「サービス中に機嫌が悪くなった利用者から、突然木刀で殴打された」
「事細かにケアの方法を指示され、少しでも間違うと「役立たず!」と怒鳴られた」
…信じられないような話ですが、実際に介護現場から聞いた話です。暴言、恫喝、過大要求、揚げ足取り、高圧的命令…そのバリエーションは実に多彩ですが、日々、全国の現場職員がいわれのない言葉の暴力(ハラスメント)の被害に遭っています。
介護・福祉業界におけるカスハラ(カスタマーハラスメント)が今、深刻な問題となっています。カスハラとは、平たくいえば利用者やその家族からの職員に対する嫌がらせを意味しますが、その被害申告やご相談が当事務所にも数多く寄せられており、件数は増加する一方です。
2024年5月にテレビ朝日で放送されたANNの調査によれば、介護従事者の約8割が大なり小なり何らかのカスハラを受けた経験があるという結果も出ているほどで、介護従事者を悩ませる大きな問題となっています。超高齢社会に突入した日本は、この先も介護の重要性は増す一方ですが、それに伴い介護従事者の確保は益々困難となっていきます。派遣や紹介会社の手も借りなければ人材確保がままならない事業所が多い中、カスハラにより大事な戦力が休職、離職等で失われてしまってはたまったものではありません。
2024年、国はカスハラ対策を義務化させる方針を出しましたが、本コラム執筆時点(2024年8月)ではまだ具体的な施策については公表されていません。そこで、カスハラ対策を表面上の取り組みではなく事業における重要な課題と位置づけ事業運営を行うために、これから連続してカスハラの実態や介護業界のおける対策方法について解説して参ります。
当事務所のコラムではカスハラに関して様々な角度から論じたコラムを複数投稿しておりますので、本コラム以外もぜひご覧いただき、事業にお役立ていただけますと幸いです。
・介護業界のおけるカスハラの概要が分かります
・カスハラ対策に取り組む際の基本的な姿勢やマインドが分かります
・介護現場で発生するカスハラへの対応のポイントが分かります
・これからカスハラ対策に本格的に取り組もうと考えている方
・事業所で発生するカスハラの実態に危機感を抱いている方
・現場で起きた様々な事例から、対策のイメージを掴みたい方
目次
介護業界と一般企業のカスハラの違い?
一般企業やお店でもカスハラは存在しますが、介護福祉業界のカスハラとはどのような違いがあるでしょうか。介護福祉のカスハラ対策に専門的に携わってきた当事務所だからこそ分かる、根本的な違いを解説しましょう。
・顧客との関係が深く、長い
介護福祉は、ご利用者側と利用契約を締結し、継続的にサービスを提供することが前提となります。施設の場合はご利用者の生活のすべてに関わることになるので、「ご利用者の人生を丸ごと預かる」という濃厚な関係性になります。そのため、ミスや誤解、行き違いというトラブルの種も生じやすくなります。ご利用者側は「福祉なのだから/お金を払っているのだからこれくらいやって当然」という意識が芽生えやすくなり、横柄な態度や度を越した要求が出てしまうこともあるでしょう。このように閉じられた、かつ継続的な関係性の中でグラデーション状にさまざまな要求や主張、トラブルが生じるため、どこからカスハラと認定すべきか明確な線引きが難しく、またカスハラと認定しても契約を解除し縁を切ることが難しいという、介護福祉ならではの難しさがあります。
一方で介護福祉以外の業態の場合は、基本的にサービスを提供するときの顧客との接触が一時的、来店時だけとなるので、カスハラのパターンもある程度決まっており対策が立てやすいと言えます。また、一時的な接触であることから縁を切ることも比較的容易です。
このように商売の相手、売り手と買い手という関係性が淡泊であることは、介護福祉業界との大きな違いです。ただ、鉄道会社や飲食店などはその分不特定多数の多種多様な顧客を相手としなければならず、その中には非常に逸脱した性格の人も含まれ、その意味で難易度が高いといえるでしょう。
●サービス料のほぼ全額が公費で賄われ、行政の干渉が強い
