これまでカスハラの傾向と対策について、様々な視点、切り口で連続して解説してきました。カスハラが厄介な理由としては、被害者が「これはカスハラだ」と認識しにくい場合があることと、相手の立場が事業所にとって「お客様」であるため、どうしても心理的に指摘し難いという場合が挙げられます。
だからと言ってカスハラを受けても我慢して泣き寝入りしてしまっては職員が傷つき、モチベーションの低下、離職、休職などが発生し、やがては事業所全体に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
そうならないために事業所とご利用者が利用前に契約書を交わして、ご利用後の生活におけるトラブル発生時にスムーズに解決できるようにしているはずなのですが…
実は、この契約書がトラブルを更にこじらせる事態になる場合があるのをご存知でしたか?
本来、契約書は取引をする前に両者が予め権利と義務にまつわるルールを決めて合意し、契約後はこれに従って進めていくためのルールブックのようなものです。しかし、そのルール自体に不備や欠陥があった場合、自分の首を絞めてしまうことになりかねません。これが契約書の怖いところです。
この事態がカスハラ問題に関して起こった場合、事業所側は下手をするとカスハラ問題の苦しみから永久に解放されない、ということになりかねません。そして、契約書類は一度定めると定番となり、日々新たな契約が量産されていきます。その数だけリスクも量産されるということです。
早い段階で意識を変えて契約書の重要性を理解し、見直すきっかけを作ることをお勧めします。
本コラムでは、ご利用者と交わす契約書の重要性や、実際に存在する致命的なルール、契約書を正しく戦略的に直す方法について解説します。
・カスハラ対策としての契約書見直しの重要性
・契約書の要注意!条項と改定例
・契約書改定の際に注意すべきポイント
・カスハラ対策に取り組んでいる施設・事業所
・契約書の内容を長年更新することなく使用している事業所
・これまでにカスハラトラブルで悩まされたことがある事業所
目次
カスハラによる事業所へのダメージ
カスハラが施設事業所にもたらすリスクについては、これまでコラムシリーズで繰り返しお伝えしてきましたが、一番大きな損失が人的資本へのダメージでしょう。
例えば、ご利用者やご家族の過剰な要求に応じざるを得ない状況に追い込まれた結果、本来行うべき業務以外に業務が増えてしまい、事業所全体で非効率な業務遂行となってしまいます。ただでさえ人員が少ない、確保しづらい状況で、余計な業務が増えると現場へかかる負荷が計り知れないものになります。
カスハラによって職員が心理的なストレスを抱えることも大きな問題です。過度なストレスは離職率の増加やパフォーマンスの低下を招き、結果としてうつ病にり患して退職するなど、人材不足に陥るリスクも高まります。特に介護福祉現場では従業員一人ひとりの役割が大きいため、一人の離職が事業運営に大きな影響を及ぼす可能性があります。
契約書がカスハラ防止に果たす役割
こうしたリスクに対処するために、契約書は非常に重要なツールとなります。
契約書は、事業所とご利用者の関係を法的に整理するものであり、契約内容に基づいた取引が行われることを保証します。カスハラが発生した場合、契約書に適切な条項が盛り込まれていれば、法的に正当な対応を取ることができ、ご利用者やご家族とのトラブルを未然に防げる可能性が高まります。
カスハラ対策として最重要な条項が「事業所からの契約解除」です。いざというときいつでも解除し、「縁を切る」ことができる状態にしておくことが戦略上極めて重要となります。契約書はリスクを事前に回避するためのマストの手段であり、「自分たちを守るためのワクチン」のようなものともいえるでしょう。
ところが、これほど重要であるにも拘わらず、介護福祉の業界では契約書はあまり重視されていないという実態があるようです。筆者は弁護士として数多くの契約書、重説類をチェックしてきましたが、トラブルを想定して具体的に作り込んでいる契約書類を見ることは殆どありません。どれも似たり寄ったりであり、中身は利用者保護、事業所に義務を課す一方的な条項ばかり…という印象です。
これには理由があり、一重に介護保険制度、障害福祉サービスという公的な枠組みの中でルールを定めなければならないということによるのでしょう。2000年以降、「措置から契約へ」のスローガンと共に介護サービスは契約を一件一件取り交わし、契約書に基づき提供するという取り決めになりました。しかし現場では、ご利用者は高齢であり制度も複雑、かつ一律公平な内容であることから、生き馬の目を抜くような何でもありのビジネスの世界とは異なり、「取りあえず行政が出している雛形でいいや」という選択をする事業所が大多数でした。地域における横並び意識もあり、ユニークな契約書は作りづらいという現場の空気感もあることでしょう。
しかし本来、契約書の定め方は当事者の自由であり、極端に利用者の権利利益を制限するようなものでない限り、トラブル回避のために条項をカスタマイズすることは何も問題ないのです。
契約書は、決して「周りがそうしているからやる」という儀礼的なものではなく、トラブルの予防・回避の観点から極めて重要なものです。
その重要性を示す、分かりやすい事例を別コラムで解説しておりますので、ぜひこちらもご覧いただければと思います。契約書の重要性を理解せずに経営を行うことで見舞われる悩ましい事態を解説しております。
契約書の見直しはカスハラ対策の大前提
カスハラ対策を意識的に行う事業所は増えていますが、カスハラ発生時の対応方法、カスハラ被害情報の収集方法など現場に着目しているものが多いようです。それはそれで素晴らしいことなのですが、悪質なカスハラから脱出するには、契約解除という最終手段に出なければいけないという現実もあります。その際は契約書の規定に立ち返らなければならないということを忘れないでください。
