変化の時代を生き抜く介護・福祉経営 ~怒涛のルール改定と適法経営の重要性~

カテゴリ
リスクマネジメント
公開日
2026.01.20
変化の時代を生き抜く介護・福祉経営 〜怒涛のルール改定と適法経営の重要性〜

変化の時代を生き抜く介護・福祉経営~怒涛のルール改定と適法経営の重要性~

近年は、有料老人ホームの規制強化の動き、BCP(事業継続計画)策定の義務化、そしてカスハラ(カスタマーハラスメント)防止措置の義務化など、事業所の運営基盤と職員の安全に直結する根本的なルール変更が相次いでいます。これらの動きは、単なる行政手続きの変更や追加ではなく、社会全体が求める「質の高いサービス提供」と「適正な経営」への転換を強く促すものといえるでしょう。

激しく変わる時代の中で、いかに法令・ルールに則り、安定した経営を継続できるか。本コラムでは、昨年(2025年)までのルール改定を振り返り、「適法経営」が生き残るための羅針盤であることを明確にしていきます。

介護福祉業界に関連する法改正・ルール変更の波

ここ数年、介護・福祉業界に関連する法改正、ルール変更が多くありました。例えば以下が挙げられます。

・BCP策定の義務化

・カスハラ防止措置の義務化

・有料老人ホームについて届け出制から登録制に変更(審議中)

・公益通報者保護法の改正

・労働基準法や関連労働法の改正

・住宅型有料老人ホームの「ケアプラン作成」一部で有料化

・介護福祉士国家試験の「パート合格」制度導入

これらの他、さらに介護報酬の改定も加わってきます。昨年末までのニュースでは2%台のプラス改定、月額1万円以上の賃金上昇など喜ばしい改正が世間を賑わせていますが、こうした報酬増の恩恵を確実に受けるためにはより一層ルールの整備や研修、現場への周知徹底等のコンプライアンスが求められることに十分注意が必要です。

長らく人手不足や低賃金といった慢性的な課題に苛まれてきた介護業界にとって、法改正や制度変更は「また手間が増えるのか」という負担感をもたらすのが常でした。しかし上記改正は、単なる手続きの増加や形式的な義務に留まりません。事業所の立ち位置、経営の透明性、リスク管理体制、そして収益構造そのものに影響を及ぼす、根幹的な構造改革を求めるものが含まれています。以下、主要な変更点について個別に解説します。

法改正・ルール変更が発生する背景にあるもの

法改正やルール変更が発生する背景には必ず理由があります。すべては円滑に介護・福祉が提供されるようにするための仕組みづくりなのです。個別の改正を概観する中でその背景にある社会全体の大きな流れと、現在の立ち位置を確認しましょう。

①BCP(事業継続計画)策定の義務化

近年頻発する大規模な自然災害や、新型コロナウイルスのような感染症のパンデミックを経て、介護・福祉サービスの継続の重要性が改めて認識されました。この結果、BCP(事業継続計画)の策定と運用が令和6年4月をもって完全義務化されました。

BCPは「紙の計画書」を作って終わりではありません。義務化の真の目的は、災害や感染症発生時にも、利用者の生命と安全を守るための最低限のサービスを継続できる体制を事前に構築し、その「対処力」を担保することにあります。

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②カスハラ防止措置の義務化

社会全体で労働環境の改善が求められる中、介護福祉サービスを提供する現場においても、利用者やその家族からの不当な要求や言動―いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)が、職員の精神的な負担となり、離職の原因となる深刻な問題として顕在化してきました。

この状況を受け、2025年には労働施策総合推進法の改正により、介護事業者を含む全ての事業者に対し、カスハラを防止するための措置を講じることが義務化されました。これは、単職員の安全と健康を守るという事業者の法的責務を明確に強化するものであり、新たなご義務を怠ったことによる賠償リスクや離職率の上昇といった不利益が考えられます。またこの法改正を受けて25年末、厚生労働省は全ての介護事業者に対しカスタマーハラスメント(カスハラ)の対策を運営基準で義務付ける方針を発表しました。26年はより具体的な義務化に関する指示が加速する見込みです。

