【ミニコラム】どうする?利用者間の暴力問題

カテゴリ
おかげさま事件簿
(解決事例集)
公開日
2025.11.26
どうする?利用者間の暴力問題

どうする?利用者間の暴力問題

施設・事業所で発生する暴力問題。

職員が利用者に暴力をふるえば「虐待」になり、利用者が職員に暴力をふるえば「ハラスメント」「問題行動」になります。どちらも典型的な現場のトラブルでありこれまで当コラムでも度々取り上げてきましたが、「利用者同士の暴力」が起きた場合はどのように対応すべきでしょうか。今回は、利用者間で発生した暴力事件について解説します。

AさんがBさんの顔面を杖で殴打

AさんがBさんの顔面を杖で殴打

当事務所の顧問先の施設で、些細な言い争いをきっかけに利用者Aさん(軽度の認知症)が同じフロアの利用者Bさん(重度の認知症)を杖で殴打する事件が発生しました。バシッという鋭い音がリビングの方から聞こえ、異変に気づいた施設職員が駆け付けたところBさんが両腕で頭を押さえうずくまっていました。その近くにAさんが興奮した様子で仁王立ちになり、杖をふりかざしていたのです。ただならぬ事態を察知した職員はすぐに両者を引き離し、救急車を呼びBさんを病院へ搬送しました。Bさんの右腕は広範囲にわたり内出血しており、レントゲン撮影したところ腕を骨折していました。

状況から、AさんがBさんを杖で殴打したことは容易に想像できましたが、Bさんは重度の認知症であり、ぐったりしているので被害状況を詳しく聞き出すことができません。また受傷の瞬間目撃者はおらず、室内カメラの死角であったため映像も残されていませんでした。

そのため詳しい状況は主にAさんの話からしか分かりませんでしたが、施設は聞き取った内容をもとに状況を把握し、その後、双方の家族に報告し交互にやり取りをしました。

このやりとりの後に、顧問弁護士である当事務所へご相談がありました。「Aさん家族もBさん家族も、事情を理解して頂けず一歩も引かない。一体どうすればいいのか…」と大弱りです。経緯を聞いてみると次の通りでした。

納得しない加害者家族と警察の介入

施設側は、まず被害者であるBさんの家族と面会し事情を報告しました。Bさんが殴打された状況を説明し、施設の不注意で今回の事件が起きてしまったことを謝罪しました。その上でAさんに対してどのようなことを求めるかお尋ねしたところ…

Bさんのご家族、特に息子さんはひどく腹を立てており、以下の対応は最低限必要であると迫りました。

・Aさんには退去していただきたい

・Aさんと、Aさんの家族に謝罪していただきたい

・上記対応を求め直接やり取りをしたいので、Aさん家族の連絡先と住所を開示せよ

・今後の対応によっては本件につき警察に被害届を出す

これを受けた施設は弱ってしまいましたが、Aさん家族にそのままBさん側の要望をお伝えしました。するとAさん側は次のように回答しました。

・Bさんには気の毒だが、うちの父だけが悪いということも無いだろうから、こちらだけ

一方的に謝罪することはできない

・退去はできない。うちの父にも居住権があるはず

・面会はしない。また恐怖を感じるので、自分達の個人情報は相手に伝えてほしくない

・エスカレートするようであればこちらも警察に相談する

施設としては完全に両者の板挟みになってしまいましたが、Aさん側の回答をBさん家族に伝えることは抵抗があり、そのままにしていたところ次の出来事が起きました。Bさん家族が警察に相談し、警察が現場の任意捜査にやってきたのです。

施設は完全に両者の板挟み

Aさん家族の反論とBさん家族の判断

警察のヒアリングや現場検証は簡単なものでしたが、突然のことだったので現場は大慌てとなりました。一通りの調査の結果、やはり本件はAさんが一方的にBさんが悪いと誤解し攻撃したようであることが分かりました。

そのことを施設がAさん家族に伝えたところ、ご家族は

「父がBさんに怪我をさせたことは理解した。しかし、話を聞く限りではBさん家族はあまりに一方的だ。お互い認知症であり、施設の中でこういうことは十分あり得ること。そうしたトラブルを防ぐのは現場を管理する施設の責任であり、私達家族は関係ないはずだ。」と主張されました。

この言い分ももっともに思われ、とてもBさん側が求める「Aさんの退去」まで実現することはなさそうです。さりとて、どちらかにフロアを移って頂くこともすぐにはできず、現場では極力AさんBさんが顔を合わせることがないよう職員達がヒヤヒヤしながら付き添っている状況… 困り果てた施設が弊所に相談されました。

