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【後編】介護経営を守る「最強の盾」 ~ハラスメント対策と問題職員への対応~
おかげさまです、武田です。
前編では、介護現場におけるハラスメント対策の重要性と、組織を守るための「就業規則(ルールブック)」の作り方について解説しました。しかし、どれほど強固な盾を用意しても、現場で職場の秩序を乱したり、業務命令に従わない「問題職員」が実際に発生した場合、それを正しく運用できなければ意味がありません。
経営者としては「いっそ辞めてもらいたい」と頭を抱えるケースも多いでしょう。後編となる今回は、整備したルールを現場でどのように活用し、法的リスクを抑えながら問題職員に対処していくべきか、より実践的な対応ステップを解説します。
解雇の前には根気強く指導を繰り返す
問題職員に対し、経営者が最終手段として考えるのが「解雇」です。しかし、日本の労働法制度において、解雇は非常にハードルが高く、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ「不当解雇」とみなされます 。解雇が有効と認められるための「布石」として最も重要なのが、改善を促すための根気強い指導の繰り返しです。 問題職員へ対応する場合の3つのポイントを以下に示しました。
1. 「いきなり解雇」は原則として通用しない
裁判所は、事業主が解雇の前に「改善の機会をしっかり与えたか」をチェックします 。能力不足や勤務態度の不良を理由とする場合は、一度や二度の注意ですぐに解雇することは認められにくいのが現実です 。口頭注意、書面による指導、改善命令、そして懲戒処分(戒告・減給など)という段階を踏むことが最終的な解雇の正当性を証明する鍵となります 。
2. 指導・改善プロセスの「記録」が最強の証拠になる
指導は「行った」という事実だけでは不十分で、それを客観的な証拠として残す必要があります。「いつ」「誰が」「どのような問題に対し」「どのような改善を求めたか」を詳細に記録してください。指導に対し、職員がどう反応したか(反省の有無、弁明の内容など)を記録することも、将来的な解雇の相当性を判断する重要な材料となります。
3. 就業規則に基づいた適正な手続き
解雇や懲戒処分は、あらかじめ就業規則に定められた事由と手続きに従って行わなければなりません 。問題行為に対して、就業規則の服務規律や懲戒規定に照らして一貫した対応をとることが重要です 。処分を下す前に、職員本人に言い分を聴く「弁明の機会」を与えることも、手続きの適正さを確保するために不可欠です 。
私がこれまで担当した労働紛争を振り返ると、事業者側が「何度も注意した」と考えていても、職員側は「具体的に何を改善すればよいのか分からなかった」と主張するケースが少なくありません。
大手企業では、人事評価制度や業務マニュアルが十分に整備されているため、「あるべき姿」が比較的明確です。しかし、介護現場では経験や感覚に依存した指導が行われることも多く、管理者ごとに指導内容が異なることがあります。
そのため私は、問題職員への指導においては、「何が悪いか」を伝えるよりも、「どうすれば良いのか」というお手本を示すことが重要だと考えています。

指導のポイントは「お手本」を示すこと
問題職員への指導を口頭だけで行うことはリスクがあります。人により伝え方や表現方法が異なるため、「Aさんには伝わってもBさんには伝わらない」という問題が発生します。「こういう行動はしてはいけない」と伝えても「では、どういう行動にしたら良いのか」を考えられる人もいれば、全く考えられない人もいます。そういう問題に備えて「こういう行動をしましょう」とか「これが正しい状態です」と分かる「お手本」を用意することが重要です。
「あるべきお手本」をまず示しながら指導をし、完了後は確認をします。お手本通りに出来なかった場合はその理由を問い質し、根拠が無ければ怠慢によるものとして指導し、書面で残すようにすると良いでしょう。
この一連のやり取りを繰り返し、それでもどうしても改善の兆しが無ければ退職勧奨や普通解雇に踏み切るという流れが良いでしょう。

解雇を回避するための「退職勧奨」と注意点
根気強い指導を行っても改善が見込めない場合、普通解雇に踏み切る前に検討すべきなのが「退職勧奨」です。これは、事業所側から職員に対して「退職してはどうか」と説得し、合意の上で退職してもらう手続きです。 双方の合意に基づくため、不当解雇として訴えられるリスクを大幅に下げることができます。しかし、やり方を間違えると「退職強要」として違法と判断される危険性があります。 退職勧奨を行う際は、以下の点に注意してください。
・長時間の面談や大声での威圧をしない(面談は適正な時間にとどめる)
・「辞めないなら解雇だ」と脅さない
・面談には複数名(管理者など)で同席し、客観的な記録を残す
あくまで「職員本人の意思による合意退職」を目指す姿勢が、後のトラブルを防ぐ重要な防波堤となります。

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弁護士武田 竜太郎
2006年司法試験合格。外資系の弁護士事務所で約7年間、企業法務(M&Aやベンチャー支援など)に従事。企業買収を通じて会計への関心を深め、都内の不動産会社に転職し、社内弁護士として法務部門の立ち上げに携わる。勤務と並行して会計を学び、公認会計士試験に合格。
2025年に初任者研修修了。企業法務・M&A・会計の知識と経験を活かしながら、現在は介護・福祉分野の事業所支援に注力している。










