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無くならない児童への性犯罪保育園はどう対処するべきか?
先日、東京都内の保育園で、保育士の男が複数の園児に対し繰り返しわいせつな行為をしたとして逮捕されるという、極めて衝撃的なニュースが報じられました。
参考:集英社オンライン(記事はこちら)
被害に遭われたお子様、そしてご家族の心痛は察するに余りあります。
こうした事件が起きるたびに、保育現場の安全管理が問われます。保育園を運営する経営者、現場責任者の園長先生にとって、これは「異常者による不祥事」として片付けられる問題ではありません。一度でもこうした事態が発生すれば、園の社会的信用は失墜し、経営存続が危ぶまれるだけでなく、多額の損害賠償責任や行政上の責任を負う可能性があるからです。
本コラムでは、今回の事件を教訓に、保育園が取るべき対策について法的な観点から解説します。
保護者からの相談や報告が前々からあった
報道によるとこの事件では、今回の逮捕に至る件が発生される前から、複数の保護者から園に対して、加害者の保育士に対する対応が求められていたようです。
施設内での入浴、就寝、着替えの際に保育士から局部を触られるなどの被害報告が以前からあり、保護者達は園に対して対応を求めたにもかかわらず、園は適切な対応をしていなかったとされています。
筆者はこの点に、この一連の事件が深刻なものにエスカレートした根源があるのではないかとみております。
本来、保護者から子ども達の被害報告や相談があった場合は、園側は当該保育士に聞き取り調査を行い、疑惑が晴れるまでは保育業務から外すなどの対応をするべきです。そうしないと、本当に被害が発生していた場合、子ども達を守ることができません。今回は園においてそういった対応が見られませんでした。保育業界も人手不足と言われていますが、特に男性保育士は希少なので休ませることをしたくなかったのかもしれません。確たる犯行の証拠を掴むことができず、様子を見ざるを得ないと考えたのかもしれません。しかし、どのような事情があるにせよ子ども達が被害に遭う危険性を放置して良い理由にはなりません。
少なくとも犯人を園児と二人きりにさせない、法人命令により暫くの間休職させるなどの対応は出来たはずです。このような対応をしない限り、被害は収まりません。

加害者のこれまでの実績を信用し過ぎてもいけない
加害者の卑劣な犯行に対して同僚や交流のあった人の驚きの声があったとされていましたが、もしかすると周囲の人は
「あんなに真面目で優秀な人が本当にそんな酷いことをするのだろうか」
「熱心に子ども達と向き合っていた人がそんな犯行に及ぶはずがない」
と思ったかもしれません。
これまでの過程を判断材料にしてしまうのは人間の思考の仕方としてはよくあることです。しかし、「あの人に限ってそんなはずはない」と盲目的に思い込んでしまうのは大変危険です。
火のないところに煙は立ちません。今回のように保護者から対応を求められるということは、何らかの問題が潜んでいる可能性があると考えられ、被害者を守ることと被害を食い止めるために必要な対応をとるべきです。
なお、26年12月に施行予定である「こども性暴力防止法」(日本版DBS)は、第7条で「1 学校設置者等は、教員等による児童対象性暴力等が行われた疑いがあると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、その事実の有無及び内容について調査を行わなければならない。2 学校設置者等は、児童等が教員等による児童対象性暴力等を受けたと認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該児童等の保護及び支援のための措置を講じなければならない」と定めており、本法施行後は同法に基づく対応が明確な法的義務となります。

