
「運営指導」と聞くと恐怖を感じる経営者は少なくないでしょう。行政(保険者)による介護・福祉事業所の運営指導は、下手をすれば事業所の生命線を断つことにもつながりかねないからです。自分たちに非があり、それを隠していることを指摘されるならまだしも、全く予想だにしない指摘箇所を発見され、大きなペナルティとなる事態さえ発生しかねません。対策を実施するにしても、普段は目の前のご利用者ご家族への対応に追われまとまった時間が取れません。いざやろうとしても、何をどこまで対策をすれば良いか分からないことも多く、運営指導対策に苦戦するのも事実です。
さらに、これは後述しますが、運営指導を実施する行政側の指導が担当官によって異なることもあり、過去の指導履歴を活かすどころか、前回と真逆のことを言われるなど全くもって理不尽な結果が発生することさえあります。
運営指導をポジティブに捉えればコンプライアンス上の問題点が無いことを確認できる良い機会といえますが、ネガティブに捉えれば経営における足枷といえるでしょう。しかしながら、この運営指導はどの事業所にも課される試練ですので、いかに効率的かつ確実にクリアするかが課題となります。
そこで、本コラムでは、運営指導対策を受ける前に、知っておきたい運営指導の基礎知識を解説します。
目次
まるでくじ引き!?運営指導は担当官のさじ加減次第
行政側は厚生労働省が定めた方針に基づいて、運営指導や監査に関するマニュアルや指針を定めており、それに従って運営指導を実施します。ただしそれらはあくまでガイドラインとして存在するものなので、違反した場合に「それに基づいてなされた指導が全て無効になる」といったことは通常ありませんし、具体的な場面ではそこまで細かく設定されたルールは存在しないことも多々あります。そのため細かく見ると、行政ごとに運営指導の際のチェックの細かさや厳しさ、方法に差が発生しますし、更にいえば当日事業所を訪れる担当官ごとに差が発生することもあります。
例えば、
「A市では虐待防止や身体拘束の研修実績の有無をやたらと細かくチェックする」
「B市では加算の記録に過不足がないか、全利用者につき入念に確認された」
「C市では担当官が業務中の職員に抜き打ちで質問して、回答できなかったら研修不備と判断された」
というように、行政ごとに、担当官ごとに差が生じます。
神経質で意地悪な担当官に当たると執拗に細かく指摘される可能性もあれば、穏やかで事業所側の言い分も考慮する担当官であれば比較的優しい運用になる場合もあるのです。
担当官ごとにムラが発生するのは納得いかないところもありますが、よほどひどい場合や担当官の指摘に矛盾があることが明らかな場合を除いては、基本的には従っていた方が無難でしょう。そういう側面があることを理解し、しっかり事前に対策を講じることが重要です。
そんな、まさか!?本当にあったとんでも運営指導
運営指導で行政から行われる指導や最終的に下される処分(ペナルティ)は、主に事業所の不備の程度や発覚に至る経緯等をもとに決定されますが、中には軽微な違反に対し余りにも過剰な処分、不適当な処分も存在します。行政ごとに、担当官ごとに判断基準や考え方に幅があるため、とんでもない運営指導も存在するのです。
数こそ少ないですが、裁判所の判断で処分取り消しになった事例もあります。ここでは、実際に裁判所が処分取り消しの判断を下した事例を解説します。
●介護サービス事業者の指定取消処分取消請求事件
沖縄で争われた事案(平成24年12月26日 那覇地方裁判所判決/平成22年(行ウ)第7号)です。
指定居宅サービス事業者が運営指導を受けた結果、デイサービスおよびケアマネ事業所の指定取り消し処分を受けましたが、いずれもその処分が裁判所により取り消されました。司法府が行政府の認定にNOを突き付けたのです。
行政が事業所に対し指摘した主な問題点は以下のものでした。
①生活相談員や管理者の人員基準を満たしていない
②サービス提供していないのに提供記録を偽造して不正請求している
上記の点において重大な違反が見つかったとして、指定および指定介護予防サービス事業者の指定取り消し処分となりました。
しかし、裁判所は、