介護保険の利用料は原則1割負担であり、障害福祉サービスは自己負担割合が無く、全額が公費で賄われます。これが意味するところは、この産業はいわゆる「制度ビジネス」であり、事業所や施設は国や都道府県、市町村の指揮命令に服さざるを得ないという点です。ここが、基本的に自由に制度設計し対策も練ることができる一般企業と異なる最大のポイントです。
収入の仕組みを考えれば、公費から支給されるのであればいわゆる取りっぱぐれがなく、利用者の負担もないのでウィンウィンであると思われるかもしれません。
しかし、利用者からすれば負担が少ないほど逆に少しでも食費などが値上がりすると敏感に反応し、また介護度が上がることで負担額が増加したことで、例えば「保険料を多く払うんだから、もっと手厚くサービスしてほしい」といった不満に繋がりやすいといえます。また、行政は事業所側からの契約解除について運営基準やガイドライン等で指導するなど、契約自由の原則があるといえど事業所が好き勝手にルールを決められる状況ではありません。そもそもの行政の立ち位置として、どちらかというと社会的弱者と認識されやすい利用者の味方という印象があり、トラブルがこじれると利用者や家族が行政に苦情を申し立て、行政から事業所に質問や改善勧告が出る…といった流れが一般的です。こうした外部機関の存在にも気を配らなければならない点が、一般企業との大きな違いといえるでしょう。
●論点や主張の整理がしづらい
介護・福祉サービスはご利用者の生活に密着してサービス提供をするため、課題やミスのポイントも世帯ごとに全く違い、トータルでみれば多岐に渡ります。入浴介助に排泄介助、食事の味付けから洗濯の仕方…細かいものまで含めれば、様々なトラブルの素が出て来るでしょう。一方で一般企業やお店の場合は、売り物や納期、価格、提供方法など方法が限定的なので、整理しやすくカスハラが生じるポイントも対策を立てやすくなっています。
●ご利用者の健康状態
ご利用者は高齢者や障害者で、医療依存度が高い方も多くいらっしゃいます。そうなると突発的に体調を崩したり、容体が急変することもあります。人の健康や命を預かる以上、当然その責任は重大ですが、転倒や急変などのリスクの高い方を優先的に受け入れる業態である以上、規模が大きくなればなるほど予期せぬトラブルや、それがカスハラに発展するケースも増えていきます。命を守る、預かるという点で、そのサービスの「重さ」が一般企業やお店と異なっており、カスハラも深刻なものになりやすいといえます。
カスハラをする加害者はどんな人?
カスハラをする利用者や家族は一体、どんな人なのでしょうか。
いくつかの心理的な理由や背景が考えられます。以下が全てではありませんが、主要なポイントを列挙します。どういう理由でカスハラが生まれるかを知ることで、その後の対応に活かせることがあるので、知識として知っておいて損は無いでしょう。
●ストレス発散
日頃の生活や人間関係でのストレス、ご家族の場合は家庭内介護や仕事でのストレスなどがあり、それを発散するために事業所の職員へカスハラをして発散している場合が考えられます。執拗に責め立ててストレスを解消し、困る職員を見て快楽を得ているとも言えます。
●「お客様は神様だ」という考え
一般企業や店舗で発生するカスハラの場合と同じですが、「こちらはお金をはらってやっている」という認識があるため、自身が立場が上であるとして職員らにカスハラをしてしまう心理です。年配の人や地域によっては、男尊女卑の思想や職業差別的な意識もあるかもしれません。対象外のサービスを当然のこととして要求する、土下座や過度な謝罪、理事長の呼び出しを求める、利用料の返金を要求するなどがあります。
●「福祉なら当然」という考え
介護福祉の分野ならではですが、「福祉」=自己犠牲、と曲解している人も多いようです。換言すれば「権利意識」ともいえますが、「自分は社会的弱者なのだから当然特別扱いされるべきだ」といった思いがある人もいるかもしれません。