契約書に不備があれば、事業所側が苦しむことになってしまいます。契約書を戦略的に見直すこと、改訂することがカスハラ対策の大前提であると認識して取り組まれると良いでしょう。
契約書見直しこそ法的専門知識を持つ弁護士の出番
契約書見直しを事業所が行う場合、自分たちだけで行うには限界があるかもしれません。まず、文章量が大変多く読み込むのに時間がかかります。事業所にとって不利になるような状態を見抜いたり、付け加えるべき文言を適切に記載するのも難易度が高い作業です。何より法律が関わってきますので、契約書の見直しにおいては、弁護士へ依頼することを検討してみてはいかがでしょうか。
法律に違反することなく、事業所にとって不利な条項を実戦的見地から排し、かつご利用者と問題無く締結できる契約書を作成することができるでしょう。
介護・福祉特化の弁護士法人おかげさまは、現場のカスハラ対策としての契約書見直し実績が多数あります。
契約書の見直しは弁護士にとって得意分野ですが、介護・福祉分野のカスハラ対策における契約書見直しは、一般企業とは違った性質があります。
介護・福祉分野では、契約書の見直しを行う場合、介護保険法や社会福祉法などの法律が関連し、ご利用者の人権を尊重することに意識を向けなければいけません。一般企業の場合は労働法などの法律は関係するものの、介護保険法や社会福祉法のような特別な法律が関わることが無く、比較的自由に契約解除に踏み切れます。
一般企業の場合、契約解除をしても利用者は別のサービス提供者を探すことがしやすい特性がありますが、介護・福祉分野は、ご利用者の生活や人生に関わるサービス提供をしているので、契約解除をした場合の影響度は極めて大きくなり、契約解除ハードルは相当高くなります。その分契約書は慎重かつ専門性を総動員して改訂していく必要があります。
当事務所は開設以来、介護・福祉に特化した弁護士法人ですので、知識も経験値も豊富にございます。介護・福祉業界における特有の慣習、考え方のことも熟知しておりますので、
カスハラ対策としての契約書見直しの際は当事務所へご相談ください。
事業所を支えるための2つの法務サービスをご用意しております
介護福祉特化の弁護士法人として事業所の経営者、職員を支えるために2つの法務サービスをご用意しました。
1.カスハラ問題特化の「カスハラ御守りサービス」
事業所で発生するカスハラ問題に特化したサービスです。カスハラは既に述べた通り、人によってとらえ方が異なるので断定するのが難しいという特徴があります。それ故に本来はまさしくカスハラであるにもかかわらず、本人が躊躇して相談しない、報告しないという事態が発生しています。つまり、職員の独断で抱え込んでしまっており、事業所側がいくら対応する姿勢であっても、スタート地点にすら立てないということになりかねません。
そこで、これらを打開すべく、2024年より本サービスを展開することとしました。
詳しいサービス内容は下記ボタンよりお進みいただくとご理解いただけると思いますが、本サービスの特徴を簡潔に挙げます。
・カスハラ問題に関して弁護士が相談対応をします。
・月2回、1回1時間で介護福祉特化の弁護士がサポートします。
・カスハラに関するご相談は何でもご相談いただけます。
・例えば「人の粗さがしをするご利用者家族によるカスハラへの対応法を知りたい」などの応対に対するお悩みに対し、具体的な応対方法、注意点をお伝えします。
・カスハラ相談窓口のご担当者様の駆け込み寺としてご利用いただくことも可能です。
・カスハラ問題に悩まない組織作りのアドバイスもお任せください。
・メール、電話、オンライン会議などやり取りの仕方はご自由にお選びいただけます。
※ご訪問による面談の場合は別途費用が発生します。
・夜間や休日などにカスハラ問題が発生してもご連絡いただいて構いません。
詳しいサービス内容、お申し込み、お申込み前のご相談などは下記ボタンよりお進みください。
2.事業所全体のすべての相談に対応する「おかげさま顧問弁護士サービス」
カスハラに限らず事業所で発生するあらゆるトラブルへの相談対応はもちろん、トラブル発生前の段階で関与し未然に防ぐための防御壁としてお役に立つためのサービスです。
介護福祉事業は人と人の関わりが密で、日々の生活をサポートする仕事ですので、いつ、どんなトラブルが起きるか分かりません。ご利用者とそのご家族が関係してきます。そのどちらもカスハラ加害者になる可能性があります。
仕事をしていると、明らかにカスハラと断定しにくいことも出てくるでしょう。「これはカスハラじゃないのか?」「こういう時はどうしたら良いだろう?」と不安になったり、迷ったりすることも多々あると思います。
不安や疑問をすぐに解決することで、トラブルの芽を摘むことに繋がることもあります。そういう時に役立つのが弁護士です。
できるだけ早い段階で安心して業務を行えるようにしたい。そういう想いを持っている弁護士法人おかげさまでは、現場の「困った」「不安だ「どうしよう」をすぐに相談ができる「おかげさま法務サービス」をご用意しました。
「おかげさま顧問弁護士サービス」の特長は以下の通りです。
●いつでもすぐに連絡してご相談いただけます
●電話、メール、どちらでもご連絡可能です
●ほんの些細な「困った」「不安だ」「どうしよう」でも承ります
●トラブルになりそうな予感がする時のご相談もお任せください
●経営者、施設長、職員どなたのご相談も承ります
●作成書類のチェックも行います
●全国で150を超えるご支援先の実績、知見があります
●当事務所は開業以来「介護福祉特化の弁護士法人」です
「おかげさま顧問弁護士サービス」に関する詳しいご案内はこちらからご確認いただけます。
また、毎月3法人様限定で「おかげさま顧問弁護士サービス」に関する無料面談もご用意しておりますので、特にご検討中の方はご利用ください。