とうとう始まる参入規制!有料老人ホームが登録制に

カテゴリ
コンプライアンス
公開日
2025.10.10
とうとう始まる参入規制!有料老人ホームが登録制に

とうとう始まる参入規制!有料老人ホームが登録制に

2025年10月1日、厚労省が有料老人ホームの登録性の検討を始めたと報じられました。(ニュース記事はこちら

 

以前、当事務所のコラムでも有料老人ホームの規制が行われるのではないかという予測を述べたことがありましたが、いよいよその潮流が現実味を増してきました。(コラム記事はこちら

報道によりますと、有料老人ホームにおいて、不適切な身体拘束や入居者の財産を無断で使用するといった問題がいたるところで発生し、また、事業社が関連サービスを入居者に強制的に利用させ、サービスの過剰供給状態になっているという問題点も指摘されています。事態を重くみた厚労省が対策に乗り出したということです。

現在の有料老人ホームの参入規制は?

現在は、有料老人ホーム(住宅型)を運営しようとした場合、自治体に届け出を行うことで運営を実施できます。特に厳しい審査はありません。

この参入規制の甘さにより介護を必要とする方の受け皿を増やす効果はあるものの、杜撰な運営を行う事業所を増やしてしまうという問題点が挙げられます。

ビジネス的観点からは、ホームを「ベース」として関連サービスで利益を上げるというスキームは安定した収益が見込めます。

例えば、住宅型有料老人ホームやサ高住などで、施設が「住まい」のみを提供し、介護サービスを外部(または併設・提携)の訪問介護や通所介護などの事業所から利用する形態です。全てのサービスを同法人内で提供することで利益の最大化が見込めます。

他には、末期がんや難病の方など、医療的ニーズの高い入居者を対象とした有料老人ホームにおいて、併設の訪問看護ステーションなどが、必要以上の頻度や内容でサービスを提供し報酬を過剰に請求する、または不正に水増し請求するというものもあります。

こうしたスキームは、入居者にとっては移動せず介護保険サービスを利用できるというメリットがあるとも言えますが、経営側にとっては同法人内での利益を最大化することができ、経済合理性を追求した結果、各入居者に対し必ずしも最適なサービスが過不足なく提供されているとは言い難いケースも見受けられます。

こういったことを行う事業所が増えていくことを懸念し、利用者へのサービスの質と妥当性を担保する目的のもと、今回の厚労省による登録制の検討が始まったといえるでしょう。

元々、有料老人ホームの業界は規制の法的根拠に乏しく、虐待等の実態を把握しづらいという問題意識が行政側にありました。

厚生労働省「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」(令和7年6月20日)では、「特養やサ高住では法令や省令に基づく基準が整備されている一方、有料老人ホームに関する標準指導指針は行政指導であり強制力を持たないために、改善に応じない事業者が一定数存在し、また現場ごとに標準指導指針の解釈が異なるのではないか。 」

「行政から事業者に事業に制限をかけるとか、悪質な場合は事業制限停止命令を命ずることになると言ってはみるが、明確な基準がないため、対応に苦慮している。事業者が協力的でなく、継続的な見守りが難しい。」といった問題意識が率直に示されています。

この事業形態だけが特に虐待が多いといったデータは見受けられませんが、の監督は各自治体に委ねられ、他の事業形態に比べ監視の目が緩やかであったということはいえようかと思います。登録制に移行することで、ご利用者の人権保護についても求められるレベルは確実に高まるでしょう。

登録制が検討され始めた要因

有料老人ホームの杜撰な運営状況の事例

近年、有料老人ホームの杜撰な運営状況や悪質な行為がニュースなどで報じられることが増えてきました。その事例をご紹介します。

  1. 東京都の住宅型有料老人ホームの事例(資金繰り悪化で職員が一斉退職)

東京都足立区にある2023年10月にオープンした住宅型有料老人ホームでの事例です。オープンから1年経過した9月末日、30人の職員の給与が支払われませんでした。これに伴い職員が一斉退職し、入居者は大変な不便を強いられる結果となりました。

この施設は住宅型有料老人ホームなので、生活支援等のサービスがある老人ホームです。自宅でケアを受けるのと同じようにプランを組み、限度額いっぱいまでサービス利用するのが一般化しています。収益は月々の入居費用、訪問介護などのサービスを提供した際の利用料となりますが、この介護報酬が大きな収入源となります。この訪問介護などのサービス提供を自社で行っていれば、安定した収入を確保できます。

ところが、2024年4月に介護保険の改正があり、訪問介護の報酬が引き下げられました。これにより、あてにしていた介護報酬が減ってしまうため、資金繰りに窮することになり、職員の給与未払いが発生したといわれています。

介護報酬の支払いは請求してから2~3カ月後に入金されるため、本来は潤沢な資金を準備したうえで経営すると良いところ、あてにしていた介護報酬の引き下げもあり、大きな痛手を被ることになりました。オープンから約1年での悲劇で、職員はもちろん入居者やその家族までもが不幸のどん底に陥れられたのです。