「お宅、それでも福祉なの」「福祉なんだからこれくらいやって当然だ」といった言動は、奉仕の精神に付けこみ過剰な要求をしたり、自己犠牲を要求する心理の表れといえます。
●被害妄想
施設入所のご利用者の場合、ご家族は普段の生活を逐一見ることはできません。ですので、自身の想像が入るため、ネガティブに捉えることで実際よりも悪い状況を想像し、過剰に反応する場合があります。
例えば施設の入居者とそのご家族の事例。コロナ禍の中でずっと面会できず、ようやく会えたと思ったら親がやせこけていた…(ちゃんと食べさせてもらっていなんじゃないか、虐待を受けたのでは)と家族は思い込み、実際にそうに違いない!と施設を責めるような場合が典型的です。
●歪んだ自己主張・承認欲求
承認欲求が強く、リタイア後でも周囲から尊敬されたいという思いから職員を罵倒したり、「自分が指導してやる」と高圧的に命令やダメ出しをするパターンです。社会と繋がりたいという思いが別の建設的な方法で満たされれば解消されるかもしれませんが、「教えてやる」という姿勢で臨まれると職員にとっては過度なプレッシャーになります。
これが「社会人としてなってない」「常識を知らないのか」等と人格攻撃に発展すれば、明らかにカスハラと認定すべき事象になります。
●一つのことに固執する性格
精神的傾向の表れとして、一つのことが気になり固執してしまうことがカスハラになる場合もあります。「自分は絶対この順番でケアをしてほしい」といった拘りを職員に押し付け、時にはメモに手順を事細かに書き出して職員に読み上げさせたり、いきなりテスト(クイズ)を出して職員を困らせるようなケースです。話が長く、堂々巡りとなり、些末な言い間違いや誤解を根掘り葉掘り追及するという場合もこれに当てはまり、これらは一見して方法も不当とは言えず、内容も一応理由があるものですから真性のカスハラとは認め難いという難しさがあります。これは新種のカスハラ、ソフトカスハラともいうべき厄介なパターンですが、実はこのようなときこそ弁護士の出番といえるのです。ソフトカスハラについてはまた別のコラムで解説します。
認知症のご利用者のカスハラはどうみるべきか
認知症の利用者や知的障害の利用者も、職員に対しセクハラや暴言をすることがあります。こうした人たちは、通常のやり方で注意や警告をしても理解されず、その人の特殊な状態があるので再発防止が望めないという問題があります。このような場合でも、問題行動をカスハラと認定し対処していくべきでしょうか。
これは悩ましいことですが、厚労省のガイドラインによると、認知症や精神疾患が原因の場合は基本的にカスハラとみなすべきではないという見解です。しかし、職員が被害を受けていることに変わりはないため、守るという措置を講じることは可能であり、必要です。例えば以下のような対策が考えられます。
①ご家族へ状況をお伝えし、こちらが困っていることを伝え、ご家族からの説得等の措置をお願いする
ご家族に協力を依頼し、身内だからこそ出来る対応、利用者に対して言えることに期待します。利用者が興奮して暴言を吐くといった場合は、外部の精神科を受診させて頂き、薬の導入で改善を図るということも考えられます。残念ながら経験上、多くの場合、ご利用者側は聞き入れないことが多いのですが、事業所側としてはこのような取り組みをせぬまま手を拱いていたり、一足飛びに次のステップに進むのは怠慢になりかねません。丁寧なプロセスをたどるために、この段取りは必ず実施したほうが良いでしょう。そして、その経緯を詳しく記録しておいてください。
②現場における証拠を集める
暴言や暴力などカスハラに関するご利用者の様子を具体的に記録してください。録音や録画ができるのであればしても問題はありません。出来ない場合は、記憶が鮮明なうちに問題となる行動についてメモを残し記録します。その際、「酷い暴言を浴びた」というような曖昧な表現ではなく、「お前の介護は下手だから、さっさと辞めろ!」などと言われた場合は、出来る限り一言一句言われたことをそのまま記録するようにしてください。曖昧な表現は、究極的には裁判官が信用してくれず、証拠の価値が低くなってしまいます。