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③有料老人ホームの登録制移行

従来、多くの有料老人ホームは「届出制」で運営されてきました。一定の基準を満たしさえすれば比較的容易に参入できる仕組みでしたが、一方で、サービス内容や経営実態が不透明な事業者による不適切な運営が問題視されてきました。

この流れを変える動きとして浮上したのが、「有料老人ホームの登録制への移行」です。「職員体制や運営体制に関する一定の基準」や「併設介護事業所が提供するサービスや職員体制・運営体制との関係が曖昧にならないような基準」を新設し、こうした基準を満たしている施設だけが有料老人ホームとして稼働できるようになります。この制度が目指すのは、事業開始前の行政による厳格な事前審査を通じ、質の低い事業者の参入を水際で防ぐことです。これによりホームの質は全体的に底上げされる一方、参入障壁は格段に高まることになります。

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④公益通報者保護法の改正

組織内の不正を早期に発見・是正するための「公益通報者保護法」も強化されました。2026年には、改正公益通報者保護法(25年公布)が施行されます。これは、事業所内で法令違反があった際、それを内部告発した職員が解雇や降格といった不利益な扱いを受けないよう守るためのルールですが、公益通報者として保護される対象の拡大や同法に違反した雇用主に対する罰則強化等がポイントです。

介護・福祉現場でも、虐待や不正請求などの不祥事が発生することがありますが、これらを隠蔽せず、自ら正す「自浄作用」が厳格に求められるようになっています。介護・福祉に限らず、社会全体がコンプライアンスへの関心を高めている中で、人材不足を理由に不正や違法行為の見逃しを行ってしまうこともあるかもしれません。そうした「いい訳」は一切通用せず、より透明性の高い公益に適う事業運営が求められる時代へと移行しつつあります。

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⑤労働基準法や関連労働法の改正

26年1月時点ではまだ国会での審議が開始される前段階ですが、労働基準法が40年ぶりの大改正という転機を迎えつつあります。労働時間の情報開示義務化、副業・兼業時の労働時間通算ルール見直し(通算不要とする)、13日超の連続勤務禁止、勤務間インターバル制度の義務化、36協定申告等における労働者過半数代表の選出方法見直し、部分的なフレックスタイム制の導入等が主な改正ポイントです。人手不足が全産業において深刻な問題となりつつある中、多様かつ柔軟な働き方を促進し労働力を確保しつつ、一人ひとりの労働者の健康と基本的人権を守るという目的の下こうした一連の改正が実行されつつあるといえますが、少子高齢化のスピード上昇に合わせ労働法関連は今後も目まぐるしくアップデートされていくでしょう。特に状況が深刻な介護・福祉業界においてこれらの「労働者を守るルール」への対応は、貴重な人材確保のためにも避けて通れない最重要経営課題の一つとなっています。仮に今回の改正が、直接的に介護・福祉業界へ大きな影響が及ばないとしても、人材不足や外国人労働者の増加などに伴い抜本的な改正が行われることが予測されます。

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法改正・ルール変更が経営にもたらす「コスト」と「リスク」

これらのルール変更は、事業者に直接的な「コスト」と潜在的な「リスク」をもたらします。

コンプライアンス・コストの増大は避けて通れません。BCP策定のための外部コンサルタント費用、職員に対する度重なる研修費用、許可制移行に伴う行政文書作成のための労力(時間コスト)、新たな監査対応のための準備期間、ケアプラン有料化に伴う会計システムの改修費用、DXシステム導入費など、あらゆる面で経営資源の投下が必要になります。

そうしたコストの中で、見落とされがちであるのが「法務リスク」である、といえるでしょう。制度理解の遅れや誤認、あるいは「忙しいから」「人手が足りないから」等と理由を見つけ義務を軽視する姿勢は、経営を根底から覆しかねないリスクへと繋がります。

