
突如現れた予約無し患者でも対応すべき?
今回はクリニックに関するお話です。
DX化の波の中で、オンラインで予約をしてから受診するスタイルの医療機関が増えています。これにより夜中でも翌日の受診をスムーズに予約できるようになりました。しかし、予約が当たり前になるほど、当日に起こった体調不良の受診がしにくくなることもあります。
今回は、この予約をめぐって、とある顧問先の小児科クリニックより頂戴したご相談事例を解説します。
「せっかく来たんだから何とか診てよ」受付でごねる予約無し患者
「せっかく来たんだから何とか診てよ!」
「地元のクリニックの先生は相性が悪いから、こっちに来たのよ!」
こんなやり取りが受付で発生しました。隣町から初めて来院したお母さんとお子さんの患者様だということです。アレルギーについて相談があり、わざわざ隣町から来たそうです。しかし、予約をせずに保育園終わりのお子さんを連れてやってきたということでした。時刻は16時を回った頃でした。
このクリニックは、診療時間は17時30分で終了とし、予約の患者様のみ診療するスタイルでした。
その日は既に予約患者でいっぱい。話をうかがうと特に緊急性も無いことから、「ご予約の患者様でいっぱいですし、お子様の容体は、緊急性は無い状況ですので、近隣のA小児科さんに行かれてはどうでしょうか」と他の近隣の小児科をご案内しました。
ところが、お母さんは引き下がりません。
「医者なら困っている患者を診るのが仕事じゃないの?」
「これでうちの子が困ったらどうしてくれるの?」
「医者は患者の要望に応じる義務があるでしょ!」
と強く言い返してきたのです。その日は何とかお引き取りいただいたそうですが、今後も同じような患者様がいらしたらどうすればよいか…ということで、当事務所に対処法のご相談が来ました。

診察すべき理由と緊急性の有無で判断する
「医者は患者の要望に応じる義務がある」というお母さんの主張はある意味正しいといえ、これを「応召義務」といいます。医師は診療を求められた際に、正当な理由がなければこれを拒否できないと医師法で定められています。
しかし、医師も人間ですから労働基準法の規制を超えて働くことはできません。今回のように、クリニックのルールを無視して診察を求める場合はどう考え判断すべきでしょうか。
この点、厚労省が「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」という通知を出しています(令和元年 12 月 25 日)。これによれば、「最も重要な考慮要素は、患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)である」とされ、診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外であり、緊急対応が不要な場合には、「診療しないことは正当化される」とあります。至極妥当な結論ですが、このように行政が明確に指針を示していることは現場にとって心強いことです。
今回の場合はアレルギー症状についての診療と相談でした。親御さんの発言から「アレルギーによる肌の状態が良くない」ということで、院長は「緊急性が無い」「他の小児科でも診療ができるものである」「予約患者もいらっしゃるため、時間内に診療を終えられない」ということでA小児科をご案内するという判断をしました。また代替案を提示しており、予約無し患者が困るような事態ではありませんでした。
院長のこの判断は適切であり、「応召義務」を逸脱するような状況ではないと言えるでしょう。

当事務所の弁護士は今回のご相談を受けて、対応に問題はなかったこと、また同じようなことが再発しないよう、「予約なしの患者様の場合、診療をお断りする場合があります」という注意書きをクリニックの入り口や待合室、受付、ホームページに掲載することをご提案しました。
これにより広く患者の皆さんに予約必須というルールを認識して頂け、誤解や無理な要求は大幅に減ることでしょう。
事例を知ることで判断・検討がしやすくなる
経営者、管理職はその場での判断を求められますが、何も知らないと誤った判断をくだしたり、「患者(利用者)が可哀想だから」といった理由でつい流されてしまいかねません。
適切な判断を即座に行うには、普段から出来るだけ多くの事例と解決策に触れておくことが効果的です。

弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。