③証拠がある程度集まったら契約解除
①の段階で申し入れの結果カスハラの状況が改善されれば問題ありませんが、①の取り組みでも改善
が見られない場合は事業所・施設側からの契約解除に踏み切らざるを得ない場合もあります。ただし、認知症者等による問題行動は前述のとおりそもそもカスハラと認められないという前提があるため、これを理由として信頼関係破壊などと主張することは事業所側に不利となることも多く、慎重な判断と綿密な準備が必須となります。例えば認知症の男性利用者が職員に暴力を振るうからといって、現場でのアプローチの仕方の工夫や向精神薬といった対策を何ら講じないまま解除に踏み切ると、「介護の専門職としてなすべき工夫や努力を怠った」と指摘されかねません。
現場ではよくあるパターンですが、実は最も難易度が高いといえるでしょう。
介護・福祉業界はカスハラが生じやすい?
いうまでもなく、介護福祉、医療の世界は人と人の連携で成り立っています。その根底には奉仕の気持ち、思い遣りなど優しい気持ちがあり、それが暖かい介護の世界を醸成していると考えています。しかしながら一方で、優しい気持ちがカスハラの餌食になりやすいという側面が確かにあります。
また介護福祉のサービスは社会的インフラですので、先述したように社会保険が適用されます。事業所や施設は経営面で国に手厚く守られているといえる反面、一般企業とは異なる事情が生じているともいえます。
そのような特殊性から、介護福祉の領域ではカスハラが生じやすいといえるでしょう。先ほどの、一般におけるカスハラとの違いとは違う切り口で解説します。
●「福祉だから当然だ!」という誤った認識
いわゆる「権利意識」、自分の権利なのだからこれくらいしてもらって当然だ」という意識が根強い方がいます。「福祉だから何でもやらなければならない」という誤った認識があるのかもしれません。実は、サービスを提供する側も福祉という概念についてそのように捉えており、どこまでも相手の主張、要求に合わせるものであると誤解している場合もあります。そのような組み合わせになると、際限なく要求がエスカレートし、まるで奴隷のように職員を顎で使うという状況に陥ってしまいます。
●「自分達の税金で食わせてやっている」という不遜な意識
特養や包括などは特にそうですが、事業所・施設の運営は大部分が公費で賄われています。その出所は元をたどれば国民の税金と保険料ですが、それ故に利用者側の役所に対する不満、憤り、妬みといった感情が生じやすいといえるでしょう。「税金泥棒」とまで罵られることは無いにしても、「公費を無駄遣いするな」「もっと市民に還元しろ」といった厳しい目が向けられる傾向はあるように思われます。
●利用者や家族が比較的高齢
明確な因果関係を示す統計等が存在する訳ではありませんが、医学的知見によれば一般に人体は、高齢化により脳の前頭葉が収縮し、判断力や感情の抑制力が低下するといわれています。少しの刺激でオーバーに反応し、喜怒哀楽を急激に変化させる「感情失禁」という状態もみられます。
そして、高齢者介護では特に、顧客に相当する人は高齢者であり、その家族も中高年であることが殆どです。このように顧客の年齢層が高齢に偏っているということも、カスハラが生じやすい一つの要因であるといえるかもしれません。
カスハラ対策しないと生じる事業所のリスク
冒頭でもお伝えしたように、カスハラによって職員が離職するなど、戦力を削がれる事態が事業所にとって最大のリスクとなります。現場で矢面に立たされる職員はカスハラに対する恐怖心から仕事への意欲を失ったり、精神的に追い詰められて休職や離職になることもあり得ます。
介護は人の力で成り立っており、自動化、デジタル活用をしにくい業界です。これまでみてきたようにカスハラのバリエーションも豊富であり、発生原因も多様なため「人が全て」の現場で完全にハラスメントを抑止することは不可能に近いといえるでしょう。
しかし、そうかといって現状を放置していいはずがありません。カスハラは、全産業の中でもとりわけ人手不足が深刻な介護福祉の分野において、最優先の経営課題と言っても過言ではありません。
