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内部告発を盾に施設の人事権を骨抜きにしようとする問題職員
勤務態度の改善が見られないいわゆる問題職員に対し、やむを得ず雇用主側で「解雇」を検討し始めた矢先、その職員が施設のアキレス腱に切りつけるような行動で報復する…
こうした、人事指導と私的感情による報復が絡み合う複雑なトラブルが介護現場で増えています。特に近年問題となっているのが、虐待など本来は組織の自浄作用により解決すべき事柄に関する「内部通報」が、職員自身の保身や施設への攻撃手段として悪用されるケースです。
事実無根の告発であっても、受ける側の行政にとってはその真偽は分からず、正しいものとして動かざるを得ません。そしてひとたび行政が動けば施設側は多大な労力を割いて釈明しなければならなくなります。
では、このような報復目的ともいえる告発リスクを退けるためには何が必要なのでしょうか。本記事では、内部通報と解雇の因果関係を客観的に切り離す考え方と、いざという時に施設を守る方法について、法的視点から詳しく解説します。
勤務態度が悪いパワハラ職員
特別養護老人ホームで働くHさん(50代女性)はここ数年勤務態度が悪く、他のスタッフへのパワハラも目立っていました。入社したての頃はいたって普通の職員でしたが、勤務年数が増すにつれ勤務態度が明らかに横柄になってきたのです。
Hさんによるパワハラ被害を受けた後輩職員からの報告は後を絶ちません。施設長が指摘するとその場ではむすっと黙り込むものの多少は大人しくなり、時間が経過するとまた元に戻る…ということを繰り返していました。
何度注意しても改善されないまま、いよいよ3年が経過した頃、施設長はHさんを解雇する決断をしました。
覚悟を決めてHさんに向き合い「ここでの勤務を諦めてほしい」と告げた途端。
「私がどれだけこの施設に尽くしてきたか分かってるんですか?」
「パワハラと言われますが、私だって周りから相当ひどいことを言われてきた。施設長はどこまで現場のことをご存知なんですか」
「私は反省して改善した。解雇なんて絶対受け入れられない!労基署に訴えます」
Hさんはものすごい剣幕で反論してきました。施設長は一瞬たじろぎましたが、既に決定した解雇を撤回することはなく、解雇通知書をその場で手渡したのです。

問題職員が虐待の内部通報者に
Hさんに解雇を言い渡してから3日後。行政から施設宛てに突然連絡がきました。
「そちらの施設で虐待や不必要な身体拘束が行われている疑いがある」ということでした。
内容は、暴れて他者を殴ろうとした認知症の入居者を、やむを得ず一時的に制止したという現場の苦肉の策を「不当な拘束」として曲解したもので、全くの事実無根です。
「施設内部の人しか知らないことなのに…何故行政から連絡が?」と驚いた施設長でしたが、告発者の心当たりはありました。外ならぬHさんです。
Hさんにこの件で面談を求めたところ、意外にもHさんはあっさりと応じました。その席でHさんは、勝ち誇ったような表情で「このことはずっと前から行政に相談していたんです。公益通報者保護法があるから、私を解雇するのは施設による報復人事であり無効となりますね」と言い放ちました。

内部通報と解雇に関係があるかが肝
公益通報者保護法は、確かに「公益通報をしたことを理由として解雇することは無効」としています。しかし、本件では「Hさんが通報をしたから解雇した」という関係ではありません。施設としては「内部通報と解雇との間に因果関係が無い」という事実を示せば足ります。
つまり、内部通報者に対する報復等の目的で解雇したのではなく、飽くまで別の理由で解雇したということを示せれば良いということです。
もちろん行政が疑っている虐待と身体拘束に関しては、Hさんの通報内容は全くの事実無根であることを説明する必要があります。コンプライアンスを遵守し適切に運営していれば身体拘束の実施記録や計画、日々の介護記録があるはずですので、それらを示せば疑いは晴らすことができるでしょう。
問題職員であることの証明が必要
Hさんの勤務態度がずっと悪く、他職員にも迷惑がかかって業務に支障が出ていること、何度注意しても改善が見られないため、仕方なく解雇に踏み切ったということが分かる記録を示すことで、万が一第三者機関に疑われたとしても内部通報との因果関係が無いことを説明できます。
Hさんに問題行動が起きる都度注意した記録、人事会議などでHさんの勤務態度の悪さについて話し合った議事録、Hさんのパワハラに困って相談してきた他職員の記録などがあれば、内部通報するより前から勤務態度が悪く、それを理由に施設が解雇をしようとしたことが証明できるでしょう。
介護業界では主にご利用者のケアや状態について記録をとる習慣がありますが、その理由としては職員間で重要な情報を共有し、また「万一の時に記録見返して、その時の事実を確認する」といったものがあります。
これらの記録は介護保険法令上、義務として課せられているためどの施設でも完璧に作成するものですが、こうした記録の重要性は内部の労務関係においても変わりません。
特に本件のように問題になりそうな職員がいる場合は、指導や処分など関わった過程をできるだけ詳しく記録し残しておくと良いでしょう。
一対一の面談の記録など、とにかく「後々問題になりそうだなと思ったら記録を残す」という意識を持っておくとリスク回避しやすくなります。

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弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。









