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【保育園向けカスハラ対策コラムVol.03】
実例で学ぶカスハラ対処法―「我が子のため」という正義の暴走に弁護士はどう動くか
保育園の先生が実際の現場で向き合うのは、理論ではなく「生身の保護者」です。 「先生、うちの子の腕に傷があるんだけど!」「どうして主役じゃないの?」といった切実な(時には激しい)訴えに対し、その場で瞬時に「これは正当な苦情か、それともカスハラか」を判断するのは容易ではありません。
保護者の「親としての正義感」が、いつの間にか保育士の権利を侵害する「凶器」に変わってしまったとき、園は組織として、そして法的な後ろ盾を持って、毅然と一線を引かなければなりません。
本コラムでは、保育現場で特に発生しやすい5つの具体的なトラブル事例を挙げ、それぞれに対して弁護士がどのような視点で解決を図るのか、具体的な応対法とともに解説します。
【事例別】「我が子のため」が暴走した5つのケースと対処法
保護者の要求がエスカレートする際、そこには「親としての正義感」が介在しています。しかし、その正義感が保育士の権利を侵害したとき、園は断固とした対応をとる必要があります。
<事例①>連絡帳の不備から「監視」を要求するケース
【状況】
園庭で転んで膝を擦りむいたが、保護者へ報告しそびれ、連絡帳への記載からも漏れてしまった。これに対し保護者が激昂。「園にとって都合の悪いことを隠していたとしか思えない。今日から毎日、我が子が何時何分に何をしたか、15分単位の行動記録を提出しろ」と要求。さらに「毎日、帰宅後に1時間の電話報告をすること」を義務付けてきた。返事に困っていると「保育園の怠慢だ! それでもプロの保育士か!」と怒鳴られた。

【弁護士の見解】
「15分単位の記録」や「毎晩の長電話」は、保育士の本来業務を著しく阻害する「過度なサービス強制」にあたります。また、怒鳴る行為についても社会通念上、許容範囲を超えた態度であり、カスハラに該当します。
【対処法】
「不備については謝罪いたします。しかし、特定の園児に対してのみ個別の詳細な記録作成や長時間の電話対応を行うことは、他の園児の安全管理に支障をきたすため、物理的に不可能です。園として、一律の連絡体制以上の対応はお受けできません」 このように、「全園児の平等な安全」を引き合いに出して拒否すると良いでしょう。一方で、「園として把握した怪我や異変については漏れなく報告するよう改めて現場に周知徹底する」等と報告に関する対策を講じ説明すると理解を得やすくなります。
<事例②>加害者(と疑われる)園児の特定と謝罪を強要するケース
【状況】
子どもが腕に噛まれた跡をつくり帰宅した。保護者が「誰にやられたのか名前と連絡先を教えろ」「園が仲介して、目の前で相手の親に土下座させて謝罪させろ」と執拗に迫る。

【弁護士の視点】
園には個人情報保護の義務があり、たとえ加害者であろうと相手方の実名を別の園児の保護者に教えることは認められません。また、土下座の強要は強要罪(刑法223条)に抵触する可能性がある「不当要求」です。
【対処法】
「当園の個人情報保護規定により、他の園児に関する情報をお伝えすることはできません。また、保護者同士の直接交渉は飽くまで双方同意の上でして頂く必要がありますが、法的には園内で起きたことは原則として園がその法的責任を負います。」このように、園の規定や法令を盾に、毅然とした態度で臨みましょう。一方で、園児同士の喧嘩で生じた治療費や慰謝料等のいわゆる法的責任については、園を運営する法人が監督者として賠償義務を負うことになります。これから園としては加入する損害保険会社に本件事故について報告・相談し、保険がおりないか調査をしてもらうことになります。その結果をまた被害者側の保護者に伝えましょう。
<事例③>SNSやネット掲示板を用いた「公開処刑」型ケース
【状況】
保育方針に納得がいかない保護者が、自身のSNSや地域の掲示板に「〇〇保育園の△△先生は、子どもを虐待している」「園長は隠蔽体質だ」といった根拠のない誹謗中傷を実名で書き込む。それを盾に「投稿を消してほしければ、担任を解雇しろ」と迫る。

