
介護・福祉事業所の経営者であれば「運営指導」を避けて通ることはできません。運営指導は泣く子も黙るという恐ろしいイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、行政が時間と労力をかけて運営指導を実施する背景には、それだけの理由があります。受ける側としては数年に1度ということもあり、その場しのぎでパスすることだけ集中するという戦略も考えられますが、できればこの運営指導を日々の事業所経営に活かし、より盤石な事業所運営に近づけていっていただければと思っております。
そこで、本コラムでは、運営指導の基本中の基本となる知識ではありますが、それ故にあまり意識されにくい事柄を丁寧に解説します。
目次
そもそも運営指導とは何なのか?
運営指導とは、介護保険制度に基づき、各介護サービス事業所が適切にサービスを提供しているかを行政が確認・指導する仕組みのことを指します(介護保険法第23条、第24条)。厚生労働省や都道府県、市町村などの行政機関が実施主体となり、事業所の運営状況、法令遵守の実態、記録の管理、職員体制、利用者対応など、多角的な視点でチェックが行われます。
この指導は、事業所に対する「監査」や「取り締まり」といった強制的なものではなく、あくまで適切な介護サービス提供を継続するための「助言・指導」が基本的なスタンスとされています。ただし、重大な不正や違反が発覚した場合には、行政処分や報酬の返還などを見据えた監査に即時切替えられることもありますので、この段階でぼろが出ないよう、実務では監査に準じるものと捉え万全を期す必要があると言えるでしょう。
行政の介護保険事業者に対する指導は大きく分けて運営指導と集団指導があります。運営指導は、介護サービスの質、運営体制、介護報酬請求の実施状況などの確認のため事業所ごとに行うもので、契約書や計画書・記録等の文書提示の求めや質問により行われます。
集団指導は、地域の事業所を対象に説明会形式で制度改正や注意点の周知を行う場です。「集団指導は無意味なので出ない」という事業所もたまにお見かけしますが、危険な選択です。行政は集団指導に出席しなかった事業所から優先的に運営指導に入っているという話があり、それだけ問題視されリスクを背負うことになるためです。
運営指導が行われる頻度は?
運営指導がどれくらいの頻度で行われるのかは、多くの介護事業所が気になる点でしょう。原則として、運営指導(特に実地指導)は「6年に1回以上」の頻度で実施することが厚生労働省の指針で示されています(2022年3月31日「介護保険施設等指導指針」)。また同指針では、については3年に1回以上が望ましいとされています。ただし、これらはあくまで「目安」であり、実際の頻度は事業所の規模、所在地、過去の指導内容、報告状況などによって異なります。これは筆者の感覚でしかありませんが、株式会社や有限会社等の運営する、いわゆる中小零細事業所が多く入られているという印象があります。
例えば、利用者数が多く、サービス提供のボリュームが大きい事業所では、より早い段階で指導が入る可能性があります。また、過去に指摘事項があった場合や、苦情・通報が寄せられた事業所には、優先的に運営指導が行われることもあります。また、虐待や身体拘束に関する義務を果たしていないことが一か所の事業所で明らかとなった後、同一法人の別事業所にも次々と運営指導が入るということもあります。
「うちは、昨年指導が入ったばかりだから大丈夫」等と業界の風習や噂を何となく信じて油断するのではなく、いつ指導が入っても良いように日頃から規程類や記録、職員配置、運営体制を整えておくことが重要です。
運営指導実施の連絡はいつ来るのか
運営指導の実施連絡は、原則として事前に通知されます。多くの場合、指導予定日の2週間前から1か月前に、管轄する行政機関(市区町村の介護保険課)から「運営指導実施通知書」や「事前準備書類の提出依頼」といった題の書面が届きます(以下イメージ書式参照)。学校で行われる定期テストと同じようなもので、この通知には、実地指導の実施日、場所、当日のスケジュール概要、準備すべき書類のリストなどが記載されています。最近は効率化のため、電子メールの方法等により専用サイトから事前提出書類の提出(アップロード)を求める形式をとる保険者も増えています。
事業所にとって重要なことは、この通知が届いてから準備を始めるのでは遅いということです。実地指導では、過去1~2年分の記録や、運営体制、職員配置、介護記録、事故報告、苦情対応記録、契約書の管理など、幅広い情報が求められます。「通知が来てからすべてを整備できているかチェックすればよい」と思われるかもしれませんが、日頃の業務を行いながらの準備では時間的に追いつかず、また、抜け漏れを見つけた段階で間に合わせる時間が無いという事態に陥りかねません。結果的に「不備あり」と判断されてしまうことがよくあります。
