虐待事件が発生!殺到するマスコミからの問い合わせ対処方法

カテゴリ
問題職員対策
公開日
2025.09.01
職員が虐待容疑で逮捕!?電話が鳴りっぱなし、どうすれば⋯

弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。現場の皆様の業務についてご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。

虐待事件が発生!殺到するマスコミからの問い合わせ対処方法

介護・福祉の世界で、ご利用者に対する痛ましい虐待や殺人などの事件・事故をニュースで知ることが度々あります。昨今はインターネットやSNSでの情報の方が公式発表や大手マスメディアよりも早く、誤報や噂も含めて様々な情報が飛び交うこともあるようです。それにより不安に駆られたご利用者家族が問い合わせや苦情を施設に対し申し立てる…ということもあるでしょう。ひとたび事件が起きれば、怒涛のように押し寄せる事態に、迅速かつ的確に対処していく必要があります。

しかし、通常施設においてそのような大ごとは滅多に起きませんし、その後のマスコミ・関係者対応を経験することもそうそうありません。こうした対応に慣れている、という人は少ないことと思います。

そこで今回は、いざそのような事態となっても慌てずに済むよう、職員が虐待を起こした直後からのマスコミ・関係者対応について解説します。

事件報道後にかかってくる電話

当事務所の顧問先様である施設職員が、ご利用者に虐待をした容疑で逮捕されました。職員本人は容疑を否定しており、確たる証拠はありません。

この事件は警察署から記者クラブに発表があり、その日の夕方に地元新聞が記事にしたため、一瞬で地元に知られることとなりました。しかし、施設名や逮捕された容疑者名は伏せられていたため、まだ特定されるような状況ではなかったのです。

しかし、その地域にある介護・福祉事業所は数えるほどしか無く、ある程度絞り込みで予想はできる状態でした。

 

あるとき、施設に非通知設定で電話がかかってきました。

 

「先日の●●●市で発生したという虐待事件は、お宅の施設で発生したことで合っているか?」」

「ネットの情報でお宅の施設の名前が出ていたので、気になって電話した」

 

という内容だったそうです。話を聴いていると、その方の家族が施設を利用していたり、利用を検討しているという方ではありませんでした。

虐待事件が発生したさい、施設に非通知設定で電話がかかってくるときの対応

突然かかってきた電話に対し、「上長が不在のため、私から返答することが難しい。」と返答したところ、

「否定しないということは、お宅の施設で虐待があったと考えて良いのですね?」

「市役所に問い合わせたら、施設に直接問い合わせるよう言われた」

「逮捕者まで出たのだから、そこは教えるべきじゃないのか?」

と詰め寄られました。担当者は、「何もお答えができない」と繰り返し、何とかその場をやり過ごしました。

虐待事件が発生した後、非通知電話の対応の難しさ

このように事件に関する問い合わせでかかってくる電話に対し、どのように応対すべきかというご相談をいただきました。

基本姿勢は「守秘義務があるのでお答えできない」

このような時、基本姿勢としては「守秘義務があるため、最低限のことしかお答えできない」で通すことが望ましいとアドバイスしました。

この点、利用者家族など、施設と利害関係を持つ方からの質問に対しては最終的には情報を整理して確実なことを報告する義務があるといえます。利用契約上、施設側は利用者の生命・身体・財産を守る義務があり、これに附随する義務として事象の説明責任を負うためです。

しかし、それは飽くまで最終的に法人としての見解が出た段階であり、本件のように職員が容疑を否認しているような状況で虐待の有無について認否を明らかにすべきではありません。被害者(かもしれない)ご利用者にとっても、虐待されたという情報を勝手に開示されることは要配慮個人情報(「犯罪により害を被った事実」)を漏洩されることと同義です。このような機密性の高い情報を、施設の全関係者は漏洩しない義務(守秘義務)を負います。

基本姿勢は「守秘義務があるため、お答えできません」

警察との関係でも、施設側で不用意に情報を漏らすことで思わぬところで証拠が散逸する等、真実発見が妨げられる可能性も0とはいえません。行政だけでなく警察機関も動いている状況下では、各方面に気を配り慎重に動いていく必要があります。

ましてや、今回のように利用者でもご家族でもない部外者からの質問に答える義務はないといえます。

ただ実際には、「施設で虐待をしてしまったかもしれない」という状況で今回のように問い詰められると、責任感や正義感からつい「虐待がありました」等と認める発言をしてしまうかもしれません。そうなると「やはりそうだったのか」と蜂の巣を突いたような騒ぎとなりかねず、注意が必要です。本人が虐待をしたことを否認している以上は、雇用主である施設の立場でも、刑事裁判の判決が出て確定するまで虐待をしたと認定することはできないのです。

