【ミニコラム】契約前の相手から受けた暴言はカスハラになる?

カテゴリ
【ミニコラム】おかげさま事件簿
(解決事例集)
公開日
2026.03.04
契約前の相手から受けた暴言はカスハラになる?

契約前の相手から受けた暴言はカスハラになる?

「カスハラ」という言葉が少しずつ社会の中で知られてきています。ニュースでも報道されるようになり、企業によってはカスハラ対策を経営課題に挙げているところも出てきています。どの業界も人材不足、採用難を感じはじめ、「今いる従業員をいかに守るか」を考える経営者が増えてきていると考えられます。

ところで、「カスハラ」は「カスタマー・ハラスメント」の略ですが、「カスタマー」とは「お客さん」のことを指しています。では、まだお客さんでない人から受けた暴言や暴力はカスハラになるのでしょうか?

今回は、顧問先様からいただいたカスハラに関するご相談を事例にして解説します。

複数の介護施設を運営するA社。ある施設で、ご利用契約前の段階にあるご家族(息子さんとその奥さん)が面談に来られました。

息子さんのお父さんの件で今後施設を利用しようと考えているとのことで、説明を聞くために訪れていたのです。

事前に「初めての相談で慣れていない」と聞いていた施設長は、資料を用意して丁寧に説明をしました。「ご利用していただきたい」と思いつつも、施設入所以外にも「こんな考え方もありますよ」というアドバイスやご提案も交え話をしました。

その日の夕方、施設長が帰宅しようとした時、息子さんから電話がきました。

「今日ご夫婦で面談でいらした方ですが、すごく怒っている様子です」

電話を取り次いだ職員は少し不安そうに伝えました。

電話を代わると、突然、

「今日のあなたの態度はなんだ!こっちが何も知らないからって、上から目線で偉そうに言いやがって!」

と怒鳴ってきました。面食らった施設長は何も言えないままでいると、

「こっちを見下すような目で見やがって!俺を舐めているのか!」

「決定権はこっちにあるんだ!俺に指示するな!」

「俺を馬鹿にしやがって!舐めた態度を続けるなら、弁護士つけて訴えてやるぞ!施設の悪評を言いふらしてやろうか!」

と矢継ぎ早に言われました。

あまりの剣幕に恐くなった施設長は「今日はもう時間も遅いですし、明日以降でこちらからお電話させていただきます。」と伝えて電話を切りました。

施設長は「これはカスハラではないのか?」と思ったそうですが、「まだ契約をしていない段階でもカスハラと言えるのだろうか?」と疑問に思い、当事務所へご相談されました。

 

契約前でもカスハラに該当!

今回のように、契約前段階の暴言でもカスハラに該当します。「カスタマー・ハラスメント」の「カスタマー」は「お客さん」という意味ですが、まだお客さんでなくとも今回のように施設運営者の事業に関係を有する者であれば、カスハラに当たるといえます。

改正労働施策総合推進法は、「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの」(改正労働施策総合推進法第三十三条)と定義しています。

正式な「利用者」ではなくとも、事業に関係を有する者(これを「顧客等」という)から受けたハラスメントもカスハラに該当すると解釈できるのです。

つまり、今回、父親が施設を利用するかどうかの検討で面談を行った息子さんは「顧客等」に該当する人物であり、息子さんの言動は明らかに社会通念上許容される範囲を超えたものであるため、カスハラと考えて良いでしょう。

既に取引のあるお客さんでなくとも、契約前の打ち合わせ段階でもカスハラになることがあることを確認しておきましょう。

たとえ契約前の人でもカスハラになることがある

カスハラを理由に利用を拒否できる?

では、もしこのご利用者と息子さんがこの施設の入所を希望してきた場合、施設としては断ることができるのでしょうか。

これは残念ながら難しいといえるでしょう。特養であれば運営基準第四条の二に「指定介護老人福祉施設は、正当な理由なく指定介護福祉施設サービスの提供を拒んではならない。」と定められ、「正当な理由」とは「院治療の必要がある場合その他入所者に対し自ら適切な指定介護福祉施設サービスを提供することが困難な場合」とされています。利用開始前から、「あなたはカスハラをするので利用はできません」と断ることは、恣意的な選別につながるおそれもあるためできないと解される可能性が高いといえます。

もっとも、利用開始後は利用契約書記載の条項に双方服することになりますので、信頼関係が破壊されたことを理由に施設側から解除することは可能となります。もっとも、このように一度受け入れてからカスハラを理由に解除するというのは迂遠であり実際に退去まで持ち込むことが困難となる場合もあることから、実際にはこのご家族と再度面談し、「先日のお電話口での言動はいわゆるカスハラに該当するところ、入所に際してはそのような言動をされないよう誓約頂きたい」と申し入れると良いでしょう。恐らくこれに素直に応じることは無いと思われ、利用を向こうから断ってくる可能性が高いと思われます。もし応じると答えたときは誓約書に署名頂き、利用開始後に実際にカスハラがあったときはそのときに自主退去して頂くよう求めることになります。

カスハラ応対の文言は弁護士法人おかげさまのYouTubeショートで公開しております

現場で仕事をする職員は、いつカスハラに遭遇するか分かりません。

急に暴言を吐かれたり、怒鳴られたりすると委縮してしまい、何を言えば良いか分からなくなると思います。

そんなときのために、普段から応対の仕方を把握しておくと良いでしょう。当事務所のYouTubeショートでは、カスハラ相手への応対の仕方をご紹介しております。様々なシーンの事例を公開しておりますので、ぜひご活用ください。YouTubeを視聴する

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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