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「数字を作れ」が現場を壊す
― ワンマン経営と“実績粉飾”が介護事業所を崩壊させるとき ―
おかげさまです、外岡です。今回は、各種報道によるモーターメーカー大手「ニデック」を巡る一連の不祥事について、介護業界にも非常に通じる問題だと感じたためその点についてお話しします。
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報道によればニデックでは、創業者である永守重信氏のもと強烈な成果主義とトップダウン型経営が長年続いていた中で、現場に対し極めて強い利益目標や原価低減プレッシャーがかけられていたとされています。その結果、会計不正、品質データ改ざん、顧客に無断での仕様変更など、1000件を超える不正が確認されたとして、2026年5月に大きく報じられました。特に問題視されているのは、「数字を作れ」「利益を落とすな」という圧力が強まるあまり、本来守るべき品質管理やコンプライアンスが後回しになってしまったのではないか、という点です。
第三者委員会の調査では、目標未達の責任者が厳しく叱責される会議体の存在なども指摘されており、現場が「できません」と言えない空気が、不正の温床になった可能性も示唆されています。こうした問題は、内部調査や報道などを通じ、徐々に組織全体の実態が明らかになっていったとされています。
他人事ではない「過度な数値プレッシャー」による組織の歪み
このニュースを見て、私は改めて「過度なプレッシャーを前提とした組織運営」が、いかに現場を歪ませるかを強く感じました。特に、トップダウン色の強い、いわゆる“ワンマン経営”の組織では、「数字を達成しろ」「結果を出せ」「言い訳は聞かない」という圧力が現場に過剰にかかり、その結果として現場が“嘘をつき始める”という現象が起きやすくなります。
これは介護業界でも決して他人事ではありません。むしろ、介護業界は慢性的な人手不足、利益率の低さ、加算制度の複雑さなどから、「数字への圧力」が現場に伝播しやすい構造を抱えています。そして、その圧力が行き過ぎたとき、現場では様々な“ほころび”が生まれます。
介護報酬請求・リーシングにおける主な不適切事例
例えば、デイサービスにおいて実際には提供していないサービス提供時間を記録上長く見せる、実際には来所していない利用者について実績を立てる、個別機能訓練を行っていないのに加算を算定する、モニタリング未実施にもかかわらず実施済みとして扱う、といった問題は、全国の運営指導や監査で繰り返し指摘されています。
また、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、「空室を埋めろ」というプレッシャーから、実態以上に介護体制を良く見せたり、「24時間対応可能」「看取り対応万全」など、実際には十分な体制が整っていないにもかかわらず営業上の説明をしてしまうケースもあります。
入居率を維持したいという経営上の事情は理解できますが、利用者や家族は、その説明を前提として契約を締結しています。虚偽又は誤認を招く説明は、単なる「営業トーク」では済まされません。
指定取消処分と「組織的関与」の認定基準
介護保険法上、指定取消や効力停止の対象となる代表例の一つが「不正請求」です。介護保険法第77条、第115条の45の9等では、偽りその他不正の行為による介護報酬請求があった場合、都道府県等は指定取消処分等を行うことができるとされています。そして実際には、「少しの水増しなら許されると思った」「現場判断だった」という言い訳では済まず、多額の返還請求、加算金、利用者離れ、金融機関からの信用低下、採用難など、事業継続そのものを揺るがす事態へ発展することも少なくありません。
特に注意しなければならないのは、「経営者が直接指示していないから大丈夫」という発想です。監査実務では、「組織的関与」が重視されます。例えば、現場職員が「稼働率を下げるな」「実績を落とすな」「とにかく数字を作れ」と継続的に言われていた場合、その空気感自体が、不正を誘発したと評価される可能性があります。実際、行政処分事例では、「管理者が虚偽記録を黙認していた」「法人全体として不適切な請求体質があった」と認定され、指定取消に至ったケースも存在します。いわゆる「忖度」の結果ですが、経営者はむしろ「部下が自分に忖度するあまり不正等していないか」という危機感をもって現場で何が起きているかを注視するくらいが丁度良いといえるでしょう。
運営指導におけるチェックの厳格化と内部通報のリスク
また、運営指導の現場では、行政側は単に書類を見るだけではありません。利用者への聞き取り、職員ヒアリング、シフト表、送迎記録、バイタル記録、介護ソフトのログ、GPS記録等まで確認されることがあります。最近では、「記録同士の整合性」を細かく確認される傾向が強く、例えば「送迎記録では来所しているが、バイタル記録が無い」「職員配置上、物理的に個別機能訓練を実施できない」などの矛盾から発覚するケースもあります。
さらに怖いのは、一つの不正が発覚すると、“芋づる式”に他の問題も露見しやすいことです。実績粉飾を隠すために記録改ざんが行われ、その過程で署名の代筆、勤務実態との不一致、虚偽説明、場合によっては私文書偽造等の問題にまで発展することがあります。そして、そこで現場職員が「本当は以前からおかしいと思っていた」と内部通報を行えば、一気に監査案件化することもあります。部下に対するパワハラ問題も露呈するでしょう。
持続可能な介護経営のために経営者が持つべき視点
介護業界では、「人材も足りず、経営環境が特に厳しいのだから多少は仕方ない」という空気が生まれがちです。しかし、利用者や家族から見れば、「介護保険を使って適正なサービスが提供される」と信じて契約しているのであり、その信頼を裏切る行為は、単なる事務ミスでは済まされません。特に近年は、行政も「悪質な不正請求」や「組織的隠蔽」に対して厳格化傾向にあり、指定取消事例も珍しいものではなくなっています。
だからこそ、経営者に求められるのは、「数字を追うこと」以上に、「現場が正直でいられる組織を作ること」だと私は思います。達成困難な目標を一方的に押し付け、「できないのは努力不足だ」という文化を作れば、最後に現場が選ぶのは、“改善”ではなく“隠蔽”です。数字は大事ですが、それに捉われると思わぬところで足元を掬われかねません。
本当に強い組織とは、問題が起きない組織ではありません。問題が起きたときに、それを隠さず、早期に修正できる組織です。介護は、人の生活と尊厳を支える仕事です。だからこそ、「数字のために現場を壊さない」という視点を、今一度経営者が持たなければならないのではないでしょうか。
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弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。









