【指導前】運営指導が決まったら準備するべきこと・知っておくべきこと

カテゴリ
運営指導 監査対策
公開日
2025.06.30
【指導前】運営指導が決まったら準備すべきこと 知っておくべきこと

運営指導の実施が決まったら行政から通知が来ますが、事業所は実施日までに運営指導の準備・対策をすることになります。

特に初めて運営指導を受ける場合は不安や緊張も大きくなると思いますが、「運営指導を乗り切るポイントは何だろう」「どんな心構えで、どこに注意すべきだろう」という疑問がわくのではないでしょうか。

通知が届いてから実施までは通常1か月程度あるため、しっかり対策できますが、日常業務をこなしながらとなると余裕はあまり無いはずです。出来るだけ効率的かつ効果的な対策が必要となります。

そこで、本コラムでは、運営指導実施が決まって対策をする段階で、準備するべきことや知っておくべきことについて解説します。

運営指導対策は誰がすべき?

運営指導の対応は、事業所全体の信頼性と将来を左右する重要な仕事です。しかも、その該当範囲が事業全体に及ぶため、「法人代表者(管理者)と運営に深く関わる責任者(例:業務執行理事や事務長など)が中心となって対応すべき」といえます。

運営指導では「運営体制の整備状況」や「法令遵守の実態」「報酬請求の妥当性」など、単なる介護現場のケア技術にとどまらない、経営・管理職レベルの確認が求められます。そのため、法人としての意思決定権限を持つ管理者や、帳票・記録管理・職員配置・請求業務など実務に精通している責任者がいなければ、適切に説明・対応することが困難です。

また、行政の担当者からは、「誰がどの業務を把握しているのか」「責任の所在が明確になっているか」といった点もチェックされます。担当者不在や、「この件は別の人に聞かないとわかりません」という回答が続くと、運営体制そのものへの不信感を招くことになりかねません。

したがって、事前の準備段階から、どの職員がどの範囲を担当し、当日誰が出席して説明するのかを明確に決めておくことが大切です。理想的なのは、管理者を中心に以下のような体制を組むことです。

  • 管理者(または法人代表):全体の統括・方針説明
  • サービス提供責任者・介護リーダー:ケア提供状況、記録管理についての説明
  • 事務長・経理担当:報酬請求、書類整備、職員配置の実務対応
  • 看護師・機能訓練指導員など:専門職による加算算定などの根拠説明(必要に応じて)

このように複数人が連携しながら準備・当日対応を行うことで、よりスムーズかつ的確な対応が可能になります。とはいえ、職員全員が対応に慣れているわけではないので、事前に想定問答や簡単なロールプレイを行っておくこともおすすめです。

運営指導対応は管理者だけの仕事じゃない 担当者が持ち場で対応する

なお、中小規模の事業所では管理者が生活相談員など他業務と兼務していることも多く、実質的に一人に権限とタスクが集中してしまっていることもあるでしょう。そのような場合は一人の負担がオーバータスクになりがちなため、外部の専門家(顧問弁護士、社会保険労務士、顧問税理士など)にサポートを依頼することも一つの手です。特に書類整備や加算要件の確認など、第三者の視点でチェックしてもらうことで、見落としを防ぐことができます。

意外とある!担当官の「抜き打ちヒアリング」

これは実際にあることですが、担当官が事業所内を巡回視察するとき等に、現場職員をつかまえてそれとなく質問をし、実態を探ろうとすることがあります。

例えば担当官が「研修を行っていますか?」という質問を事業所責任者に行い「実施しています」と回答を得られても、違うタイミングで別の職員に近づき「この施設では研修は実施されていますか?」とヒアリングし確認しようとすることがあります。

また、現場職員に突然質問を投げかけ、虐待や身体拘束等の重要な研修をきちんと受講し、知識を身に着けているかをテストすることもあります。

実際にあった事例で、有る事業所では身体拘束適正化研修を全職員に向け実施し記録をしていました。ところが担当官は現場にいた一般職員を捕まえ「身体拘束をやむなく実施する場合の3要件は?」と問題を出したのです。その職員は突然のことに慌てしどろもどろになってしまい、「研修の実施や周知の要件を満たさない可能性がある」と指摘されてしまった…ということがありました。

