カスハラに対する世の中の注目は高まっています。ニュースでもカスハラというキーワードを目にすることが増えました。カスハラは企業やお店、行政機関だけで発生するものではなく、医療機関や介護・障害施設でも発生しています。医療機関や介護施設は、そこを利用する方の生命や健康を丸ごと預かる立場ですので、些細なことでも指摘を受け、それが後にカスハラに発展する可能性が高い職場です。いわば「カスハラの芽」が現場に沢山生じている状態といえるでしょう。
出来るだけカスハラを避けたい、被害に遭いたくない。そう思う方々に向けて、本コラムでは「カスハラの芽」を指摘し、利用者や家族による「要注意」な言動や振る舞いをご紹介します。現場のカスハラ予防・回避にお役立てください。
・カスハラに発展する可能性がある言動の特徴や傾向を知ることができます
・事業所、施設内でカスハラを把握するコツを知ることができます
・早い段階でカスハラを察知して予防・回避したい方
・カスハラに至る可能性がある特徴を知りたい方
・カスハラを把握するポイントを知りたい方
目次
サービス種別と対象者で異なるカスハラの割合
2019年の厚労省の調査によると、介護業界で多いハラスメントは身体的暴力と精神的暴力でした。ご利用者本人からのカスハラに関しては、サービス種別で割合が異なり、ご利用者ご家族からのカスハラでは、サービス種別に関わらず精神的暴力が多いという結果です。
やや古い調査データですが、現在でもこの割合は大きく変わらないでしょう。現在は人手不足で介護現場もギリギリの人数で運営しているところもあり、カスハラの数は全体的に増加傾向であると推測できます。
カスハラは当事者では判断しづらい
例えばミスをして利用者から「あなた、この仕事向いていないんじゃないの」と言われた時、何を感じるか、どの程度精神的ダメージを受けるかについては人それぞれで異なります。人によってはひどく傷つき「カスハラを受けた」と感じることもあれば、「自分がいけないのだから、このくらい言われて当たり前」と思うタフな人もいるでしょう。
また、カスハラに当たるとしてもその行為が「何回目でカスハラになる」といった規定がありません。このように、当事者からすると自分が言われたこと、されたことを「カスハラである」と断言していいのか、いまいち確証が持てない…という実情があるものと思います。
更に言えば、「カスハラと主張したら白い目で見られるのではないか」「カスハラを相談したら自意識過剰だと言われるのではないか」等と不安を感じてしまい、折角相談窓口を設けても、情報が上がってこないこともあるでしょう。
この問題は一筋縄ではいかず、特に「言葉の暴力」であるカスハラはグレーゾーンが広いと言えます。言い換えれば、「カスハラとまでは言い切れずとも放置すべきではない」カスハラの芽ともいうべき事象が多数存在するということです。これらを丁寧に見つけ早期に対処していくことが、安心安全に働ける現場をつくるポイントです。
これが「カスハラの芽」の特徴だ
筆者がこれまで何件もカスハラトラブル解決をしてきた経験からいうと、カスハラ加害者になる可能性がある方には、いくつか兆候が見受けられます。いわば「黄色信号」のようなものですが、以下のような言動が見られた場合は、その後カスハラに発展する可能性が高いといえ、早期の介入が必要となります。
●要求が細かい
初回面談や契約の前後で出る要求が細かい場合は要注意です。特養に入所するときなどは、ご家族もようやく順番が回ってきて「御の字」と感じており、何でもハイハイと流してしまい逆に施設側としては不安になる…という話を聞きますが、そのような例に当てはまらず、最初から遠慮なしに「うちの親は先生と呼んでほしい」「これしか食べない」「水は必ず一日1500cc飲ませること」といった要求を投げかけてくる方がいます。これに無条件で応じていると、いずれ対応しきれなくなり破綻するでしょう。
●こだわりが強い
先の要素と似ていますが、些細な事でも「これは、こうでないとダメだ」「当然こうすべきでしょう」といった表現で押し付けてくる場合です。
こうした人は怖いもの知らずで、相手が医師であろうとお構いなしに自分の見解を貫こうとします。この場合は、看取り方針を決める時などで必ず揉めますし、カスハラに発展する可能性があります。
●話を聞いていない
看取りや終末期など、重要な話し合いの場面でも話を理解されていないような場合です。アドバイスをして、一見頷いて聞いているようで後から見当はずれのクレームを付けてくる可能性があります。対策として、敢えて承諾書などをつくりサインしてもらうといったことが考えられます。
●思い込みが強い
自分の理解や認識、記憶が絶対であり、こちらが記録をしっかりとっていても平気で「そんなことは言っていない」と言い張ります。これに対抗するには秘密録音しておくことが最も有効ですが、普段から全て録音することは難しく、対策が困難な部類といえるでしょう。
●無責任
ご家族の場合ですが、日頃からほとんど施設を訪問しない、職員にはすぐ電話に出たりメール返信を求めるのに自分は守らないというような場合です。相手や周囲の都合を考えない傾向があり、カスハラへ発展する可能性がうかがえます。
●高圧的
職員に対して「〇〇〇しろ」「〇〇〇だと言ったでしょ」といった命令口調で接し、少しでもできていないと判断すると「役立たず」「それでもプロか」等と過剰に罵る場合です。自分が偉い、正しい、職員は自分より下という認識を持っている可能性があり、普段の関わり方がカスハラであるといえます。
●感情が不安定
日によって機嫌のいいときと悪いときの差が激しく、気まぐれでクレームをつけたり要求する人は要注意です。「本当はいい人だから」と自分に言い聞かせ、我慢を重ねてしまうことがあるため特に早い段階で見抜く必要があるといえるでしょう。