【弁護士の視点】
これは単なる苦情ではなく、「名誉毀損」および「威力業務妨害」に該当しうる犯罪行為です。不当な要求に一切応じる必要はありません。
【対処法】
「SNSへの書き込みは、園および職員の社会的信用を著しく毀損(きそん)する行為です。速やかに削除されない場合、および今後も虚偽の拡散が続く場合は、法的な措置(発信者情報開示請求や損害賠償請求)を検討せざるを得ません」 このように、「法的措置の可能性」を明示します。感情的に反論せず、事実を淡々と指摘することが重要です。なお、現場における保護者のカスハラ的な言動は、秘密録音することができます。相手に録音する旨伝え、同意を得ることが理想ではありますが、緊迫した状況では却って相手を刺激しかねません。相手の声は確かに「個人情報」には該当しますが、同意を得ずとも、入園の時点で個人情報利用の目的は通知しているため、改めて伝える必要はないのです。
<事例④>行事の配役や順位等への過度な要求をするケース
【状況】
発表会の劇の配役で、我が子が主役にならなかったことに抗議する保護者。「うちの子はタレント養成所にも通って才能があるのに、主役じゃないのはおかしい」「不当な評価だ、配役を決め直せ」と連日詰め寄る。また、運動会のリレーの結果について「順位をつけるのは教育的に良くない! 皆同じ順位にしろ!」と要求する。

【弁護士の視点】
園の教育方針や行事運営は、それが著しく常識に反し園児の教育上望ましくないようなことが無い限り、専門的判断に基づく園の運営の「裁量権」「自治権」の範囲内です。個別の嗜好や考え方に基づき、これらを変更させる権利は保護者にはありません。
【対処法】
「配役は子どもたちの成長と全体のバランスを考慮し、専門的見地も交え園として決定したものです。個別の要望による変更は、公平性を欠くため一切お受けできません。また、運動会の運営についても園の方針に基づき実施しております。例外的な対応はいたしかねます」 と、「教育的裁量」であることを明確にし、議論の余地を排しましょう。
<事例 ⑤>職員のプライベートや人格への侵害を行うケース
【状況】
担任保育士を気に入らない保護者が、業務時間外に職員個人の SNS アカウントを
特定してメッセージを送りつけたり、私生活(服装や交友関係)について「保育士としてふ
さわしくない」と園にクレームを入れたりする。さらに、職員の学歴や容姿を嘲笑うような
発言を繰り返す。

【弁護士の視点】
業務と無関係な私生活への介入や、容姿・人格への攻撃は、典型的な「人格権の侵害」です。安全配慮義務に基づき、園は職員をこれらから守る義務があります。
【対処法】
「業務外での接触は固くお断りします。また、職員の人格を否定するような言動はハラスメントとして組織的に対応させていただきます。今後、改善が見られない場合は、書面による警告やしかるべき法的措置も視野に入れます」 このように、「安全配慮義務に基づき組織として職員を守る姿勢」を前面に出します。
それでも不安がある、判断が難しい…そんな時のために弁護士がいます

「これはカスハラかもしれない。確信が持てない」 「伝え方や言葉選びが難しい、どうしたらいいだろう…」 「この要求は対応すべき? それとも拒否していい? 分からない」
実際の保育の現場では、判断に迷うことが多々あると思います。カスハラは現場の保育士さんが直接被害に遭いやすく、対応に苦慮することも少なくありません。
そんな時は弁護士に判断を求めたり、応対の仕方を相談したりするという方法があります。 当事務所では、カスハラに特化した顧問弁護士サービス「カスハラお守りサービス」をご用意しております。カスハラ問題に悩まされやすい保育園の皆様に、ぜひお勧めしたいサービスです。当事務所オリジナルのカスハラ防止ポスターも無料でご利用頂けます。

弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。









