もしも指定取消し処分を受けたら? 未然に防ぐ対処法と指定取消し処分を受けた場合の対処法

ニュース等で見聞きする「指定取消し」。

指定取消しに関して、事業者が知っておくべき基本的な情報は「泣く子も黙る!?介護・障害事業所への「最後通告」である「指定取消処分」の現実」でお伝えしました。

指定取消しは事業者の命取りになるほどの非常に恐ろしいペナルティです。しかしながら、毎年この指定取消しになる事業者が存在します。事業者としては日ごろから注意を払いたい事柄ではあるものの、どのようなことに意識をすれば良いか、よくある間違いについて知る機会はあまり無いのではないでしょうか。

そこで本記事では、指定取消しになった場合の影響、指定取消しに至る発端、よく発生する間違いについてご紹介します。

そもそもどのようなときに指定取消し処分を受けるのか

介護事業者の指定取消し処分要件は、介護保険法77条1項の1号〜13号で定められています。

しかし、法令だけでは具体的なイメージが持てない方もいるでしょう。ここでは、具体的な指定取消し処分事由を解説します。

不正請求

介護保険料の不正請求は、最も多い指定取消し事由です。令和2年度の指定取消し事由においては全体の27.2%と4分の1以上を占めています。

ちなみに不正請求が発覚した場合、介護保険料の指定取消しだけではなく、不正利得の介護報酬返還および課徴金の徴収処分を受けることになります。事実上、介護事業継続は不可能となるでしょう。

参照:全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料|厚生労働省

運営基準・人員基準違反

介護サービス事業所が、都道府県の条例で定める人員数を満たすことが出来なくなった場合および、運営基準に従った適正な運営が出来なくなった場合は、指定取消し処分を受ける可能性があります。

参考:介護保険法77条1項3号・4号|e-GOV法令検索

近年では、人手不足の影響で思うようにシフトを組めずに、一人の従業員の労働時間が長時間化するなどの問題も発生しています。しかしながら、職員数をごまかして虚偽の報告をした場合は、虚偽報告とあわせて指定取消し処分の事由となり得ます。

技能実習や特定技能制度を活用するなどして、余裕を持った人員体制を目指すことが求められます。

利用者の人格尊重義務違反(虐待・身体拘束など)

利用者に対する虐待や身体拘束は人格尊重義務違反にあたり、指定処分取消し事由に該当します。(介護保険法74条6項)

指定居宅サービス事業者は、要介護者の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、要介護者のため忠実にその職務を遂行しなければならない。

※居宅介護支援は81条6項

具体的には、次のような行為は人格尊重義務違反として認められます。

 

  • 医師の指示に反した薬の不投与
  • 他人の薬の流用
  • 床ずれの放置
  • 安全帯での身体拘束
  • 認知症利用者への性的暴行
  • 入居者への暴行

 

多くの場合は、知識不足による適切なケアの怠りや、マネジメントの不行き届きによるものが原因となっているため、運営指導で終わることがほとんどです。しかしながら、よほど悪質なケースは監査・指定取消し処分の対象となります。

その他の大規模な不祥事

上記以外で、事業者(および役員)が禁錮刑以上の刑に処された場合も指定取消し処分の対象となります。例としては、傷害罪、名誉毀損罪、運転過失致死傷罪、業務上過失致死傷罪、業務上横領罪などが挙げられます。

事業者以外でも、介護職員による窃盗や利用者に対する傷害、業務上過失致死、送迎時の交通事故(危険運転含む)なども、行政処分の対象となり得ます。

指定取消し処分に至る発端は運営指導以外にもある

指定取消しは行政による運営指導の結果から判断され行われることが多いのですが、運営指導以外でも指定取消しに至るケースが多々あります。

従業員による告発

例えば、従業員による告発が発端となるケースは多くあります。事業所で働く誠実な従業員の良心によって事態が明るみになり、行政側が動くという状況です。自身が働く職場に対して不満がある場合、入所者に対して負い目を感じる場合に告発に至るケースもあります。告発することによって従業員自身の立場が不利益を被る危険性もありますが、筆者がこれまで関与してきた中では、従業員による告発のケースは度々耳にします。

利用者家族による告発

また、入所者の家族からの告発によるものもあります。事業所側の不正や問題を知った段階で行政側に報告し発覚します。入所者家族は常時施設にいるわけではないので、不正や問題を把握する機会は少ない状況ですが、自身の家族が入所しているため、不正や問題を隠している事業所への不信感、不安から告発に至るケースがあります。

運営指導だけが指定取消しの発端ではありません。上記のように従業員、入所者家族からの告発が発端となるケースがあることを忘れないでください。

世間も立派なステークホルダー(利害関係者)