虐待には委員会の決定事項を都度職員に「周知徹底を図る」という要件があります。その観点から担当官は抜き打ちテストのようなことをしてくることもあるのです。

このように実際には、当日担当官の応対をする人以外に、全員がぬかりなく対策をしておかないといけないという実情があります。他にも虐待のようなことが現場で起きていないか、さりげなく世間話から引き出そうとする動きも担当官によってはあるため、「その場での何気ないヒアリング」には注意が必要です(勿論、虐待の事実を隠蔽せよという意味ではありませんので念のため)。

運営指導対策チームを組んで集中的に対策することも大事ですが、それ以外の職員が「我関せず」では乗り切ることはできません。全職員を巻き込んで準備する意識が必要となります。

意外とある!担当官の「抜き打ちヒアリング」

運営指導実施前は自分たちで対応準備をする

運営指導の実施日程が分かったら、準備を行わないといけません。まずは事前に通知されている、準備すべき書類を用意します。過去に運営指導を受けた経験がある場合は、指摘事項を見直したり、ルール変更が発生した内容の対応を行えているかなどの確認が必要です。

基本的には運営指導を受ける事業所側が自ら準備を行う必要がありますが、不安がある場合は弁護士などの専門家に協力依頼をする選択肢もありでしょう。

初めての運営指導 vs. 2回目以降の運営指導 ── 準備と心構えの違い?

運営指導は、初めて受ける場合と過去に受けた経験がある場合とでは、準備の内容や意識すべきポイントに違いがあります。それぞれ、どのような点に注意すべきかを整理しておきましょう。

●初めて運営指導を受ける事業所の場合

初めての運営指導はここに注目

①「何を見られるのか」を把握することが最優先

初めて運営指導を受ける場合は、まずは大きく運営指導を捉え最重要ポイントから確実に対応していき、無失点(報酬返還や指定取り消し等のペナルティを回避する)を目指すべきです。はじめから細かなチェック内容に着目せず、まずは「主に何をチェックされるのか」を把握することに努めましょう。

学校の定期テストで考えると分かりやすいと思いますが、まずは「どういう範囲の、どういう傾向の問題が出るか」を把握することから始めることでしょう。それと同じです。

運営指導の対象となる内容は多岐にわたりますが、主に人員基準、設備基準、運営基準の3つの観点からチェックされます。中でも重要なものは人であり、慢性的な職員不足の中最低限の人員配置基準を満たしているか、要職に求められる資格を保有しているかといった点が重点的に見られます。次が運営に関する事柄であり、利用者の人権保障の観点から虐待や身体拘束が起きていないか、リスクマネジメントの取組みがなされているかという視点で確認されます。

最後の設備基準については後回しでも良いかと思いますが、施設であれば「非常口を段ボール等が塞いでおり脱出できない」という指摘が「現場のあるある」であり、当日に備え廊下を片付けるという物理的対策に奔走する様子がよく見られます。

項目として挙げると、以下のような点が重要です。

・加算算定の根拠資料(計画書・モニタリング記録など)
・職員配置、勤務表、資格証の写し

・利用者の契約書や同意書、重要事項説明書

・事業所に備え置く運営規程、マニュアル類
・請求関連書類、帳票類 など

・法定研修を実施したことを示す出席記録

・法改正があった場合の対応の実施状況

これらが「整っているか」「法令通りに運用されているか」をチェックされます。
まずはどんな資料が必要なのか、どこに何が保管されているのかを棚卸しし、「抜け・漏れ」がないかを確認しましょう。

②書類整備に時間を惜しまない

初めて運営指導を受ける場合は、多くの事業所で書類不備や記録不足がよく指摘されています。たとえ日頃のケアが丁寧でも、記録がなければ「やっていない」と見なされるのが運営指導です。監査をする行政は細かくチェックします。書類1枚でも不足があればぬかりなく指摘対象にしてきます。

