【最悪】法令違反で事業所が受けるペナルティの種類と重さ

カテゴリ
運営指導 監査対策
公開日
2025.07.07
最悪】法令違反で事業所が受けるペナルティの種類と重さ

介護報酬は改定の度に削られ、一方で職員は賃金を上げなければ来てもらえず、資金繰りに苦しんでおられる施設・事業所様も少なくないことと思います。ギリギリの人員で何とか日々を乗り越え、薄利を得られれば御の字。少しでも稼働率が落ちれば赤字に…

しかし、そのように一喜一憂される収益の変動は実は大したことではないかもしれません。

運営指導のペナルティを侮ってはいけない

一体何がリスクなのかというと、ずばり行政のペナルティです。勿論、通常運転に違反がなければ何もされませんが、一つでも法令違反があれば容赦なくペナルティ(処分等)が下されます。

そしてそうした違反は、主に定期的にやってくる運営指導で明らかとなります。違反の疑いが濃厚な場合はいつでも監査に切り替えられ、抜き打ち監査が複数の事業所に同時多発的に仕掛けられるときもあります。「泣く子も黙る指導監査」といわれる所以(ゆえん)です。

運営指導は基本的に6年に一度のペースですが、開業すればどの事業所にもやってきますし、その指導の結果思いがけないペナルティが課され、事業所の存続に関わる重大な問題に発展するケースも少なくありません。

利益をあげることが難しい時代、指定取消まで行かずとも事業所の存続にとって致命的なペナルティとなる可能性もあります。

「まさか、うちに限ってそんなことにはならないだろう」 「指導が入っても、行政の担当官と日頃仲良くしているから、手心を加えて貰えるだろう」 そのように根拠なく楽観視することは非常に危険です。

介護・福祉事業は、人々の命と生活に深く関わる社会性の高い事業です。それゆえに、求められるコンプライアンスのレベルは高く、一度信頼を失えば、回復には多大な時間と労力を要します。

ですが、ペナルティと言われても具体的にどのようなものがあって、段階があるのか知らないことが普通ですよね。そうそう何度も運営指導や、ましてやペナルティを経験することもありませんから。実際に処分を言い渡されても、それがレベルでいうと幾つなのか、要するにどの位「ヤバイ」のかピンとこないということもあるかもしれません。

そこで本コラムでは、法令違反により出されるペナルティがどのような意味を持つのか、具体的にどのような種類があるのか、過去の事例を交えながら詳細に解説します。最悪の事態から目を背けず一度は確認しておくことで、経営に関するお悩みを解消できることでしょう。

これが行政によるペナルティの種類だ!

 まずは用語の定義から。本稿では事業所が報酬を返還したり、新規受け入れを禁じられるような不利益となる現象を、総称して「ペナルティ」といいます。

ペナルティには、「行政処分」と「行政指導」によるものがあります。

行政処分とは…行政機関が法律に基づいて国民の権利や義務を直接的に形成・確定する行為のこと。指定取消、指定の効力の停止、改善命令などがある。

行政の正式な処分なのでより重いイメージ。強い権限発動であるため、受ける側にも聴聞や弁明の機会など、不服申立の手続が保障されている。

処分なので発令されると有効という扱いになる。これを覆すには行政不服審査や行政訴訟を申し立てるしかない。

・行政指導とは…事業者の任意の協力を促す、改善勧告など。飽くまで任意の対応を求めるスタンスだが、勧告に応じないと事業者名を公表されるリスクがある。

処分よりは軽いが、その分幅広く多用される。報酬の「過誤調整」が一般的。

不服申立の機会は保障されていないが、訴訟で争うことはできる。

まずは、より危険なペナルティである行政処分について見ていきましょう。

重さ別で以下の5種類があり、一覧表にしてみました。次の言葉が出たら経営上黄信号です。

深刻度1  改善命令・返還命令

深刻度2  一定期間の効力停止

深刻度3  指定の効力の一部停止

深刻度4  指定の効力の全部停止

深刻度5  指定取消

深刻度MAX 連座制

行政処分一覧表

深刻度1:改善命令・返還命令

改善命令 介護保険法第91条の2第3項は、「都道府県知事は、第一項の規定による勧告を受けた指定介護老人福祉施設の開設者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該指定介護老人福祉施設の開設者に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。」と定め、命令を発したときはその旨を公表するとしています(同条第4項)。

改善命令は、最初は「勧告」の形で出されますが、これに対し正当な理由なく応じなかった場合に下されるものです。改善の勧告は、係運営指導や監査の結果、人員配置基準や運営基準違反、虐待等の人格尊重義務違反が認められた場合になされます。文書で具体的な改善事項が伝えられ、期限を定めて改善計画の提出や改善状況の報告が求められます。

返還命令 介護保険法22条1項は、「偽りその他不正の行為によって保険給付を受けた者があるときは、市町村は、その者からその給付の価額の全部又は一部を徴収することができるほか、当該偽りその他不正の行為によって受けた保険給付が第五十一条の三第一項の規定による特定入所者介護サービス費の支給、…であるときは、市町村は、厚生労働大臣の定める基準により、その者から当該偽りその他不正の行為によって支給を受けた額の百分の二百に相当する額以下の金額を徴収することができる。」とあり、これが返還命令の根拠になります。