カスハラがもたらす事業所への悪影響
●職員のモチベーションが下がる
「またカスハラを受けるかもしれない」という恐怖心を抱いた状態で利用者や家族と向き合うことほど苦痛なことはありません。この状態で仕事をすることは不可能ないし著しく困難です。カスハラをする家族の番号が表示されると皆身構えてしまい、誰も出ようとせずそのことで余計に追及される…といった悪循環が全国の現場で起きています。
●職員が休職・離職する
恐怖心が募った状態で仕事をすることで精神的に追い詰められます。その結果、うつ病になったり、カスハラを受けた時と同じ状態になった瞬間に過去のフラッシュバックが起き動けなくなることもあります。これでは働けないのでやむを得ず休職したり、燃え尽きて退職する方も出てきます。なお、勤務中に受けたカスハラ被害によりうつ病等になった場合、労災が適用され、雇用主である法人は慰謝料を求められる可能性も出てきます。
●事業継続の危険性が高まる
職員が不足すると運営基準所定の人員配置基準を満たせなくなり、事業継続の危険性が高まります。
●採用コストが上がる
職員の休職、離職によって職員数が減少すると、採用活動を実施しなければいけません。ハローワークなど無償で採用できるチャンスも減っており、紹介会社に依頼すると都度数百万円の採用コストが発生します。
サービス類型別、カスハラの特徴
一口にカスハラといっても、事業形態ごとに傾向と対策は異なります。以下、①こちらが相手の本拠地(アウェー)に訪問する場合と、②こちらの本拠地(ホーム)に通って頂く場合、③ホームに入居頂く場合に分けて解説します。
①アウェーの場合
訪問介護看護、ケアマネ、福祉用具などが該当します。
相手の「城」に一人で訪問するので、どうしても気持ち的には相手の方が優位となり、あれこれと指図されたり、独特なルールを押し付けられ少しでも間違うと怒られる…といったトラブルが典型的です。
またヘルパーは一人で仕事をすることが多く、ご利用者と二人きりになることが多いため、カスハラやセクハラをはじめとする被害を受ける可能性が高くなります。
また、他に証人となる人がいないため、「ヘルパーにお金をとられた」「ヘルパーが訪問しなかった、サービスをしなかった」といった濡れ衣を着せられるリスクもあります。この点については、法的には被害を受けたと主張する側が主張・立証する責任を負うところ、ヘルパー側が「やっていない」ことを証明しなければならないということはありませんので、安心して頂ければと思います。しかし、そもそもそのような疑いをかけられないよう事前に予防策を講じることは可能です。その対策については別途コラムやユーチューブで解説したいと思います。
②ホームに通う場合
デイサービス、デイケア、ショートステイ等が該当します。デイ等はご利用者宅へ職員がお迎えに行き通うことになるため、送迎時における過度な要求、悪質なクレームが増えやすくなります。例えば「服が汚れていた」「遅刻した」などのクレームが出やすくなります。事業所側に落ち度があれば仕方ありませんが、酷い状態になってくると「約束の時間より3分も遅れてきた」「汚れた靴で玄関に入るな」といったクレーム(カスハラ)になってきます。
③ホームに入居する場合
特養や老健、グループホーム、有料老人ホームなどのケースです。特養や介護付き有料へ入所する方は要介護度が高いため、強度の認知症の方がいらっしゃる割合が高いです。そのためBPSDによる暴力、暴言、セクハラが起きやすくなります。また、ご利用者の容体が急変して入院したり、最悪の場合は死亡したり、転倒による骨折などが発生することで、ご家族が疑心暗鬼になるリスクがあります。その結果、「虐待をしている」「お前みたいな無能な職員がいるから転倒するんだ」といったカスハラが発生しやすくなります。利用者の命に関わる深刻なトラブル、カスハラが多いと言えるでしょう。
