身体拘束可否の判断基準と介護現場で注意すべきこと

身体拘束可否の判断基準と介護現場で注意すべきこと

ご利用者の身体拘束は大変深刻かつ難しい問題です。虐待防止のページでも解説したように、現状では違法な「身体拘束=身体的虐待」と見做される運用となっているところ、程度を越えた拘束は虐待の問題にもなるというリスクがあります。

しかし、日々の介護業務の中では、やむを得ず身体拘束を実施せねばならない場面があります。善良な奉仕の精神では安易に身体拘束をする選択はしたくないのが本心ですが、ご利用者の安全、生命を守るためにやむを得ない場合は致し方ありません。

出来る限り身体拘束はしたくない、しかし、どうしてもせねばならない。
そんな時の基本的な判断基準と注意点をお伝えしたいと思います。

 

「理想が先走り、身体拘束完全0を目指す」ことによる弊害とは

まず先にお伝えしておかなければいけないことがあります。身体拘束を安易に選択することは避けなければなりません。しかし、だからといって、身体拘束を文字通りゼロにしなければならないと頑なに運用することは、却って以下のような弊害をもたらすおそれがあります。

 

転倒等の自己が繰り返されても、「人手が足りず、光速も禁じ手なのだから仕方ない」と現状を是認してしまう。

 

例えば車椅子からの転落事故が繰り返され、次に同じ事故が起きれば命が危ぶまれるというようなときでも、「一次的に安全ベルトをする」という選択肢すら浮かばないのであればご利用者の命は守れないかもしれません。身体拘束が絶対の正解であるとはいえませんが、少なくとも安全確保の方策の一つとして検討することはすべきといえるでしょう。

 

現場の判断でこっそりor勝手に拘束を行ってしまう(夜間、居室のドアにつっかい棒をかけ利用者を閉じ込め、そのことを報告しない等)。


これは介護従事者に都合の良いように身体拘束をするケースです。介護従事者の負担を減らす、仕事しやすいようにするために、自らが判断してこっそりと行うケースと言えます。ご利用者のことを考えず、独善的な手段となってしまい、ご利用者の尊厳、権利を侵害することになってしまいます。

 

介護従事者が陥りがちな誤り①

 

 

「隠れ身体拘束」(食事中に利用者が暴れたとき、とっさに押さえつける等)に気づかず、看過してしまう(人権意識の鈍麻)。

前述の介護従事者の都合とは異なり、介護現場で発生した事態に対してとった行動が身体拘束に該当してしまうケースです。とっさの判断でとった行動故に身体拘束にあたることに気付けない場合があります。

 

介護従事者が陥りがちな誤り②

 

「見た目に明らかな物理的拘束さえ無ければ良い」と考え、薬漬けにしてしまう。

これは「ドラッグロック」といい、厚生労働省の作成したガイドライン「身体拘束0への手引き」にも身体拘束の例として挙げられています(「行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる」)。ところが、肝心の「いかなる場合に「過剰に」服用させたと認定すべきか」がはっきりと示されていないのです。

筆者が電話確認したところ、「医師の処方があり、その服用量を守りさえすれば過剰とはいえない」というのが現在の厚労省の見解でしたが、これには大きな疑義があります。少なくとも、学会の発出した薬物療法に関するガイドライン等を基準とすべきと考えます。

 

介護従事者が陥りがちな誤り③

 

身体拘束の可否の判断基準とは?

では、いかなる場合に身体拘束が例外的に認められるのでしょうか。裏返せば、どのようなときに「このような拘束は、例え安全目的であろうとやってはいけない」と判断すべきでしょうか。

厚生労働省令にある運営基準によれば「当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」ということですが、「身体拘束0への手引き」によれば以下の3つの要件に整理されます。この3要件が最重要ですので、現場職員の方はぜひ頭に入れておきましょう。

身体拘束の可否の判断基準

 

1.切迫性

利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと

 

2.非代替性

身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと

 

3.一時性

身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

 

以下、事例に沿って考えてみましょう。

事例.チューブを自己抜去してしまうご利用者

ご利用者が体に取り付けられた胃ろうなどのチューブを嫌がり抜いてしまうとして、これを防止するため両手にミトンを装着することは許されるでしょうか。

まず「切迫性」については、チューブを抜去すると生命にかかわるということであればこの要件は満たすといえそうです。

次に「非代替性」ですが、チューブの位置をずらしご利用者から見えないようにしたり、不快感を和らげるといった工夫をすることで抜こうとする行為がおさまるのであれば、そうすべきです。腹巻きのようなベルトを腹部に巻くことで、チューブに触れないようにできるかもしれません。そうした工夫も無効ということであれば、他に代替可能性がないということでこの要件もクリアしたといえます。

最後に「一時性」ですが、一瞬でもミトンを外すとチューブを抜いてしまうおそれがあるのであれば、24時間365日付けていなければならないということになりかねません。それでは一時的といえず、この要件を満たさずアウトということになります。

 

しかし、終末期にあるご利用者や医療依存度の高い方を優先的に受け入れるような施設では、命に関わることであり背に腹は代えられない…ということもあるかもしれません。人権保障の観点からは望ましいことではないのですが、もしやむを得ず、例えば入所後1週間は混乱や興奮が激しいのでミトンをして様子をみるといった場合には、職員が見守ることのできる時間帯を見つけ、その間だけは拘束を解除する等、少しでも解除できないかという方向で検討していくことが重要です。

 

 

家族の「同意」さえあればOK?