また、稀にではありますが、虐待など特定の通報や行政側の判断によって、実質事前通知なし(当日の午前中に通知が示され、午後実施される)の「抜き打ち的」な指導が行われるケースも存在します。これは、監査ではなく飽くまで「運営指導」としてなされるのであれば、1カ月前通知のルール違反である可能性が高く、流石に乱暴であると抗議をした方が良いことが多いといえるでしょう。
行政が運営指導を実施する理由
行政が運営指導を実施する目的は、単なる形式的なコンプライアンス確認にとどまりません。根底には「介護保険制度の健全な運用」と「利用者の安心・安全の確保」という大きな目的があります。介護サービスは国民の保険料と税金によって支えられており、その公的資源を適切に使っているか、サービスの質が高いものかを行政がチェックする責任があるのです。
また、介護・福祉分野では利用者の身体的・精神的な安全が非常に重要です。不適切なサービス提供や、記録のずさんな管理、職員の不足などが放置されれば、事故や虐待、サービスの質の低下につながりかねません。そのため、行政は事業所の運営状況を定期的に確認し、必要に応じて改善指導を行うことで、リスクの早期発見と予防に努めています。
さらに、制度改正や運用ルールの変更があった際に、それらが事業所に正しく理解・適用されているかを確認するのも、運営指導の目的のひとつです。例えば、人員基準の見直しや記録の電子化に関するルールが変わった際、それに基づいた運営がなされていなければ、指導対象となります。
日常業務と並行して対策する負荷が大きい
運営指導対策は、言うまでもないことですが日常業務をこなしながら実施しなければいけません。介護業界は益々の人手不足となり、ぎりぎりで現場を回している事業所も多々あるでしょう。対策をしたくても、中小事業所であれば実施するリソースが無いという現実もあります。しかし、運営指導を無視することはできず、指定取り消しなどの最悪のペナルティとなると、いくら利用者や家族の評判が良くても本末転倒になりかねません。如何に効率よく、日常業務と並行しながら対策するかが大きな課題です。
運営指導を通して見た今後の行政側の取り組み予想
この先の事業所運営を考えると、運営指導の対応は経営課題となる可能性が高く、今のうちから然るべき対策、対応を実施していくことが求められるでしょう。
業界全体でこれだけ人手不足が叫ばれてはいますが、一方で虐待や違法な身体拘束に関するニュースも日々報道されており、コンプライアンス違反に向けられる世間の目は日ごとに高まっています。
ご利用者の人生、生命、健康にかかわる仕事である以上、決められたルールに則って運営するのは当然の責任です。これからはより競争による淘汰が進むといわれています。国や地方自治体は、有力な事業所には今よりも待遇を改善すると考えられますが、その分、適切な運営を実施できないと判断された事業所は厳しく指導され、あっさりと指定取り消し処分になるという傾向が加速するでしょう。
介護・福祉に特化した弁護士法人おかげさまは運営指導対策のご支援が可能です
当事務所「弁護士法人おかげさま」は、開設以来、介護・福祉に特化した弁護士法人です。日ごろから顧問先様に対しては、運営指導前のさまざまな質問に回答したり、指導当日に施設に出張して同席したり、不当な指導に対しては質問状や苦情申し立て書を送付するといったご支援をしております。
お薦めのサービスが、当事務所のご提供する「模擬運営指導サービス」です。ちょうど受験でいうところの模擬テストのような位置づけですが、事前に運営指導そっくりの体験を積むことで自分達の弱点を洗い出し、本番への備えをより万全なものとすることができるのです。
例えばこんな事業所様におすすめです。
・過去に厳しい指導を受けた経験があるので、しっかりと対策をしたい
・実地指導での質問に不安があるので、弁護士の指導のもと一緒に練習したい
・書類の不備が不安なので、弁護士のチェックで抜け漏れを指摘してほしい
・現場職員のコンプライアンス意識を底上げしたい
・初めての運営指導なので、実施前から当日、終了後の行政対応を含め細かくアドバイスしてほしい
模擬運営指導サービスの価格は標準で110,000円(税込)です(現地までの交通費は別途)。所要時間は約2~5時間程度ですが、事業所の規模や依頼事項の数等により個別にお見積りを出させて頂きます。
模擬運営指導サービスに関するご質問、ご相談を20分間無料で承っておりますので、ご興味のある事業所様はぜひお気軽に以下のボタンよりお問合せください。
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