  1. 兵庫県の有料老人ホームの事例(突然の施設閉鎖で家族がパニック)

兵庫県尼崎市にある有料老人ホームで、入居者や家族がパニックになった事例です。経営難に陥ったこの施設は、入居者や家族に一切知らせることなく、突然閉鎖となりました。職員の解雇はもちろん、入居者の移動も勝手に行われ、パニックに陥った家族もいたと言われています。15年ほど地元で経営をしていた施設で、地元の人も安心して家族を利用させていたそうです。ところが蓋を開けてみると、経営状況は火の車。破産手続きをして、あっという間に閉鎖となりました。この事例も2024年4月以降に発生しているため、恐らく2024年4月の訪問介護の報酬引き下げの影響によるものと考えられます。介護報酬頼みの1本槍の経営で行き詰ったのでしょう。突然解雇される職員、あてが無く不幸のどん底に落とされる入居者や家族からしたらたまったものではありません。

介護・福祉業界もいち事業ですので、経営が成り立たなくては存続できません。特に入居者の人生や健康に末長くかかわっていく事業ですので、介護報酬頼みの経営をしていては綱渡り経営と同等と言えるでしょう。介護報酬改正や法改正、ルール変更によって経営環境の変化が起こりやすく、ビジネススキルが問われる業界であるともいえます。これらの事件をはじめとする現場の状況変化に鑑み、今回の厚労省による有料老人ホームの登録制の検討が行われたといえるでしょう。

登録制による事業所への影響は?

もし登録制が実現すれば、有料老人ホームの新規開業のハードルが高まるとともに、既存の有料老人ホームに対しても同等の規制がかかることが考えられます。既に稼働している有料老人ホームが次々と行政に審査され、規定の基準を満たしていない施設に関しては是正措置を講じることを指示され、それを実施できなければ施設運営の道が閉ざされる可能性も出てくるかもしれません。まだ確かなことは分かりませんが、そういった未来も十分ありうることとして、是正するべきポイントを今から見直していく努力は必要といえるでしょう。

特に冒頭で述べたような、入居者への身体拘束や虐待といった悪質な行為や、同法人内のサービスを利用させ、報酬を過剰に得るようなことを実施している場合は、直ちに是正する取り組みを実施するべきです。

介護・福祉分野に対する厚労省の監視の目は強まる見込み

今回の厚労省による有料老人ホーム登録は、一時的な対策ではなくむしろ始まりであると筆者は考えます。有料やサ高住による「囲い込み」の問題は以前から指摘されていましたが、報酬の同一建物減算など間接的な規制しかなされず、いわば聖域のように扱われていた感があります。いよいよここにメスが入ると、全国における施設の実態が明らかとなり、新たな施策が必要になっていくことが予想されます。

今後は運営指導、監査が厳しくなる可能性も考えられます。介護業界の管理をおざなりにすると、それは国民から集めた税金の無駄遣いに繋がり、国や自治体に対してあるまじき行為となります。

勿論、一件囲い込みのスキームであってもご利用者に対し正直に誠実にサービスを提供する施設様も沢山あり、住宅型やサ高住が一律に悪ということでは勿論ありません。

適切な運営をしているところが正しく評価されることが理想ですね。当事務所の理念にもありますが「正直者が報われる世界」であってほしいと思います。

厚生省の監視の目は強まる可能性大

適切な運営は一朝一夕では実現できない

介護現場は様々な人たちで成り立つ「調和の場」です。一度適切な運営ができなくなれば不正や虐待などが発生しやすくなりますが、そこから適切な運営に切り替えるのはすぐには実現できません。不正や不適切な運営は、また更に不正や不適切な運営を呼び込みますので、常に警戒しないといけません。

人員の補充、仕組みの整備、職員のコンプライアンス教育など時間がかかる取り組みが幾重にも重なって成り立つものです。

一方で、適切な運営ができる体制を整えられれば、盤石の体制となり安心して施設運営、経営ができるようになるでしょう。

顧問弁護士が適切な運営をサポートします

事業を行っていれば不適切な運営を行いかねない瞬間もあるでしょう。人間は過ちを犯す生き物ですが、それを思いとどまったり、正したりすることができる生き物でもあります。

自分自身だけだと甘い罠に陥ってしまいやすいですが、第三者の視点やアドバイスがあれば冷静に考えることもできるはずです。

その点で、顧問弁護士は第三者として適切なアドバイスをご提供できます。法的な観点での判断はもちろん、法改正やルール変更の最新情報をご提供し、現場で発生するトラブルや悩みごとの解消など、あらゆる観点でサポートが可能です。

特に当事務所は介護・福祉・医療に特化した弁護士法人ですので、ご支援実績も豊富にございます。

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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