  • 行政処分リスク: ルールを遵守しない、あるいは不適切なサービス提供が確認された場合、指定取り消しや業務停止命令といった行政処分が下されます。指定の一部取り消しだけでも、経営が厳しい状況では致命的なダメージとなりかねません。これは、その事業所の存続そのものを絶つ「死刑宣告」に等しい事態です。
  • トラブル・訴訟リスク: 例えばケアプラン有料化や物価上昇対策としての各種費用の値上げといった説明が難しい事柄に関する利用者・家族の理解不足や不満、劣悪なサービス提供が根本原因となり、事故や不正が発覚すると利用者やその家族から損害賠償請求や慰謝料請求といった訴訟を起こされるリスクが高まります。
  • 労務リスク: 前述の労基法改正と相まって、不適切な労務管理が、職員からの集団的な残業代請求やハラスメントを理由とする慰謝料請求訴訟に発展する可能性も高まっています。

適法性の欠如は、単に罰則を受けるだけでなく、企業の社会的信頼性を根底から揺るがし、人材採用の困難化や金融機関からの評価低下にも繋がり、事業継続そのものを脅かします。

コストとリスクのバランスを考えよう

法改正・ルール変更はこの先も続く

こうした怒涛の法改正やルール変更は今だけの現象ではありません。今後少子高齢化が加速し、更に社会の状況がドラスティックに変化する中で、社会システムの在り方も根本的に変わってくるでしょう。

例えば、これから外国人人材がどんどん介護福祉現場にも入ってくる中で、外国人の中間管理職も増加するでしょう。そうすれば外国人職員採用に関する法律や管理職の待遇に配慮を求めるルールが新たに出来たり、既存のルールが変更になることもあるでしょう。当事務所のコラムで以前取り上げたサイバーセキュリティ(こちらを参照)に関しても同じです。

今はサイバーセキュリティについては義務化されていませんが、25年はアサヒビールやアスクルなど名だたる大企業が軒並みサイバー攻撃にさらされ、甚大な被害が生じました。カスハラ対策が義務化されたように、社会的に問題となってくればこちらも法的義務化されることが予想されます。

「ルールを守る」ことがより重要に

限られた労働力の最大活用という点では合理化、規制緩和の流れがあるといえますが、介護福祉業界の経営に関していえば明らかに「規制強化」の方向に舵を切っています。社会保障費の抑制が国家全体にとってより重要な課題となり、社会全体が高齢者福祉への関心を高める中、施設事業所が既に飽和状態である地域もあります。こうした中で質の低いサービス、利用者の人権に対する配慮に欠けた前時代的な経営は排除する傾向が強まるでしょう。質の高いサービス提供よりも、度を越して悲惨な事故や事件、いわゆる「ブラック施設」は社会から無くさなければならないと、社会全体が認識を強めているといえるかもしれません。

この激しい変化の時代において、「ルールを守る」ことは絶対的な前提条件であり、「ルールを守れない企業から淘汰される」時代に突入したことを意味します。

生き残るためには、法令を遵守し、倫理的なサービスを提供する「適法経営」こそが、持続可能性を確保するための唯一の羅針盤となります。法令や制度の解釈に誤りがないか、ルール変更を見逃していないか、労務管理に瑕疵がないか、利用者との契約書に不備がないか。これらの課題に迅速かつ的確に対応できるかどうかが、事業所の将来を左右します。行政側ではかつての「実地指導」が運営指導に改められ、よりシステム化され効率的、合理的な実施が宣言されました。最低限のコンプライアンス施策の有無が、より頻繁にチェックされる時代が到来したのです。

しかし、頻繁に変わる法令や複雑な行政手続きを、日常業務に追われる経営者や事務長だけで完全に把握し、対応し続けるのは極めて困難です。

そこで、次なる戦略が必要となります。それは、この複雑な法務リスクから経営の「守り」を固め、本業である質の高いサービス提供に集中できる環境を整えることです。そのためには、法律と経営戦略のプロフェッショナルを味方につける必要があります。

その「味方」こそ、顧問弁護士です。 次のコラムでは、顧問弁護士を「トラブル対応係」ではなく、「介護福祉経営のビジネスパートナー」として活用するための具体的な戦略を提案します。

今この瞬間から出来る対策も

当事務所では介護・福祉現場で役立つコラムを発信しております。関心の高い虐待、身体拘束、運営指導に関する内容はもちろん、現場で発生した事案をもとに解決策や対策に関する内容も発信しております。知識を増やすことで、実施できる対策の数や質に好影響が期待できます。

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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