グループホームは比較的自由度が高い認知症利用者の集団生活の場となっており、先述の特養の場合と同じようにBPSDによる暴力、暴言、セクハラが起きやすくなります。また特徴は、人数が9人と少数に限定されていることです。人間関係が固定されるので、ハラスメントもエスカレートしやすいという難しさがあります。
介護事業所向けカスハラ対策法
当然のことですが、カスハラは職員が我慢すべきことではありません。カスハラは職員に対するれっきとした人権侵害であり、本来許されないことを事業所全体で理解することが第一歩です。
介護業務は奉仕の精神、福祉の精神を持った職員が多く集まっています。ですので、「多少は我慢しなければ」という気持ちが、他の業界よりも強く作用しやすい業界でもあります。しかしその結果カスハラが横行し真面目で優秀な職員に辞められてしまっては元も子もありません。基礎知識として「奉仕や福祉の精神が通用しない人もおり、相手の言動や態度によって対応を変える必要がある」ということを浸透させておく必要があります。
●カスハラ対策マニュアルを策定する
カスハラ対策に関して一定の対策マニュアルがあれば、組織全体として応対を平準化でき、カスハラが起きたときに迷わなくなります。マニュアルですので、できるだけ網羅的な対策とすべきですが、認知症者による場合や「入居者は悪くないがその家族がカスハラをしており困っている」というイレギュラーなケースなど、対策が難しいケースもあります。そこで最低限、以下のような項目についてマニュアル化を検討してみてください。
- カスハラに対する基本姿勢(人権侵害であり、許されないこと)
- カスハラの定義、分類、見分け方
- カスハラと思われる事態が発生した際の情報共有の仕方
- 事象の評価(カスハラ認定)法
- 事象への対処の仕方
- 最終的な解決法(契約解除など)
●カスハラ相談窓口を設置する
職員がカスハラを実際に受けた場合に報告、相談できる窓口を事業所内に設けると良いでしょう。早期にカスハラを把握し対応することにつながり、事態を悪化させるリスクが減ります。担当者を設置して、相談を受け付ける仕組みを決めてください。
もっといえば、現場では自分が経験した出来事が果たしてカスハラといえるかどうか、自信がないケースも多々あります。特に取り組みを始めた初期段階では、相談すべきか分からず躊躇することもあるでしょう。そこで、特に最初の段階では「相談」だけでなく「報告」してもらう、という間口の設定にすることをお勧めします。カスハラかどうか分からずとも、自分が怖いと感じたこと、不快なこと、嫌だったこと、引っ掛かった出来事を、例えばウェブ上のチャット式掲示板などに何でも報告してもらいます。本部としては、その一つ一つを丁寧に分析し、現場におけるカスハラの芽を小まめに摘んでいくよう心掛けましょう。
●情報の伝達方法を決める
カスハラ相談窓口では、相談を受付後どのように伝達・共有するかも決めておく必要があります。例えば相談窓口の担当者が相談者の上司でない場合、折角相談がなされても、当の上司が事態を把握しないままでは解決に繋がりません。
また、責任者までカスハラの事実を報告し、組織としてどのような対応をとるかの検討をすることも必要となります。これらに対応するべく、特に一定程度以上の大きな組織は、情報の共有の仕組みも作り込む必要があります。
●カスハラ対応研修を実施する
カスハラに関する知識があっても、実際に現場で被害に遭った場合に適切な対応ができなければいけません。事業所ごとにカスハラの特徴は異なるので、対応方法も事業所ごとに異なります。カスハラ加害者と職員の役割を分けてロールプレイング方式で実践するなどしてカスハラ対応の研修を実施すると良いでしょう。下記ユーチューブ動画もご活用ください。
●予防策を講じる
カスハラ対策マニュアルをアレンジし、ホームページや重説(重要事項説明書)等、顧客に対して「当法人はカスハラを許さない」という意思表明をします。その他、施設内の掲示板にカスハラ防止をよびかけるポスターを掲示する等、間接的に顧客に働きかけ教育することが効果的です。
事業継続しながら対応・対策できるか?
