
目次
その指導は法に触れないか?職員の指輪問題
介護・福祉は、業務上ご利用者の身体に触れることが多々あります。手袋をしていることもあれば、素手の場合もあり、人の皮膚に触れる行為は時として怪我につながる可能性があります。皮膚を傷つける恐れがあるものとしては爪、指輪、腕時計等が考えられますが、それらは本人のアイデンティティが表れるところでもあり、事業所としてどこまでを許容して、どこから禁止にするかは悩ましく感じるところもあるでしょう。
今回は、「介護職員に、普段身につけている指輪の着用を勤務中禁止して良いか」というご相談事例を解説します。
規則に入っていない指輪の存在
当事務所の顧問先のある介護施設から、職員が身につけている結婚指輪に関してご相談を頂戴しました。
その施設では、職員は介護の現場において付け爪、ネックレス、時計は外すという規則を定めていますが、指輪は規則に入っていませんでした。ある時、結婚指輪をつけた職員がいましたが、規則が無かったので「指輪を外してください」と伝えて良いか悩んだそうです。
結婚指輪のデザインはシンプルなものが多く、凹凸も少ないので皮膚を傷つけるほどでないとも考えられます。しかし一般に、指輪をつけていることで介護業務中にご利用者の皮膚を傷つける可能性があります。また、不衛生と感じる方もいらっしゃるでしょう。一時的に外すようなことがあれば、紛失や食べ物への混入といったリスクも懸念されます。
これらの危険性を考慮すると「指輪は外してほしい」と思ったそうですが、しかし、「結婚指輪は人権に関わるのではないか」という意見もあり、判断ができなかったそうです。ご相談をお送りいただいた方は真面目な責任者で、禁止にすることで法的に問題が無いかを気にしていらっしゃいました。
業務上外させる必要性と合理性があるかどうかが肝心
指輪を業務上外させるとして、その指示に「業務上の必要性と合理性」が認められるか否かが判断のポイントとなります。その観点からは、一般に指輪をしたまま介助行為をすると利用者の体や皮膚を傷つける可能性があり、必要性が認められます。またそのデザインも様々であるところ触れたものを傷つけるような危険性の見極めも難しいことから、一律に禁止することに合理性が認められるものと考えました。一方で、勤務中という限られた時間内であれば結婚指輪を外してもその職員のアイデンティティを殊更に毀損したり、人格権にかかわるといったことは考え難いといえます。
そこで、結論としては「結婚指輪であっても外すよう指示する方向で進めて問題無い」とご回答しました。
ただ、これは飽くまで一弁護士の見解に過ぎず、最高裁の判例があるようなケースではありません。様々な考え方があり、それは個々の価値観に基づきます。そのような意見を完全に無視することも不自然と思われ、「最終的には皆で話し合い決めるのが良いのではないか」とも助言しました。
実務では、考えたこともなかったような問題に出くわすこともしばしばあります。そのようなときの判断基準として大事なのは、必要性と合理性といった要素です。また、外すよう指示する必要性と、指輪をつけることによる利益や権利といった対立する事柄を比較検討するという発想も重要です。どちらが100パーセント正しいということはなく、双方の言い分を考慮してバランスの取れた結論を模索すべきと考えます。
ネット検索でも出てこない疑問や悩みを解消!
安心して決定できるのが顧問弁護士の価値です
今回のご相談内容は、インターネットで検索しても納得できる回答を探すことは容易ではないでしょう。しかし、「これで良いのだろうか?」とモヤモヤしながら業務を続けたり、「もし、問題が発生したらどうしよう…」と不安を感じながら勤務することは、良い仕事につながりません。できることなら疑問や相談をスッキリ解消させて、安心して業務を行いたいところです。
そんな時に役立つのが顧問弁護士です。自社ならではの悩み、トラブル、疑問はお気軽に投げかけていただいて構いません。インターネットで情報を見つけるどころか、どのように検索すれば良いかすら分からないような事柄でもご相談いただいて構いません。この価値を業務に活かしていただき、より良い介護・福祉サービス提供につなげていただければと思っております。
また、当事務所は開設以来、介護・福祉分野に特化しており、様々なトラブル対応の実績がございます。介護・福祉業界の事情に合ったご支援、アドバイスが可能という特長があり、本ミニコラム以外にも一つのテーマを掘り下げた本格的なコラムを発信しております。こちらでは出来るだけ詳しく介護福祉において重要なテーマについての分かりやすい解説、対策法、考え方、事例などをお伝えしています。
最後に、最新コラム情報をはじめ、介護トラブル解決に関する最新情報、セミナーや出版情報をお届けする無料のメルマガを発信しております。ご登録いただくだけで、定期的に情報が届きますので、ぜひご登録ください。

弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。