【ミニコラム】虐待発生!その対応で本当に大丈夫?

カテゴリ
おかげさま事件簿
(解決事例集)
公開日
2025.10.15
虐待発生!その対応で本当に大丈夫?

虐待発生!その対応で本当に大丈夫?

どれだけ注意して日々業務を行っていても、トラブルや不祥事が発生する可能性は残ります。予防を心がけつつ、万一のトラブル発生時は速やかに適切な対応をすることが求められますが、そのためには現場で業務を行う職員それぞれが正しい知識と倫理観を持ち、コンプライアンスに基づき迅速に行動できなければなりません。それらが欠如していると、誤った認識が組織全体にまん延し、最終的には行政から厳しい指導を受けることにつながります。

今回は、事業所内で発生した虐待事件について、本部側が適切な判断・対応ができなかった事例について解説します。

事業所内で事件が発生、そのとき本部は…

ある顧問先様の施設本部の方から、こんなご相談がありました。

施設の認知症のご利用者が転倒し、骨折をして入院したとのこと。事業所側で転倒に至るまでの過程をカメラの録画映像で確認したところ、職員が利用者に大声で「もう!早く動けよ!」と怒鳴り、その直後に利用者が驚いた様子で後退りして転倒したことが分かったそうです。

職員の大声のせいでご利用者が転倒

「これは施設の責任となるのか?警察への届け出は必要か?」というご相談でした。

当事務所で録画映像を確認したところ、何らかの犯罪が成立する可能性は乏しく、警察への届け出までは必要無いと判断しました。

ただ、この職員の大声のせいでご利用者が転倒し受傷したことは確かなので、保険会社と連携しつつ、先様には報告と謝罪を行い誠実に対応するようアドバイスしました。

数日後、施設からご報告があり、職員も反省したようであり、ご利用者ご家族にも許して頂けた、とのことでした。これを聞いて一瞬は安堵しましたが、皆様お気づきでしょうか。一つ大事な視点が抜け落ちていることに…

被害者が許しても虐待は虐待

「ところで、本件について市へは虐待の報告をしましたか?」とお尋ねしたところ、報告はされていませんでした。これが問題となります。

高齢者虐待防止法は、心理的虐待について「高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」と定めています。そして、虐待が発生したときは、その施設は虐待の事実を市町村に報告(通報)しなければなりません。これは無条件であり、本件のようにご利用者側に謝罪し許されたからといって「通報しなくて良い」ということにはならないのです。

因みに、身体的虐待については「高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」とあるところ、直接的な身体接触はないためこの類型には当てはまらないと判断しました。

虐待の事実を市町村に報告(通報)しなければなりません

相談者の方は、感覚的に「何も虐待として報告しなくとも許されるのではないか」と思っていた節があるようでした。もしかすると「通報しなければ」という認識自体、抜けていたのかもしれません。ともかくも当事務所の指摘により行政への通報は行われました。

ここまでやって初めて、コンプライアンス上正しい処置をしたと認められます。もしなあなあにしてしまえば、現場職員の誰かがこの件を役所に通報し、「なぜ施設として把握していながら通報しなかったのか」と役所から詰められていたかもしれません。

事業所内で発生したトラブルは、被害者である利用者やそのご家族に報告、謝罪したり、当該職員への懲戒を決定するなどを行えば解決すると考えがちです。しかし、高齢者虐待防止法をはじめ、法律で決められた報告義務が課されている要件もありますので、ここは事業所側が組織として正しく理解し、行動できるようにしないといけません。

被害者への謝罪、当該職員の懲戒だけで終わらせず、行政への報告までしっかり行いましょう。

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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