介護サービス提供は毎日行われるものがほとんどです。入所の場合は24時間365日関わる必要があり、事業を止めることはできません。サービスを止めないことを最優先としつつ、日々次々と起こるカスハラへの対応・対策をしなければなりません。しかしそれらをしっかりやろうと思うと、それなりの労力、負担が発生し現場にかかる負荷も相当なものです。だからと言って対応・対策をしないとなると、カスハラに悩まされたままになってしまいます。いかに業務を止めずに対応・対策を実施するかが課題となります。そこで、浮上するのが弁護士などの外部機関に依頼するという策です。
はたして弁護士へ依頼することはメリットがあるのでしょうか。
弁護士に相談・依頼すれば事業所の負担はかなり減る
実は、事業所や施設のカスハラ問題を解決する最も効果的な方法が、弁護士による各種サービスであるといえます。
詳しくは別のコラムで改めて解説しますが、筆者自身がこれまで15年かけて数多くのカスハラ相談を受け対応する中で、「現場だけでは限界があり、トラブル解決の専門家である弁護士に依頼した方が合理的、効果的である」と確信するに至りました。
「餅は餅屋」という言葉があります。例えは適切ではないかもしれませんが、苛烈なカスハラをやめない利用者・家族はスズメバチのような恐ろしさ、厄介さがあります。その巣を駆除することは、素人には大変危険を伴うものです。「そんな危険なことを代行してくれるサービスがこの世にあるはずがない」と思われた方には朗報です。実は弁護士が、裁判以外の場面でも、率先して予防のためにカスハラと向き合い根本的解決を図ってくれます。
事業所運営は毎日のことですし、どんな状況でもサービス提供を止められない業界なので、本業以外の負担は大きなリスクになりかねません。カスハラ予防・対策では弁護士を活用するという策をぜひ知っていただけたらと思います。
カスハラに関する続きのコラムは「3. 覚えておきたいカスハラ発生時の初動対応法」からご覧ください。
厄介な相手ほど弁護士の出番です。法律を根拠に冷静に対処できる弁護士の対応が早期に事態を打開できるでしょう。
そのための「おかげさま顧問弁護士サービス」をご用意しております。
介護福祉事業は人と人の関わりが密で、日々の生活をサポートする仕事ですので、いつ、どんなトラブルが起きるか分かりません。トラブルまで至らなくても「これって大丈夫なのかな?」「こういう時はどうしたら良いだろう?」と不安になったり、迷ったりすることも多々あると思います。
人員も限られている中で、いちいち時間を使って調べたり、考えたりする余裕は無いはずです。不安や疑問をすぐに解決することで、トラブルの芽を摘むことに繋がることもあります。
できるだけ早い段階で安心して業務を行えるようにしたい。そういう想いを持っている弁護士法人おかげさまでは、現場の「困った」「不安だ」「どうしよう」をすぐに相談ができる「おかげさま顧問弁護士サービス」をご用意しました。
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●トラブルになりそうな予感がする時のご相談もお任せください
●経営者、施設長、職員どなたのご相談も承ります
●作成書類のチェックも行います
●全国で150を超えるご支援先の実績、知見があります
●当事務所は開業以来「介護福祉特化の弁護士法人」です
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