「今後再発のリスクを考えると、AさんとBさんを別フロアにした方が良いと思うが満床なのでそれはできない。そうなるとどちらかに退去していただくしかなくなるが、Aさん側に退去を求めて問題ないでしょうか。また本件につき施設側に落ち度はあるのでしょうか。」というものでした。

困難なケースほど、丁寧な記録を

本件のような利用者間の暴力事件はドロ沼化しやすいといえます。案の定本件も家族同士の対立に発展してしまいましたが、このようなとき間に立たされる施設はどう対処すべきでしょうか。

退去は不可能、施設内移転もダメとなると、「もうお手上げ」となってしまうかもしれません。しかしここが正念場であり、やるべき明確なことが一つあります。それが「関係者との協議交渉の記録」です。

すなわち、これまで記述してきたようなBさん家族、Aさん家族、警察さらには行政機関、協力医等とのやり取りを克明に記録に残すことです。勿論、内部の検討会の議事録もいつもより丁寧に残しておきましょう。

これがどう役立つかというと、万が一利用者同士のトラブルが再発してしまったような最悪の事態に陥ったとき、「施設としてはこの事態を回避するためできる限りの策を講じていた」と説明できるのです。表現は悪いですが「決して手を拱いていた訳ではない」と示すエクスキューズになります。

もし、そのような経緯を説明する資料が無ければ、「うちもそれなりに危機感をもって頑張っていたんですよ」といった程度の説明しか第三者に対してできないことでしょう。そうなると、言うまでも無く利用者同士のトラブルについても安全配慮義務を負うのは施設ですから、すべきことを尽くさなかったとして有責とされる可能性が高まります。

勿論、こうした取り組みは「自分達が責任追及されないため」ではなく大切なご利用者の命と身体の安全を守るためなのですが、須らく丁寧で詳細な記録というものは自分達を守ってくれるものなのです。

とにかく事実!とにかく記録!

要求に対しては一つずつ回答

その上で一つずつ課題を解決していくことになりますが、総じてBさん家族の要求は通らないといえそうです。

・Aさんには退去していただきたい

これは現実問題として経済的理由もあり不可能ということであれば、その旨伝えます。

・Aさんと、Aさんの家族に謝罪していただきたい

「謝罪は法的に強制できるものではなく、当事者が応じなければ実現しないところお相手は謝罪の意思はないと仰っている」と端的に伝えます。

・上記対応を求め直接やり取りをしたいので、Aさん家族の連絡先と住所を開示せよ

これはAさん家族のいう通り、個人情報なので開示できません。

その上で本件の法的解決について進めますが、前述の通り施設側の責任となる可能性があるため損害保険会社に相談し査定してもらいましょう。過去に同種の事件に関する裁判例もあります(平成18年8月29日大阪高裁判決)。解説動画もご参照ください。(解説動画はこちら

保険会社の方で治療費等が支給されるようであれば、Bさんご家族にご提示し示談成立を目指します。本件はシンプルな転倒事故等と異なる性質のため、施設の方でお見舞金を多少お出ししても良いかと思います。

できる限りの安全策を

いうまでもなく、現場における再発防止が最重要課題です。まずは杖や鈍器など凶器になり得るものをAさんから遠ざけましょう。杖はやめ、歩行器等に切り替えて頂きます。これくらいの譲歩はAさん家族としても飲みやすいでしょう。現場ではAさん、Bさんの普段の様子や感情の起伏についてより丁寧に観察記録し、万が一でも接触することが無いよう注意します。それでも限界がある場合は、その理由と共にAさんBさんの両家族に都度報告相談し、「このままでは危険を回避しきれないかもしれない。そうなる前に転居することも現実的な方法と考えます」等と施設としての考えを伝えます。それでも応じなければそれはAさん側の責任という形に持っていきやすくなり、そうしたリスク回避の効果もあることからやり取りを記録していくことが重要になってきます。或いは、Aさんの粗暴性が高まり非常に危険な状態となることも考えられます。その場合は入居契約の中の施設側からの解除条項に該当するといえ、施設から解除し退去を求めることも考えられます。

冷静な判断、適切なアドバイスは顧問弁護士の役目です

利用者間の暴力問題は、ドロ沼化すると業務を圧迫し、職員の疲弊を招きます。家族への報告や話の進め方は、細心の注意が必要となります。初期段階で顧問弁護士に状況を共有し、法的な視点と裏付けをもって対応することが、施設の不安解消と対応の確実性を高める上で効果的です。

当事務所は介護・福祉・医療分野に特化しており、本件のような困難事案の経験も豊富です。具体的な事例や現場で注意すべき法律のポイントなど、様々な情報をコラムで無料公開しておりますので、ぜひご覧ください。

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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