経営者はどのような法的責任を負うのか?
園内で職員による性犯罪が発生した場合、園(法人)は以下の責任を問われる可能性があります。
①使用者責任(民法715条)
職員が業務執行に関して第三者(園児)に損害を与えた場合、雇い主である法人が第三者に対しその損害を賠償する責任です。金銭面での大きな負担が発生する可能性があります。
②安全配慮義務違反
預かっている園児の安全を確保するための体制を整えていなかったことに対する責任です。子どもが怪我をしたり精神的苦痛を受けたりした場合、治療費や通院費用、慰謝料の支払いが発生します。
③行政処分
児童福祉法に基づき、業務改善命令や、最悪の場合は施設設置認可の取り消しを受けるリスクがあります。そもそも法人として経営ができなくなる可能性が高まり、まさに息の根を止められる事態になりかねません。
園が講じるべき4つの対策
たった1件の犯罪でも園の存続を脅かす危険性を持っています。「うちに限ってそんなことは無い」と対岸の火事のように捉えていては、万一の際に後悔しか残りません。園の経営が危ぶまれることになれば、通っている子どもやその保護者、働いている職員など大勢の人が困ってしまいます。子どもを預けて働いている保護者の方は、園が立ち行かなくなった時点で預け先を失うことになり、勤務先など多くの方々の日常に支障が波及します。
そうならないよう、今すぐできる対策として、以下の4つを挙げました。
1. 「密室」と「単独」を物理的に排除する
性犯罪は「二人きりの密室」で起こりやすい犯罪です。空のロッカー内や押し入れなど、出来る限り目の届かない場所を無くすこと、密室を作らないことが大切です。例えば以下のような運用を実施すると良いでしょう。
・トイレ介助は可能な限り複数名で行う、またはドアを完全に閉め切らない運用にする。
・特定の職員が特定の児童と二人きりになる時間を最小限にするシフト管理を行う。
・「死角」となりやすい場所に監視カメラを設置したり、巡回を強化する。

2. 「日本版DBS」導入に向けた準備と厳格な採用
先述したように、子どもと接する仕事をする職員の性犯罪歴を確認できる「日本版DBS」の導入が進められています。これが本格始動すれば、新規採用時に過去の犯罪歴(前科)を確認すること、および既存の職員(園長も含む)全員についても前科の確認が必須となり、職員への研修、不適切な行為に関する規定の整備等が求められることになります。
現時点でも、面接時にはリファレンスチェック(前職への問い合わせ)や、過去のトラブルの有無を慎重に確認する体制が必要です。但し、このような性犯罪を起こすのは男性が多いという理由から、男性だけマークしたり男性の応募を拒否するようなことがあってはなりません。不当な男女差別であり、男女雇用機会均等法や憲法の平等原則に違反することになり注意が必要です。

3.リスクが顕在化したら即対応
園児や保護者、職員から被害の報告や対応を求められた場合は放置せず、被害拡大防止のための応急処置と事実確認を行いましょう。職員への聞き取り調査、担当者の交代などを実施し、園として最大限の対応をとるべきです。また聞き取り調査をする際は必ず記録を残すようにしましょう。行政や弁護士、警察などの外部機関に相談することも有効です。「何もしない」「様子見」は極力避けるべきです。

4. 職員間の相互監視(ピア・レビュー)の文化
「あの先生は熱心だから犯罪などするはずはない」という思い込みは禁物です。不自然に特定の子供に身体的接触を繰り返していないか、他の職員が見ていないところで何をしていたか。職員同士が互いの行動に注意を払い、違和感をすぐに園長に報告できる風通しの良い環境作りが、最大の抑止力となります。
園児と接する職員も、無用な誤解を招かないよう、これからとる行動やその目的を口にして周囲に伝えるという取組みを心がけられると良いでしょう。「着替えるからズボンを下ろすね」等、全ての行動について発言することは難しいかもしれませんが、疑いを払拭するような工夫を積み重ねることが、風通しのよい職場環境をつくっていくことになります。
相談窓口を作る、定期的な面談を実施する、職員研修の中で伝える、このような取り組みは今からでも実施できるものです。

保育士資格を有した弁護士が保育園の適法経営をお支えします
子どもへの性犯罪は、その将来全般にわたり、一生消えない傷を残す重大な人権侵害です。
しかし一方で、冒頭のような目を疑うような犯罪が常習的に水面下でなされていたことも事実です。この真実から目を背けてはいけません。
保育園や学童という場が、子供たちにとって「絶対に安全な場所」であるために、今一度、園内のルールや物理的な環境を見直す必要があるでしょう。
当事務所では、代表の外岡弁護士がヘルパー2級だけでなく保育士の資格も保有しており、保育園の危機管理マニュアルの作成や、職員向けのコンプライアンス研修(性加害防止研修)等のサポートを行っております。
性犯罪をはじめとした事件や虐待などのコンプライアンス違反は突発的に発生します。一方で、現場で先生たちが保護者から過度なクレームや暴言に晒されるといったカスタマーハラスメントの被害も放置することはできません。
こうした日々のトラブルやリスクは、迅速に適切な対応をしないと経営において命取りになりかねません。顧問弁護士は、そのようなニーズにお応えしていきます。

弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。