さらに同条3項は「その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に百分の四十を乗じて得た額を徴収することができる。」とあり、これは最大4割増しで報酬返還を求めることができ、しかも「徴収」、つまり強制執行できる(強制徴収力)という強力な権限です。

改善命令・返還命令

深刻度2:一定期間の効力停止

 深刻度2と3は似て非なるものですが、同じくらいの深刻度であるといえます。

一定期間の効力停止とは、発令から3カ月か6カ月の間、事業をすることができなくなります。当然その間にご利用者は離れ、別の事業所を利用するようになるでしょう。施設においては介護サービス提供の継続が絶対条件であるため、この処分が下されることは考え難いですが、もし下された場合、その期間は介護保険が使えず、入居者は全員、全額自費となります。

事業をストップ!3〜6ヶ月程度

深刻度3:指定の効力の一部停止

これは、既存の利用者へのサービスは続けて良いが、新規利用契約を禁じるものです。一定期間謹慎処分を命じられる深刻度2の場合とは異なります。或いは、行政側は「新規利用者を受け入れてもよいが、70%しか報酬請求できないこととする」といった処分もできる。

新規利用契約はNG!新規料契約しても報酬は満額出さない!

 

一定期間、介護事業の指定の効力が全部停止され、その期間は事業ができなくなります。当然ながらその期間は収入が途絶えるため、職員への給与等を支払うことで経営が追い詰められ破綻する危険が高いといえるでしょう。

この期間は介護事業をやるな!報酬も出さないから!

深刻度5:指定取り消し

指定取り消しは行政のペナルティの中で最も重い最終的な行政処分です。介護保険法第77条第1項は「都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該指定居宅サービス事業者に係る第四十一条第一項本文の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる」と定めています。具体的には以下のようなときに指定取消が宣告されます。

同条項第4号

「指定居宅サービス事業者が、第七十四条第二項に規定する指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準に従って適正な指定居宅サービスの事業の運営をすることができなくなったとき。」

同第5号

「指定居宅サービス事業者が、第七十四条第六項に規定する義務(利用者の人格尊重義務)に違反したと認められるとき。」

同第6号 「居宅介護サービス費の請求に関し不正があったとき。」

同第7号 「指定居宅サービス事業者が、第七十六条第一項の規定により報告又は帳簿書類の提出若しくは提示を命ぜられてこれに従わず、又は虚偽の報告をしたとき。

指定取り消し処分が下されると、事業所の営業活動は停止し、すべての従業員は職を失うことになります。既存の利用者には他の事業所を探してもらう必要が生じるなど、多大な影響を与えます。一度指定が取り消されると、原則として5年間は再指定を受けることができないため、介護事業への再参入は極めて困難となります。この処分も公表の対象となり、事業所の名前と違反内容が広く知れ渡ることになります。

今後は営業できません!原則5年間は再参入禁止!

深刻度MAX:連座制

 連座制とは、連帯責任といったイメージですが、同一法人内に複数の事業所が存在するとき、一か所につき生じた指定取消が他事業所にも波及してしまうという恐ろしい制度です。

連座制が適用されると、指定取消を受けなかった他の事業所も次期更新時に更新を受けられなくなります。

介護保険法第115条の33は「前条第二項の規定による届出を受けた厚生労働大臣等は、当該届出を行った介護サービス事業者における同条第一項の規定による業務管理体制の整備に関して必要があると認めるときは、当該介護サービス事業者に対し、報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、当該介護サービス事業者若しくは当該介護サービス事業者の従業者に対し出頭を求め、又は当該職員に関係者に対し質問させ、若しくは当該介護サービス事業者の当該指定に係る事業所若しくは当該指定若しくは許可に係る施設、事務所その他の居宅サービス等の提供に関係のある場所に立ち入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。」と定めており、この中の「業務管理体制の整備に関して必要があると認めるとき」という言葉が連座制適用の前段階となります。

その調査方法としては一般検査と特別検査があり、後者の検査がなされるということは連座制適用の実質的なリーチを意味します。

特別検査は、「指定又は許可を受けている介護サービス事業所又は施設(以下「指定事業所等」という。)の指定等取消相当の事案が発覚した場合に、当該事業所等の本部等へ立ち入り、業務管理体制の整備状況を検証 するとともに、当該事案への組織的関与の有無について検証を行うもの とする。

また、指定事業所等の指定等取消処分に至った事案に限らず、効力停止 処分の事案や利用者の生命又は身体の安全に重大な危害を及ぼす事案が 発覚した場合も、当該事業所等の本部等に立ち入り、業務管理体制の整備 状況の検証を行うものとする。 検査方法は、関係者から関係書類等を基に説明を求める面談方式によ るものとする。」とされています(令和6年4月4日「介護サービス事業者に係る業務管理体制の監督について(通知)」)。組織的関与の有無、すなわちトップや上層部がぐるになって現場から上がってくる不正や違法状態を黙認していたようなときに、組織ぐるみの悪質行為であると認定され、施設事業所のすべてがいわば根絶やしにされてしまうのです。

同一法人内の他の事業所も連帯責任!

介護・福祉特化の弁護士法人おかげさまでは、運営指導対策を承っております

運営指導のペナルティの種類、恐ろしさをご理解いただけたかと思います。運営指導でチェックされるポイントは、法改正やルール変更によって変動することがあります。そのため、土台になる法律、ルールの認識を最新状態にして運営指導対策に乗り出さないといけません。

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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