昨今、世間を賑わせる企業による不正問題などは、従業員や利用者からの告発が発端となるものがほとんどです。告発を受けて行政が動き、処分をくだされるような流れになっています。そして、この一連の流れに世間の目が向けられます。

大手中古車販売店が起こした不正問題では、利用者の自動車を故意に傷つけ、保険を不正に使用して不当な利益を得ていました。自動車を故意に傷つけることは言語道断ですが、世間の非難は保険を不正に使用していたことにも向けられました。これは、保険契約者が支払う保険料に影響したり、保険商品への不信感を募らせたからです。
この不正問題は、一見すると大手中古車販売店、利用者、保険会社の問題に思えますが、実は保険会社の契約者も絡んだ大きな問題となっているのです。
さらに街路樹伐採問題など、新たな問題も浮き彫りになり、公共財を傷つける事案も発生しました。
まさに最悪のパターンです。

この問題から得る教訓は、不正は絶対にしてはいけないことはもちろんのこと、「世間」がステークホルダー(利害関係者)であるということです。特に介護事業では税金が使われるため、まさに世間の目が厳しく注がれます。

ですので、「運営指導だけをクリアすれば問題無い」と高をくくって日々の業務を遂行していると、思わぬところが発端となり、指定取消しという重い処分を下されることになりかねません。

指定取消し処分になるほどの問題が発生する原因とは

指定取消し処分になるほどの問題は、運営指導、従業員による告発、利用者家族からの告発で判明することがほとんどです。しかし、その問題がどのような意図で発生していたかも理解する必要があります。

筆者のこれまでの経験では、指定取消し処分となった事業者の大半は、経営者層の知らないうちに問題が事業所内で発生していました。

役員や従業員によって、意図的に組織ぐるみで不正や問題を発生させたことも無いわけではありませんが、発生している事案のほとんどは「知らないうちに現場で大問題が存在していた」というわけです。

日頃から誠実に事業運営をしているつもりでも、経営者や責任者の知らないところで問題が発生し、それらを見過ごしたまま運営指導や告発によって明るみになっています。

指定取消し処分を受けてしまったときの対処法

もし指定取消し処分を受けてしまったら、介護事業者には為す術はないのでしょうか。ここでは、指定取消し処分を受けてしまったときの対処方法について解説します。

審査請求

指定取消し処分に対して不服がある場合、介護事業者は処分庁である市区町村に対して「審査請求」を行うことが可能です。(行政不服審査法)

審査請求が行われると、市区町村に設置された行政不服審査会が、行政処分に至る手続の適正性や、法令解釈を含めた処分庁の判断の妥当性の審査を行ないます(行政不服審査法67条)。なお、審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3月以内に、審査請求先とされている行政庁に対してしなければなりません。

なお、処分又は裁決があった日の翌日から起算して1年を経過したときは、その後に処分又は裁決があったことを知った場合であっても、原則として、不服申立てをすることができません。

行政不服審査会では、審査請求書や証拠書面などをもとに審理を行います。その結果、審査請求に理由があると判断した場合は、採決により当該取り消し等の処分が取り消されます。(認容裁決)

この審査請求は、次に紹介する行政訴訟と異なり行政の内部での審査機関であり、いわば「内輪」のジャッジに過ぎません。なお、審査請求自体は、対象となった処分の効力を停止させるものではないため、継続中は介護報酬が請求できない状態に変わりはありません。受けた処分の効力を停止させるためには、審査請求に併せて審査庁に対して「執行停止の申立て」をする必要があります。

その意味では、訴訟よりさらに勝ち目が薄いことが多いといえ、最初から行政訴訟を提起した方が早い場合も多いといえるでしょう。

ところが、平成31年2月18日、横須賀市にて医療法人の運営するデイと居宅に出された指定取消し処分が、審査請求の結果取り消されたという横須賀市の事例があります。

これは、元々当該事業所が人員基準違反と運営基準違反であるとして指定が取り消されました。これに対し運営法人が市に不服を申し立てました。

裁決の主な理由は、本市が平成28年2月に事業所の虚偽の指定申請を認識してから平成30年3月に処分を行うまでの期間が長期にわたることが、裁量権の逸脱濫用にあたり違法な処分であると判断されたためです。

参考:介護保険法に基づく指定居宅サービス事業者等の指定の取消処分の取り消しについて(横須賀市)

取消訴訟

認容裁決とは逆に、審査請求に理由がないと判断と判断された場合は、棄却裁決が出されます。棄却裁決が出された場合、あるいは審査請求をせず直接、介護事業者は裁判所に対して行政処分の取消訴訟(行政訴訟)を提起することもできます。

取消訴訟での請求が認められれば、取消し処分が取り消されます。これも不服審査と同様、極めてハードルは高いといえますが、筆者の知る限りでは過去に一件、指定取消し処分が見事取り消された裁判例が存在します。