- 生活相談員、管理者の不足は事実であったが、事業所が努力をして改善をしていた。人員不足の記録がある日時は、そのすべてが、担当職員が病欠の時であり、一時的なものであった。サービス提供および事業運営において重大な問題を発生させるほどのことではない。
- 不正請求が疑われる記録は、利用者が一時的に入院していた3日程度のことであり、これは誤った記録などの間違いによるものである可能性が高く、意図的に不正請求したとは言い難い。
と判断し、指定取消しは行政側の裁量を逸脱した違法なものであると結論付けました。
また裁判所は、行政が居宅介護サービス費の不正請を理由に指定を取り消す処分を行う法令上の根拠は明らかにされていないし,これを前提とする聴聞等の手続も履践されていない」と指摘し、手続的にも問題があることを指摘しました。指定取り消しという結論ありきの、かなり乱暴な進め方であったことが窺われます。
行政ごとに判断する運営指導だからこそ発生した問題の典型例
重箱の隅を楊枝でほじくるような見方をすれば、確かに「基準を満たしていない」ところが見受けられますが、実際は恒常的に不備があったわけではなく、突発的に短期間の不備があったのみでした。
行政側は不備があった箇所を切り抜いてフォーカスしましたが、裁判所は運営全体を見て総合的に判断したといえます。不備だけに着目した行政側の指導基準が不適当であると判断されたのです。
実際にこういった事例があることを理解したうえで運営指導に臨まないといけません。行政といえ当然人の子であり、過ちを犯す場合もあります。とんでもない判断をすることもあれば、裁判で逆転させることもできるということです。
行政が全て正しいわけじゃない!おかしいと思ったら反論を!
上記の那覇地裁の判決を見ても分かる通り、行政の下した判断が常に正しいとは限りません。判断基準が行政ごと、担当官ごとに異なるため、過剰な指導や誤った判断も出てくるのです。
虐待関連でいえば、例えば「元々身動きのとれないご利用者の体を支えるために、車椅子に安全ベルトをして固定した」という処置が身体拘束であると指摘され、必要な検討をしていないと一方的に断罪される…といったケースを見聞きします。これは、身体拘束そのものに法的観点に基づく厳密な定義が未だ存在しないことが根本原因ではあるのですが、そもそも「動けない利用者を支える」ことは「身体の自由を制限する」訳ではないので身体拘束には当たらないと解釈すべきです。そうしたプロセスを無視し、あたかも結論ありきの如く一方的に事業所を責める行為は、行政としては厳に慎まなければなりません。万一そのような認定や指導を受けたときは、毅然と抗議すべき場合もあるのです。
行政は指定権者であり、また保険者でもあるので、行政からの指導や通達には従わなければいけないと考えがちですが、「おかしい」と思った場合は反論をしても当然構いません。業務停止命令や指定取り消し、そこまでいかずとも高額の報酬返還指導は経営に大打撃を与えるレベルの処分ですので、自分たちに非が無い、余りにも過剰な処分であると考えられる場合は声を上げるべきです。
運営指導は、守るべきルールがあり、事業所側がしっかりルールを守って運営しているかをチェックする機能です。ですので、運営指導でチェックされる内容、範囲はおよそ判明しています。最近は特に、指導効率化のためチェック事項が明確にリスト化され、事前提出が重視されつつあるので「出題範囲」ははっきりしているといえるでしょう。他職員へ抜き打ちで質問をしたり、針小棒大に違反をあげつらうなど各担当官によるトリッキーな動きを除けば、難しい対策はありません。
行政が介入する介護・福祉は法的根拠が付きまとう
では、なぜ運営指導を恐れる、嫌がる事業所が多いかというと、理由の一つには法令(法律と命令)への「苦手意識」があるのではないでしょうか。介護・福祉は公金を原資とするためことのほか行政の関与やチェックが厳しく、その拠って立つ法令は目まぐるしく改定され変化していきます。いわゆる赤本、青本、緑本という、百科事典のような分厚い本を片手に細かい条文と睨めっこを続ける、辛いイメージがどうしても拭えないのかもしれません。
かくいう筆者は弁護士ですが、あらゆる法令をマスターしているということは勿論なく、持ち込まれる相談ケースのたびに法令をネット検索し、当該市町村の指針や綱領を確認するところから毎回始めています。法律のプロでも分からない、知らないことが沢山あるのです。
