生した問題への対応を各現場の従業員へ任せることで問題が深刻化する恐れが発生します。本来は適切な交渉で解決できる問題が訴訟等に発展し長引いてしまう危険性があります。訴訟になることで手間が発生しますし、精神的な疲労も大きくなります。たとえこちら側に非が無いとしても、訴訟が発生している時点で印象が悪くなります。要らぬ争いをして得することはありません。

当事務所でサポートできること

カスハラにより事業所が疲弊し、ご利用者やそこで働く職員までもが影響を受けることにより、関与する全ての方が悲しい状況に陥ります。日々、誠実に介護・福祉事業を行う事業所が永続的に事業運営を行えるようにするためのアドバイス、ご支援を致します。
開業以降、介護・福祉の事業所様に特化した法律事務所として、カスハラからの組織防衛のために次のようなサポートをご提供可能です。

事業所内での研修

カスハラの傾向と対策は、介護の事業形態によって大きく異なります。また、介護と障害福祉サービスでも明確な違いがあります。そうした事業形態に完全対応した、現場にとって真に役立つ知識を内部研修によりご提供します。ズームや収録によるオンデマンド形式も可能なため、全職員を集める必要もありません。

相談窓口の設置

カスハラの中には、出発点として事業所側のミスや法的責任があるものも多く、一律に迷惑行為として切り捨てるわけにもいかない困難なケースも多々あります。本件において何がこちらの弱点であり、どこを主張できるか、また主張すべきかを豊富な知識経験を基に分析し、相談担当者や管理者等にその都度適切なアドバイスをご提供します。また、弊所が外部相談窓口の機能を担うことも可能です。

ハラスメント当事者への申し入れ等

相談対応等のバックアップのみならず、法人の代理人として弁護士が直接カスハラ当事者である利用者や家族と交渉等をすることも致します。「ご家族が恫喝や暴言ばかりでとても話にならない」という場合でも、相手が第三者的立場の、法律の専門家にバトンタッチすることで襟を正し別人のように冷静になるということも数多く経験してきました。
万一トラブルが訴訟に発展しても、訴訟代理人として最後まで法人や現場職員をお守りします。

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