
弊所の顧問弁護士として対応したケースをご紹介します。顧問契約をご検討いただく際の参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。
目次
警察沙汰のカスハラ発生!?度を越えたカスハラ相手には、まずはこう対応する
昨今、全国ニュースでも頻繁に取り上げられるようになった「カスハラ(カスタマーハラスメント)」。2025年6月4日には労働施策総合推進法が改正され、企業にカスハラ防止策を講じることが義務付けられました。カスハラが社会的に認知されるようになってきましたが、介護・福祉分野では以前からカスハラが頻発し、職員を悩ませる問題となっています。
カスハラが離職、休職の大きな要因となることも多く、事業所経営に深刻な打撃を与えかねません。
特に、カスハラの場合、相手が利用者やそのご家族になるため、事業所側が注意や指摘をする際に心理的なハードルが高くなる傾向があります。こうした場面で顧問弁護士がお役に立てるのですが、今回は警察沙汰にまで発展した悪質なカスハラへの対応事例をご紹介します。
突如会議室に乗り込んできた利用者のご家族
顧問先である有料老人ホームを運営する事業所からのご相談です。
ある日、施設では通常の運営会議を実施していました。すると、突然廊下から大きな足音が聞こえ、次の瞬間、会議室のドアが勢いよく開きました。そこに立っていたのは、ご利用者Aさんの娘Bさん。
Bさんは無断で入室すると、施設長に対し、過去の施設対応を強く批判し、謝罪を迫りました。
これに対し施設長は「会議中ですのでお引き取りください」と冷静に伝え、退去を求めましたが、Bさんは応じず、施設や施設長を執拗に非難し、謝罪を求め続けたのです。会議は中断を余儀なくされ、職員も困惑し、業務にも支障が生じる事態となりました。

施設長が繰り返し退去を求めても聞き入れず、やむなく警察へ通報。駆け付けた警察官が事情を聴き「今日のところはお引き取りください」とBさんを説得したものの、Bさんは拒否して、滞在し続けました。
その日は会議を再開できず、業務も一部滞りました。警察官もBさんの態度に呆れ果て「あれは完全にカスハラですね」と認めるほどの事態でした。
顧問弁護士から警告文書を送付
翌日、施設長から当事務所に相談が寄せられ、当日の録音データが送られてきました。ご依頼は、
●同様の事態を防ぐために文書で警告したい
●弁護士からBさん宛てに通知書を送付してほしい
というものでした。
そこで当事務所は、速やかに警告通知書を作成し、Bさんへ送付いたしました。
幸い、会議室でのやり取りを施設側が録音していたため、状況の把握に大いに役立ちました。冷静な対応と同時に証拠を残していた施設側の対処は非常に適切でした。
録音データは重要な証拠となります。スマートフォンのアプリでも十分ですので、安全が確保できる状況であれば、問題発生時に録音されると良いでしょう。

カスハラ対応は「イエローカード」から
今回のBさんの行動は極めて悪質です。許可なく会議室に侵入し、施設長の退去要請にも応じず、さらに警察が介入しても退去を拒否。施設運営を妨害したのは明白です。
再発の可能性も高いため、当事務所から警告文書(イエローカード)を送付することになりました。
カスハラ対応で重要なのは、いきなり契約解除(レッドカード)に踏み切るのではなく、まずは警告を行い行動の是正を促すことです。そのため、実務上は、まず「イエローカード(警告)」から始めることが多いです。
今回も、施設長が「退去してください」と警告し、それでもBさんが応じなかったために警察に通報した判断は適切でした。その後に顧問弁護士から警告文書を送付した流れは、まさにイエローカードを段階的に活用した好例と言えます。
もちろん、同様のカスハラ行為が繰り返されれば、契約解除といった「レッドカード」に進む必要があります。但し、ご利用者の生活や健康に直結するため、安易な契約解除は避けるべきで、まずはイエローカードで警告し、改善を促すことが重要です。

カスハラ対応に関するコラムが多数ございます
当事務所は介護・福祉業界のおけるカスハラ対応に関して、コラムで様々な情報を発信しております。介護・福祉現場で使える知識や事例を取り上げておりますので、ぜひご覧ください。

弁護士武田 竜太郎
2006年司法試験合格。外資系の弁護士事務所で約7年間、企業法務(M&Aやベンチャー支援など)に従事。企業買収を通じて会計への関心を深め、都内の不動産会社に転職し、社内弁護士として法務部門の立ち上げに携わる。勤務と並行して会計を学び、公認会計士試験に合格。
2025年に初任者研修修了。企業法務・M&A・会計の知識と経験を活かしながら、現在は介護・福祉分野の事業所支援に注力している。