しかし、いくら法令の世界が複雑怪奇でも運営指導は平等に全事業所にやってきます。「社会的意義と責任が大きい以上、できて当然」というプレッシャーから逃れることはできません。
もう一つの理由としては、単純に「指導や監査を受けた経験が無い」ということもあるでしょう。効率化による実施回数の増加が国から強く求められているとはいえ、何度も運営指導を経験しベテランの域である、という人はコンサルタント以外にはそうそういないことと思います。そのことから、「当日、一体何を言われるのだろうか」といった不安が増幅し、必要以上に警戒し怯えてしまうという構図があるものと思います。
そうした運営指導のプレッシャーに負けてしまうと、つい対応を後回しにしてしまい、「何から手を付ければ良いか分からない」という事態に陥りがちです。そうなると本当は怖がる必要のない運営指導で不備を指摘されてしまい、後悔することになってしまいます。運営指導はその実態を正しく把握し、ポイントを押さえ淡々と対策を実践することが重要なのです。
介護・福祉現場を知り尽くした弁護士が運営指導対策の強い味方になる
この複雑怪奇な介護保険法令を何とかクリアする最短の方法は無いものでしょうか。
実は、この業界の法令に詳しい弁護士が強い味方になれます。ある程度の規模以上の組織となると、内部に法務部門を置き法令に強い職員を育成するものですが、そこまで徹底せずとも「外部の法律の専門家と繋がっておく」という選択肢があるのです。法務部をアウトソーシングするともいえるでしょう。
多くの介護・福祉現場では人手不足が発生しているため、出来るだけ無駄なく効率的な対策実施が必要とされます。介護・福祉分野を熟知した弁護士を味方につけることで、運営指導を安心して対応できるようになるでしょう。
弁護士を味方につけることで、以下のような運営指導対策が期待できます。
・事前の内部チェック(模擬運営指導)を受けることで、不備やミスを発見し対処できる
・法改正やルール変更で発生した新たな対応ポイントをすぐに見出せる
・弁護士とやり取りし、弁護士が講師となる内部研修を受ける等の経験を積むことで法務担当の職員を効率的に育成できる
・運営指導前の不明点や不安点を質問し解消できる
・必要な書類作成の協力を依頼できる
・おかしいと思われる指導や、横柄な態度をとる担当官への抗議をサポート・代行してもらえる
・いざというときは那覇の裁判例のように行政と訴訟でとことん争うこともできる
介護・福祉に特化した弁護士法人おかげさまは運営指導対策のご支援が可能です
当事務所「弁護士法人おかげさま」は、開設以来、介護・福祉に特化した弁護士法人です。日ごろから顧問先様に対しては、運営指導前のさまざまな質問に回答したり、指導当日に施設に出張して同席したり、不当な指導に対しては質問状や苦情申し立て書を送付するといったご支援をしております。
お薦めのサービスが、当事務所のご提供する「模擬運営指導」です。ちょうど受験でいうところの模擬テストのような位置づけですが、事前に運営指導そっくりの体験を積むことで自分達の弱点を洗い出し、本番への備えをより万全なものとすることができるのです。
例えばこんな事業所様におすすめです。
・過去に厳しい指導を受けた経験があるので、しっかりと対策をしたい
・実地指導での質問に不安があるので、弁護士の指導のもと一緒に練習したい
・書類の不備が不安なので、弁護士のチェックで抜け漏れを指摘してほしい
・現場職員のコンプライアンス意識を底上げしたい
・初めての運営指導なので、実施前から当日、終了後の行政対応を含め細かくアドバイスしてほしい
模擬運営指導サービスの価格は標準で110,000円(税込)です(現地までの交通費は別途)。所要時間は約2~5時間程度ですが、事業所の規模や依頼事項の数等により個別にお見積りを出させて頂きます。
模擬運営指導サービスに関するご質問、ご相談を20分間無料で承っておりますので、ご興味のある事業所様はぜひお気軽に以下のボタンよりお問合せください。
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