では対策を講じるとして、事前に不備が明らかとなったとき該当書面を作成して問題ないでしょうか。

この点、過去に実施しなかったことを後から書面を作成することで「あったこと」にしてしまうことは有印私文書偽造罪になりかねず、当然やってはいけません。ですが、単なる記録の不備や誤りであったときは追記訂正して構いませんし、必要な書類を追完することは認められます。

研修等についても、まだ本番まで日があるのであれば駆け込みで実施してしまう、ということも一つの対策です。

③想定される問答集を作り対応できる準備をする

初めての場合は行政側の職員とのやりとりに慣れておらず、ちょっとした質問でも焦ってしまうことがあります。回答ひとつで厳しく指摘される可能性もあるため、管理者・責任者を中心に「どんな質問がありそうか」「どの職員がどう答えるか」などを想定した問答集を作成し、対応する関係者間でロールプレイを実施しておくと安心です。最近の指導は厚労省や各保険者が公開しているチェックリストに沿ってなされるため、これを順に見ながら考えられる質問とこれに対する答えを書き込んでいくと良いでしょう。

④大切なのは「誠実な姿勢」と「改善意欲」

初めての指導で100点を取れる事業所は多くありません。100点を取れなかったらゲームオーバーではなく、如何に改善していくか、如何に真摯に受け止めるかが大切です。不備の無い事業所にするために、行政の監査を誠実に受け、改善点は積極的に改善する。そういう姿勢を見せて対応していければ、経営に支障をきたすような指摘は出てこないはずです。嘘をついたり、不備を隠蔽したりするような行為は決してしてはなりません。

●2回目以降の運営指導を受ける事業所の場合

2回目以降の運営指導はここに注目

①過去に指摘された内容を必ず振り返る

2回目以降の運営指導の場合も書類不備には注意するべきですが、同時に過去に受けた監査の結果、記録を見直し、どういった箇所が指摘されたのかを把握するべきです。その理由は、過去にどんな指摘を受け、どう改善したかを行政側は重要視するからです。前回の行政指導結果や報告書を読み返し、同じ指摘を繰り返さないよう注意しましょう。特に改善計画を提出している場合は、実施状況まで説明できるように準備する必要があります。

②「慣れ」による油断は禁物

一度経験しているからといって「今回も大丈夫だろう」という気持ちが生まれがちですが、行政側はそういった点も注視します。特に「改善されていない部分」により厳しく目を向ける傾向がありますので、前回指摘されずに済んだところでも、今回は重点的に見られる可能性があります。

③法令改正後の対応、運用が適切かどうかの確認をする

法令改正により運営ルールや加算要件が変わっている場合があります。ルール変更に対応せず昔と同じやり方を続けていると、今では不適切な運用と判断されます。最新版の運営指導マニュアルや解釈通知に目を通しておき、改善が必要な箇所は適切に対応することが大切です。

2回目以降の運営指導を受ける事業所が得られるメリットは、「運営指導の流れを知っている」という安心感です。ただし、その経験値を活かすには、常にアップデートされた適切な対応が求められます。「前回こうだったから大丈夫」という考えではなく、「今回も見直しをして臨む」という姿勢で臨むべきです。そうすれば大きな失点や指摘を受けることを避けられることにつながります。

介護・福祉特化の弁護士法人おかげさまでは、運営指導対策も承っております

介護・福祉事業者であれば運営指導は避けて通れません。しかし、考え方によっては運営指導をクリアすることで適切な運営が行えることになります。小手先で騙すようなクリアの仕方は良くありませんが、運営指導前に抜け、漏れを埋めることは適切な運営をするために必要なことです。運営指導は様々な法律が関連するため、当事務所のような介護・福祉特化の弁護士が強い味方になり、運営指導を万全な状態でクリアするご支援をさせていただきます。

当事務所は設立以来、介護・福祉分野に特化しており、全国に顧問先様がいらっしゃいます。運営指導にだけでなく、介護・福祉現場のトラブル解決、トラブルを未然に防ぐ取り組み実績も多数ございます。これらの取り組み、最新情報は当事務所の無料メルマガで定期的に発信しております。ぜひ以下のボタンより無料メルマガにご登録ください。

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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