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コンプライアンスは「面倒なルール」?
「命を守る仕組み」です
ゴールデンウィーク前後、日本各地で様々な事故や不祥事が立て続けに報じられましたが、弁護士としてそれらのニュースを見ていて強く感じたのは、「本来ちゃんとした運営、判断、教育がなされていれば、防げた可能性が高い問題が非常に多い」ということでした。
もちろん世の中には、どれだけ注意していても避けられない事故や不可抗力によるトラブルも存在しますし、予測不能な自然災害や突発的な健康問題など、人の力ではどうにもならない出来事もあります。しかし、今回報じられた事案の多くは、「ルールを守る」「確認を怠らない」「最低限の教育を徹底する」という、ごく基本的な部分がきちんと機能していれば、少なくとも重大な結果に至る可能性を大きく減らすことができたのではないかと思わざるを得ませんでした。
相次ぐ不祥事・事故の背景にある「油断」と「確認不足」
まず、沖縄・辺野古沖で発生したボート転覆事故では、修学旅行中の生徒らが乗船していたボートが転覆し、尊い命が失われるという痛ましい結果となりましたが、報道では学校側や船を出した団体の安全管理体制について様々な問題点が指摘されており、「いつも大丈夫だから」「これまで事故がなかったから」という慣れや油断が無かったのか、今後さらに検証されていくことになると思われます。修学旅行という教育活動の一環である以上、本来であれば安全配慮は最優先であるべきであり、参加者の命を預かる立場として、十分な確認、適切な人員配置、天候や海上状況に対する慎重な判断など、やるべきことは数多くあったはずです。
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また、西日本シティ銀行では、職員が勤務中の動画や画像をSNSに投稿し、その中に顧客情報が映り込んでいたという問題が発生しましたが、金融機関という「信用」が何より重要な業界において、この問題は極めて深刻であると言わざるを得ません。もちろん、投稿した本人に「情報漏洩をしてやろう」という悪意までは無かったのかもしれません。しかし、「業務中の写真や動画を安易にSNSへ載せてはいけない」「顧客情報が映り込む可能性がある」という基本的なコンプライアンス感覚が、組織全体として十分に浸透していれば、防げた問題だった可能性は高いでしょう。最近はSNSが身近になりすぎた結果、「少しだけなら大丈夫」「身内しか見ないから問題ない」という感覚が生まれやすくなっていますが、その「少し」が大きな信用失墜に繋がるのが現代社会の怖さでもあります。
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さらに、連休中に福島県郡山市で発生した北越高校の部活動遠征中のバス事故についても、報道によれば、学校から依頼を受けた旅行会社の営業担当者名義でレンタカーを借り、その営業担当者の「知人の知人」が運転していたとのことであり、「本当にその運転者で問題ないのか」「安全管理上適切なのか」「法的な問題はないのか」といった確認が十分に行われていたのか、疑問を抱かざるを得ませんでした。学校側としても、「安く済ませたい」「予算を抑えたい」という事情は当然あったのでしょうが、人の命を預かる以上、「安ければよい」という判断だけでは済まされない領域があります。コンプライアンスというと「法令遵守」という堅苦しいイメージを持たれがちですが、結局のところ、その本質は「当たり前の確認を怠らないこと」に尽きるのではないかと私は思っています。
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また、コープみらいの委託配達員が配送中の商品ケース内に排尿していたという問題についても、「まさかそんなことをするのか」と驚かれた方も多かったと思いますが、これもまた、組織としての教育や管理体制、職業倫理に対する意識づけが十分であったのかという問題に繋がっていきます。利用者からすれば、配送員は「会社の顔」であり、その一人の行動によって組織全体の信用が大きく傷ついてしまうのです。特に食品や生活インフラに関わる業界では、「信頼」がサービスそのものであり、その信頼を損なう行為は、一瞬で長年築き上げたブランド価値を崩壊させる危険性を持っています。
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コンプライアンスの本質は、誰かの安全と命を守る「土台」
最近、「コンプライアンス」という言葉が独り歩きし、現場を縛る面倒なルール、形式的なチェック作業、あるいは「うるさいことを言う仕組み」のように捉えられることがあります。しかし、本来コンプライアンスとは、「組織を守るため」のものであり、もっと言えば、「利用者、顧客、従業員、そして社会全体の安全や命を守るための最低限の土台」であるはずです。ルールを守ること自体が目的なのではなく、「ルールを守らなかった結果、誰かが傷つく」という現実があるからこそ、ルールが存在しているのです。
介護福祉現場における「小さな緩み」が招く重大リスク
これは、介護福祉業界においても全く同じです。介護福祉の現場は、利用者の命、健康、生活、尊厳を預かる仕事であり、「まあこれくらいなら大丈夫だろう」「忙しいから仕方ない」「現場判断で何とかなる」といった小さな緩みの積み重ねが、重大事故や深刻なトラブルへと発展していきます。虐待、誤薬、送迎事故、個人情報漏洩、身体拘束、ハラスメントなど、介護現場で発生する問題の多くは、突然発生するのではなく、日々の小さなルール違反や確認不足が積み重なった結果として発生しているのです。
現場に伝わる教育の重要性
私は顧問先の介護事業所様に対し、「問題が起きた後の対応」だけではなく、「問題が起きない組織づくり」こそが最も重要であると繰り返しお伝えしています。特に大切なのは、「現場が理解できる形で教育すること」です。難しい法律論や抽象的な理念だけを並べても、現場にはなかなか浸透しません。なぜそのルールが必要なのか、それを怠ると誰が傷つくのか、利用者や家族からどう見えるのか、そこまで含めて伝えていかなければ、コンプライアンスは単なる「やらされ仕事」になってしまいます。
多忙な時こそ原点へ立ち返り、組織と職員を守る
介護福祉業界は慢性的な人手不足に悩まされており、現場は常に忙しく、余裕がない状況が続いています。しかし、だからこそ、忙しい時ほど基礎を徹底しなければなりません。事故や不祥事が起きた後、「そんなつもりではなかった」「悪気はなかった」という言葉を耳にすることがありますが、亡くなった命は戻りませんし、失われた信用も簡単には回復しません。
コンプライアンスとは、「誰かを処罰するため」のものではなく、「本来ちゃんとしていたら起きなかった問題」を一つずつ潰し、利用者、職員、そして組織そのものを守るための仕組みです。介護福祉という、人の命と生活に直結する仕事だからこそ、改めてその原点を見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。