●無作法
相手を呼び捨てにしたり「お前」「おい」と呼んだり、小突く、呼びつけるといった礼儀を弁えない人がいます。その他舌打ちをしたり、挨拶をしない、無視するといった態度がみられます。こうした人の言動もカスハラに相当する可能性が高いといえます。
●約束を守らない
約束した時間、決めたことを守れない場合です。1回や2回であれば、うっかり失念したのだろうと理解できますが、何度も頻繁に破り、悪びれる様子が無い場合は注意が必要です。利用料の滞納も併発しやすく、未収金回収と並行してカスハラ対策が必要となる場合があります。
●話が長く無駄が多い
心配性であったり要求が細かく多いような利用者・家族は、職員を捕まえて1,2時間も喋っていたり、長文のメールを何通も送ってくるということがあります。他者の時間を奪っている認識がなく、自己中心的な傾向があるといえるでしょう。しかし、話自体は理由や必要性が認められるため無碍に断ったり切り上げることができません。実はこのタイプが事業所からみて最も対策が難しいといえます。
以上に限られませんが、主要なカスハラの芽の傾向をご紹介しました。
事業所内での相談・報告・共有できる場作りが大切
断定が難しく明確な基準が無いカスハラですが、まずは現場から些細な情報でも広く漏らさずに集約することが第一歩となります。
事業所や施設が職員のカスハラ被害を把握する方法としては、多い順に「本人からの報告を受ける」「会議等を通じて把握する」「職員の苦情窓口・相談窓口で把握する」となっています。
本人から如何にカスハラの事実を引き出せるかが課題となりますが、この結果を見るに報・連・相しやすい関係性や場所があることで把握しやすくなっていると考えられます。
日頃からコミュニケーションをとりやすい職場づくりを意識する、情報共有しやすい場を作る、報告・相談を受け付ける場を作ることで、一人で傷つく職員を減らすことに繋がるはずです。カスハラに限らず、業務に関する悩みや問題の相談ができる事業所、施設であれば、カスハラ対策がしやすくなるといえるでしょう。また、受け入れ方としてもいきなり「相談」という形にするのではなく、フィードバックや対処を必ずしも求めない「報告」という形も併用するといった工夫が効果的です。
職員の採用コストとカスハラ対策のコスト、どちらがお得?
カスハラが原因で心身に不調をきたしたり、休職や離職になる職員がいるのも事実です。これが事業所、施設にとっては大きな問題となります。体調を崩す、休職や離職が増える事業所や施設で働くのを不安に思う他の職員が増えるでしょうし、不足した人材を補充するための採用活動も必要となります。特に採用に関しては、昨今の人材不足で大きなコストとなります。転職サイトや求人誌にお金をかけても採用できない時代になりました。職員の採用にかける労力、採用コストとカスハラ対策にかかる労力とコストを考えた場合、果たしてどちらが少なくお得でしょうか。
例えば職員を採用する場合、事業所や施設のホームページに求人情報を掲載していただけではほぼ採用はできません。そこで求人サイトへ求人情報を出す、求人広告を出す、紹介会社へ依頼するなどの手段を講じるわけですが、この場合、掲載料や紹介料が発生します。最近では求人サイトに掲載した情報だけでは採用が出来ないため、より施設のことを知っていただくために採用に特化した専用サイトを設ける事業所も出て来ています。この場合は採用特化サイトの制作費、維持費が発生します。その結果、図にあるような費用が発生します。この費用に加えて、取り組みにかかる労力、人件費が発生します。もちろんのことですが、これらの採用の取り組みをしても採用できないということも、今のご時世では充分あり得ます。
職員採用が難しいので、今いる人材を失わないようにする戦略が事業所、施設運営では重要な戦略となるでしょう。そのためには、毎回イチからスタートとなる人材採用よりも、積み上げながら体制を作れるカスハラ対策の方が事業所や施設運営にとっては、重要な経営課題となるのではないでしょうか。
ただし、カスハラ対策に取り組む場合、自分たちだけで対策を実施すれば、もちろんお金はかかりません。ただし、通常業務に加えて対策に取り組むための労力、人件費がかかりますし、慣れないことに取り組むのでストレスや不安が生じやすくなります。また、専門家が不在の状態で対策を進めていけば、抜け漏れが発生する可能性があります。ただ、何も取り組まないよりは職員をカスハラから守れる可能性が高まるでしょう。ですので、介護分野に強い専門家を味方につけて介護現場を主戦場とする事業所側と第三者として的確かつ冷静にアドバイスできる専門家の両輪でカスハラ対策を実施することが、コストパフォーマンス良く、そして長く良い組織を維持できる秘訣になるはずです。
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介護福祉事業は人と人の関わりが密で、日々の生活をサポートする仕事ですので、いつ、どんなトラブルが起きるか分かりません。ご利用者とそのご家族が関係しますが、そのどちらもカスハラ加害者になる可能性があります。
仕事をしていると、明らかにカスハラと断定しにくいことも出てくるでしょう。「これはカスハラじゃないのか?」「こういう時はどうしたら良いだろう?」と不安になったり、迷ったりすることも多々あると思います。
不安や疑問をすぐに解決することで、トラブルの芽を摘むことに繋がることもあります。そういう時に役立つのが弁護士です。
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