那覇地方裁判所判決/平成22年(行ウ)第7号(平成24年12月26日)

原告会社の運営するデイサービスに対し、沖縄市が「サービス費を不正に請求している可能性がある」旨の情報提供を受けたことをきっかけに監査に入り、主に①「生活相談員が1以上確保されていない」②「常勤の管理者が置かれていない」③「通所介護を行っていないにもかかわらず,通所介護を行ったように虚偽の記録を作成し,居宅介護サービス費を不正に請求した」との理由から指定を取消しました。

これに対し裁判所は、①②については「人員補充により改善済みとなっている過去の事由に基づくものであって,今後,同様の事態が繰り返されるおそれがあるとみられる状況にあるとも解し難い」、③は「(利用者が)いったんは通所介護を拒否したが,その後に気が変わってその提供を受けた事実があった可能性もあながち否定できない」「単なる過誤の可能性を否定できず,不正請求があったと断じることはできない」等として原告の主張を認め、一方で被告市の調査につき「聴き取りはその経緯や状況が明らかでない」「被告が,家族に対し,原告が通所介護計画の内容を利用者又はその家族に説明して,同意を得たことがあるか否かという調査を行った形跡もなく、…裁量を逸脱するものといわざるを得ない。」と判示しました。

このように、法の番人である裁判所からみれば、一見正当に見える行政の調査や指導も公正さを欠くものであり、結論として取り消し処分自体が無効とされることもあるのです。あまりに理不尽であると思われる指導監査を受けたときは、担当官の発言を録音したり、経緯の詳細を文章化しておくなど証拠化することでのちの裁判で有利になることがあります。

当事務所でサポートできること

本記事では、介護事業所の指定取消し処分について、指定取消し処分の概要・流れから、指定取消し処分を受けた場合の対処方法まで解説しました。指定取消し処分を受けてしまえば、事実上介護事業を行うことは出来なくなります。

指定取消し処分を受けた後も、審査請求や取消訴訟を行うこともできますが、正当性を示すだけの書面の用意をはじめ多くの労力・時間を割かなければなりません。仮にそこまで行ったとしても、処分が取り消されないこともあります。

そのため、日常から行政処分を受けないように、余裕を持った人員体制を構築することや、現場のマネジメントを徹底することが大切です。余程悪質でなければ、いきなり取消し処分を受けることはほとんどありません。

運営指導で指摘された時点で改善するなど、問題が小さいうちに解消することが大きなトラブルを防ぐことにつながりますので、できることから行っていきましょう。

「弁護士法人おかげさま」は、介護・福祉現場で生じる様々な問題・トラブルの解決代行に特化しています。指定取消し処分に合わないための対策を法律の観点からサポートします。事業所運営にお悩みをお持ちの際は、まずは無料相談からお問い合わせください。

従業員や幹部に対するコンプライアンス研修の実施

働いている従業員や幹部が不正や問題に気づけるように訓練することで、まだ大きな問題となる前の芽の段階で、リスクを排除することができます。職種別、役職別などでコンプライアンス研修を実施し、コンプライアンスに対する意識を高めるサポートを定期的に実施いたします。

定期的な内部会議への参画とアドバイスの実施

日頃の内部会議へ参画し、現場が抱えている問題点や悩みに対するアドバイスを行います。また、会議内容を把握して、現場や関与者に気づかれていない不正や問題の芽を早期に摘むためのチェックを行います。

各種規定の策定

不正や問題を防ぐこと、気づいた場合に報告すること、それらのルールや運用方針など、事業所内の規定を策定する支援を行います。これまで全国の事業所で様々な支援をしてきた当事務所の実績、知見を活かし、規定策定を実現します。

運営指導通知が届いた際の対策法のアドバイスや指導日の立ち合い

運営指導実施に関する通知が届いた際に、その後の運営指導実施までに行うべき対策方をアドバイスいたします。また、運営指導当日には現地で立会い、介護・福祉分野専門の法律のプロとして行政側の運営指導体制、指摘事項をチェックいたします。

介護・福祉業界に特化した当事務所にお気軽にご相談ください

当事務所では介護・福祉業界に特化してサポートをさせていただいており、現在は100社を超える介護事業所様との顧問契約を締結しております。指定取消しになると、処分を覆すことは極めて困難となります。しかし、指定取消し処分に至る多くの理由は、問題に気付けなかった、ルールを知らなかったという「ついついやってしまったこと」となっています。

つまり、高い確率で未然に防ぐことができるのです。

とはいえ、日々の業務をこなしながら、指定取消しになりえる芽を早めに摘むのは難しいのではないでしょうか。

そこで、当事務所のような介護・福祉業界を熟知した法律のプロがお役に立てると考えております。

指定取消しは事業者にとって生命線を絶たれる一大事になるので、気になる経営者、責任者の方は、ぜひ、一度お問合せください。

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