現場で最も多い誤解が、「利用者のご家族が同意すれば、身体拘束をしてもよい」という理解です。これは明らかな誤りであり、仮に家族が「事故を起こさないよう、母(利用者)を拘束してほしい」などと施設に要望したとしても、無条件で従ってはなりません。家族や関係者の同意は、飽くまで三要件を満たした上で、知らされていなかったことによるトラブル等を回避するために行うものであり、正当化される要件ではないことに注意が必要です。

 もっとも、身体拘束は大抵の場合ご利用者の安全確保(リスクマネジメント)と表裏一体ですから、「拘束できない等といって、もし事故が起きたら責任取れるのか」等とご家族から問い詰められることもあるでしょう。そのようなときは、「それでも、身体拘束はご利用者の尊厳を奪い人権を侵害する行為であるため、介護施設においては原則として認められていないのです。事故が起きた場合に備え損害保険に加入しておりますが、自由に活動して頂くことからどうしても一定確率で転倒等ノ事故は発生しうることは、ご理解頂く必要があります。」等と説得すべきと考えます。

 

現場で最も見落としやすいポイントはコレです

こうした要件の検討と同じくらい、重要なことが「記録」です。運営基準は次の通り求めています。

指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。

(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第11条第5項)

 

やむを得ず身体拘束を実施する場合は、その分慎重かつ詳細に記録を付けていきます。検討委員会の議事録、日々の拘束実施に関する記録、アセスメントの結果等を、三要件を意識しながら定期的に記録しますが、最も落としやすいのは「入所者の心身の状況」という要件です。省令にこのように書かれている以上、オーダーとして記録に必ず盛り込むようにしましょう。

 

また拘束は、導入する段階は慎重ですが、解除する際に検討がおろそかになりがちです。一時性の要件で検討したように、少しでも拘束を減らすことができないか常に模索し続けることが大切ですが、拘束を解除することで当然のことですが転倒等のリスクは高まります。良かれと思って解除したところ、その時間帯に転倒してしまい、そのことを知らされていなかったご家族から「なぜ勝手に解除したのか」と責任追及されてしまった…というケースもありました。

身体拘束はただ解除すれば良いというわけではなく、必ず表裏一体のテーマであるリスクマネジメントの要素も睨みつつ検討し、ご家族と都度連携するようにしましょう。

 

介護現場で最も見落としやすいポイント

 

身体拘束の適正化の取り組み

平成30年度の介護報酬改定の際、身体拘束廃止未実施減算が改定されました。介護施設(介護保険施設、特定入所者生活介護、グループホーム等)では身体拘束廃止に向けた以下の取り組みが義務化されており、これら4つのうち一つでも実施しないと、利用者全員について所定単位数から1日あたり10パーセントの報酬減算となります。

 

1 身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること

2 身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録すること

3 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他従業者に周知徹底を図ること

4 介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に(年2回以上、及び新規採用時)に実施すること

 

指針に関する概要

これは、恐らく殆どの施設において既に整備されていることと思います。念の為盛り込むべき項目を列挙しておきます。

 

① 施設(事業所)における身体的拘束等の適正化に関する基本的考え方

② 身体拘束廃止委員会その他施設(事業所)内の組織に関する事項

③ 身体的拘束等の適正化のための職員研修に関する基本方針

④ 施設内で発生した身体的拘束等の報告方法等のための方策に関する基本方針

⑤ 身体的拘束等発生時の対応に関する基本方針

⑥ 入所者(入居者・利用者)等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針

⑦ その他身体的拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針

 

身体拘束の記録

前述したとおりですが、介護日誌等と違い雛形や記載例があまり出回っておらず、実際にどのような書式を用い、何をどこまで書けば良いかセオリーが確立していない施設も多いかもしれません。そのようなニーズに、弁護士法人おかげさまは対応できます。

 

当事務所のサポート内容

おかげさま代表弁護士 外岡潤

弁護士法人おかげさまは、介護福祉の現場トラブル解決に特化した法律事務所として、これまで多数の身体拘束事例のご相談を受け、トラブルを解決して参りました。代表の外岡弁護士は顧問先の身体拘束適正化委員会外部委員を務め、また身体拘束に関する著作を多数出版しており、この問題のエキスパートであるといえます。

そのような豊富な経験を基に、現場職員向けの身体拘束に関する内部研修をはじめ、委員会の開催方法や記録の取り方、ご家族への説明方法などについて網羅的にアドバイスし、必要に応じ書式等の雛形をご提供、或いは貴施設にフィットする規定を作成することができます。

 

未然の問題発生防止に向けた顧問契約

「そもそも身体拘束に当たるのか、当たるとして例外的に許されるのか」については、本稿で解説したように非常に判断が難しい場合もあります。拘束をすれば人権侵害となり、拘束しなければ事故が起きてしまう…そのようなジレンマに立たされたとき、是非外部の相談機関である顧問弁護士サービスをご検討ください。些細なお悩みや疑問でも、大事故に繋がる可能性がある以上は速やかに解決しておくべきです。いつでも弁護士に相談できる環境を整備することで、施設全体が安心して本来の業務に集中できるようになります。

代表弁護士外岡潤からのメッセージ

 

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