特に事件発覚から間もない場合は、応対方法について法人としてルールを決めていない場合がほとんどです。電話応対者が勝手に回答したことで更に話に尾ひれをつけて悪い噂を流される等収拾のつかない事態になりかねません。

勝手に認めない

具体的対処法としては、虐待被疑事件などが勃発する前の平時の段階で、各職員(特に電話応対する事務局)に、「法人としての統一見解がまとまるまで、自分の判断で回答や意見を述べてはならない」と周知徹底されると良いでしょう。

今回のような問い合わせが外部から来たときは、「法人としての統一見解がまとまるまで何もお答えできない」とそのまま答えることも考えられますが、「いつまとまるのか、約束せよ」等と追及されてもきりがないため、「守秘義務もあるので何もお答えできません」と端的に言いお断りすることがベストであると考えます。

マスコミからの取材攻勢対策

では、マスコミから取材申し込みがきたときはどう対応すべきでしょうか。こちらが守秘義務を盾に断っても、「我々は国民の知る権利を実現するために取材します。取材の自由に基づき申入れします」等と返してくるかもしれません。

この点「知る権利」とは飽くまで国に対する憲法上の権利ですから、民間企業には適用されないため、知る権利を持ち出したところで決め手にはなりません。報道の自由を正当化する根拠の一つです。法律や契約で「説明義務」「情報提供義務」がある場合を除き、取材応諾は飽くまで受ける側の任意です。しかし現実には、一つ断っても次から次へと申込があり収拾がつかなくなる恐れがあり、また放置すると憶測も交えネガティブな記事ニュースを出されてしまうリスクがあります。特に虐待という公共性の高い事案や社会的関心が大きい事件では、理由なく企業が社会に対する説明を拒否するとイメージダウンになるため、心理的・社会的圧力として機能するといえるでしょう。

マスコミからの取材申し込みで余計に混乱する

 

そこで現実的対応としては、「以下はお答えできないが、執行部の方で見解をまとめて後日皆さんにお伝えする。その際記者会見を開くか、プレスリリースを発行するかは未定である」と答えられると良いでしょう。ともかくもその場で迫られ、勢いに押され相手の望むような回答をしてしまわないことです。別に、旬のニュースを扱うマスコミだからといってこちらが直ちに対応しなければならないという義務はありません。主導権を手放さない様留意し、落ち着いて対処してください。記者会見やプレスリリースの方法については、また別の機会に解説します。

相手の勢いに飲まれるな!迂闊なことは絶対に言うな!

緊急事態に備えて知識と顧問弁護士の備えを

職員が逮捕されるような緊急事態は、普段業務の中でそうそう起こるものではなく、働いている方全員が不慣れな状況と言えます。そんな中適切な対応をせねばならず、不安もストレスも多くなるでしょう。

緊急事態で物事を判断するには、自分自身や組織の知識に頼ることが挙げられます。例えば過去に同様の事例の対処法を研修で学んでいたとしたら、適切な対応が出来る可能性が高くなります。勉強会で学んだこと、過去に経験したことがあれば、わが身を助けます。そのために本コラムもご活用頂き、いざという時に読み返せるようストックして頂ければ幸いです。

ただ、やはり本件のようなイレギュラーで厄介な事態には、弁護士の力を活用することをお薦めします。普段から顧問弁護士と連携し状況を知っておいてもらい、いざ事件が起きればすぐ顧問弁護士へ相談し、先々を見通した対応方法を決めることが明暗を分かつことがあります。くれぐれも現場判断で各々の職員が対応するようなことは行わないようにしましょう。

イレギュラーな厄介ごとに弁護士を活用という策があります。

弁護士は法的リスクを勘案しながら最善策をアドバイスすることに長けており、特に本件のようなイレギュラーな事態に臨機応変に対処することが得意です。経験があり業界について精通した弁護士であれば、二手、三手先も見通した上でアドバイスを迅速にすることができます。

当事務所は介護・福祉・医療分野に特化した弁護士法人として、全国の顧問先様のご支援をしております。虐待被疑事件や、実際に虐待をしてしまったというケースでマスコミが押し寄せ、これに対処した経験も御座います。何かあればいつでも、お気軽にご相談ください。

当事務所では、少しでも現場でお役立ていただけるよう、コラムにて様々なトラブル対応に関する情報を発信しておりますので、ぜひ活用ください。

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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