【ミニコラム】退職者から在籍時の写真をWEBサイトから削除してと言われたら

カテゴリ
おかげさま事件簿
(解決事例集)
公開日
2025.01.17
退職者から在籍時の写真をWEBサイトから削除してと言われたら

弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。

当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防、トラブル対応に特化しております。日々、様々な事案に対応しますが、今回ご紹介するのは、事業所のホームページなどオンライン上に掲載されている写真や動画の取り扱いについてのお話です。

昨今はホームページだけでなく、SNS、求人サイト、紙媒体による発信物など、様々な発信ツールを使ってPRや求人、案内を出すのが当たり前となりました。事業所責任者はもちろん従業員の写真や動画を掲載することも増えてきた中で、従業員が登場する写真や動画の扱い方も気にしなくてはならなくなっています。

今回は、ある施設の退職者から「在職中にホームページに掲載された自身の写真を削除してほしい」という指摘があった事例を題材に、本件の対処法を解説します。

WEB活用が当たり前の現代ならではの悩み事

とある介護施設で発生した事例です。

介護福祉業界は慢性的な人材不足、求人難となっていますが、この施設もまた求人に苦労していました。何とか人材採用を成功させたいと考えた施設責任者は、施設の職場環境の良さをアピールしようと考え、従業員にも登場してもらい、全員が笑顔でガッツポーズをしている写真やメッセージをホームページの採用情報に掲載していました。

当時、従業員として働いていたAさんは、その集合写真に参加していましたが、後日退職することとなりました。Aさんの退職後、施設責任者のもとへAさんから連絡が入り、「採用ページにある私の写真を削除してほしい」「次の職場に迷惑がかかるかもしれない」という依頼をされました。しかし、写真は他の従業員と一緒に撮影したものであり、Aさんだけを削除することは困難でした。仮に削除しても不自然さが出てしまい、閲覧者から「退職した」と悟られると却ってイメージダウンになりかねません。雇用契約書にも写真掲載に関する取り決めは記載しておらず、責任者はどうしたものかと困ってしまいました。

このような事例は、情報社会の現代では今後増えてくると思われます。対岸の火事ではなく、「この先、自分たちも同じようなことになるかもしれない」と思っておいた方が良いかもしれません。

一般に個人の写真を無断で掲載することは「肖像権の侵害」にあたります。肖像権とは、みだりに他人から写真を撮られたり、撮られた写真をみだりに世間に公表、利用されない権利のことをいいます。有名人など限られた人だけのものということはなく、すべての人に保障された権利です。ですので、撮影・掲載には当然本人の許可が必要なのですが、いい関係がいつまでも続くとは限らず、本件のように「辞めますので、写真も削除してください」と言われてしまうリスクがあるのです。

そのとき、退職者と掲載の可否について取り決めておかないと、「削除してほしい」と言われたら対応せねばなりません。この場合、正攻法で対応しようとしても打開策はなかなか見つかりません。

この問題の解決法は、ズバリ「お金」です。「いくらか支払うので、掲載を続けさせてくれないか」と頼みます。もっとも介護福祉の業界は通常地域密着であり狭い世界なので、「お金の問題ではない」と断られてしまう可能性も大いにあるでしょう。

ベストは、写真を撮る前に「肖像権」を「買い取る」という手です。従業員をモデルさんとみなし、「あなたが退職しても、あなたの写真を掲載しつづける権利を買います」ということです。その額に相場はありませんが、例えば1万円など、双方が納得できるものであれば幾らでも構いません。そのような合意書を簡単に作成しお互いに取り交わします。これにより、実質的にも効果があり、従業員は「ああそうか、今はとてもいい関係でいるけれど、将来ここを辞めるということもあり得るのだ」と気づくことになります。勿論そうならないようお互いが努力しなければなりませんが、いざ辞める段になってばたばたと動くのではなく、心の準備ができるということが大きいのです。

先回りしてこのような対策をとると、今回のような問題を予防できるでしょう。

「そこまでやる必要があるのか」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、コンプライアンス遵守は事業所としては守らなければならないことですし、このようなルールを守れる事業所でないと人材も入ってきません。最悪、集合写真の掲載取下げを求める訴訟など起こされたら本末転倒です。

情報社会においてWEB活用は当たり前の時代ですから、個人が写真や動画でオンライン上に登場するシーンも増えます。今回の対応策は言ってみればかなり高度であり、普通は思い付かない手かと思いますが、介護福祉の業界に限らず現代社会に生きるすべての方が覚えておいて損はありません。従業員の立場からも、自分の肖像権を自覚し守ることができるでしょう。

当事務所は介護福祉分野に特化した弁護士法人で、顧問先からのご相談、ご質問に素早く的確にアドバイス、回答することを心がけております。今回のような現代社会だからこそ発生しやすいWEBが関係するようなトラブルにも対応してまいります。

当サイトには顧問弁護士に関するご紹介ページもございますので、ぜひご覧ください。まだ顧問弁護士契約をされていない方で顧問契約を真剣にご検討頂いている方には20分無料のオンライン面談もご提供しておりますので、お気軽にお問合せください。

 

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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