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推し活破産!?趣味にお金を使い果たした入居者
施設はどこまで介入できる?
人が生きていくうえで「楽しみ」や「生き甲斐」があった方が幸せを感じられます。人それぞれ楽しみ方がありますが、中には幾らかお金をかけて楽しむものもあります。お小遣いの範囲、自分の資産の中で余裕を持って使える範囲であれば問題はありませんが、度が過ぎたお金の使い方をしてしまっては、最悪の場合、破産しかねません。
病気や障害が原因でどうしても自制できない方もいらっしゃいますので、一概に「あなたの責任」として放っておくわけにもいきません。しかし、個人のお金で楽しむものを止めるわけにもいきません。
もしも、自分たちの施設でこの葛藤が生まれるような事例に出くわした場合、どのように対応していくでしょうか。
本コラムでは、障害者施設において入居者が趣味に没頭して散財してしまうことを事例に挙げ、その対応の仕方について解説します。
大好きなアイドルへの投げ銭が止まらないAさん
障害者グループホームに入居する20代男性のAさん(中等度の知的障害)は、自身のスマホでいつも大好きな女性アイドルグループの動画を視聴しています。そのアイドルグループはテレビに出るようなアイドルではなく、動画視聴サイトやSNSなどで活動を発信しており、Aさんはその中の1人のアイドルに釘付けです。
ある時、Aさんのスマホを契約している通信会社から高額な請求がAさん宛に届きました。
中身を確認すると、十数万円の請求金額が目に入りました。これまで見たことが無い金額です。
Aさんから話を聞くと、アイドルに投げ銭をしていたことが判明しました。Aさんは知的障害や自閉スペクトラム症の特性があり、対人コミュニケーションに苦手意識を持っていました。しかし、ライブ配信(投げ銭)の世界では、数千円を投じるだけで、憧れのアイドルが「今日も来てくれたんだ!ありがとう!」と満面の笑みで自分の名前を呼んでくれます。その嬉しさに堪らず投げ銭を繰り返してしまったのでした。
クレジットカードを持っていないAさんでしたが、スマートフォンの「キャリア決済(通信料金と一緒に請求される仕組み)」を利用していました。
最初は数千円の請求だったので周囲も気づきませんでしたが、アイドルの「今月のランキングで1位になりたいの!」という煽りに乗せられ、一気に十数万円へと膨れ上がり、ついには本人の障害年金や作業所の工賃では払いきれない額に達しました。

職員の言葉に反抗するAさん
この事態を知った施設側は、Aさんに投げ銭を控えるように伝えようと考えました。「投げ銭は辞めよう」と伝えてしまうと楽しみを奪ってしまいかねないので、「金額の限度を決めたり、回数制限を設けたりしよう」と提案しました。
ところが「俺のお金だし、俺の勝手だろ!」「俺の好きにさせろ!」と、Aさんは職員に対して反抗してきたのです。
こう言われてしまった職員は困ってしまいました。
「確かにAさんのお金だし、アイドルに投げ銭をするのは違法なことではない」
「Aさんの趣味に介入するのは良くないことかもしれない」
「でも、Aさんの特性上、歯止めが効かないのは分かっている。」
「Aさんのために止めてあげたい、しかし、Aさんの自由を奪いたくはない。どうすれば良いのだろうか?」
この葛藤に職員は悩んでしまいました。

追い打ちをかけるように登場する「自称・支援者Bさん」
Aさんに対してどのようし支援をしようか考えていた職員たちの前に、突然「Aさんの支援者」を名乗る人物から抗議文が届きました。
抗議文には、
・Aさんの自由や生きがいを奪うな
・Aさんの権利を侵害するなら法廷で争うつもりだ
・今後Aさんに対して何かしたい場合は私を通せ
とありました。まるでAさんの代理人弁護士のような物言いだったのです。AさんにBさんとの関係を聞いてみると「ネットで知り合った支援者」という返答がありました。
一方的に抗議文を送り付けられてきているので、Bさんが果たして何者なのか分かりません。Aさんはネットで知り合った支援者と話していますが、家族や親族なのか、友人なのか、本当にネットで出会っただけの人なのか。
職員たちの不安はますます高まりました。

弁護士の解説 ―Aさんを止められる法的根拠は無い?―
Aさんの主張はもっともで、守られるべきものです。しかし、職員が心配する気持ちも理解ができます。
「愚行権」(ぐこうけん)という言葉をご存知でしょうか。他人に危害や迷惑を及ぼさない限り、たとえ周囲から見て愚かで不合理な行為(喫煙、飲酒、ギャンブル、治療拒否など)であっても、個人の自由として尊重されるべきだという権利のことで、憲法上の幸福追求権の一種と解されます。
アイドルに投げ銭で大金を投じることは、そのことで何かしらの対価を得られるものではなく、一方で掛け金は青天井であるためお金が無くなって破産するリスクをはらんでいます。このような活動は第三者から見ると愚かな行為に映るかもしれませんが、それでも高揚感や楽しみのためにそれに興じることはAさんの権利として守られるべき、という考え方もあります。
もとよりかけているお金はAさんの財産なので、他人に迷惑をかけない限りどのように使うかはAさんの自由です。Aさんの行動は認められなければいけません。

施設の落ち度を指摘されない対応は必要
しかし現実には、そうかといって完全に自由放任とする訳にもいきません。Aさんが中等度の知的障害者であり、生活の支援を受けるために施設入所している、という事実を見過ごすことはできず、施設関係者やAさんの親族等はAさんの財産を保護すべき立場にあるといえます。特にAさんの日常生活を見守り支援する施設は、入所契約において利用者の生命・身体・財産の安全を守るという安全配慮義務を負うところ、財産の過度な流出を食い止めることもその義務の一環と言い得るのです。
本件のような場合は、Aさんの財産処分の自由(愚行権)と財産保護のバランスを図る観点から、施設としてできる限りの対策を考え実行した、というエビデンスを残すようにすると良いでしょう。具体的には、Aさんの身元保証人をはじめ、医療機関、行政やソーシャルワーカーなど関係機関と連携して対応を協議し、Aさん本人も交え話し合った上で投げ銭行為について制限を設けるのか、設けるとしてどの程度にするかといったことを決めていくのが良いでしょう。
その際の会議実施の記録や会議内容を議事録としてまとめておくなど、記録を残しておきます。Aさんへの今後の対応を考え、それに対して必要な措置を講じたという記録が残っていれば、Aさんの問題を施設が放置せず対応していたという証拠になります。
対応としてどのような具体策が良いかはケースバイケースですが、どのように考え、行動したかの記録は必ず取りましょう。

後見人を付けるべきか
Aさんに成年後見人が付いていないのであれば、後見人を家庭裁判所に申請する、という方法も考えられます。ただ、もし後見人が付けばその人がAさんの全財産を完全にコントロールすることになり、Aさんの自由な趣味の活動はできなくなってしまう可能性が高いといえるでしょう。お小遣いとして数万円を渡す後見人もいますが、Aさんは恐らく納得しないことと思います。
そうなれば、Aさんとしてはフラストレーションが一気に高まり、生活が荒れたり周囲に当たり散らしたりするといったことも生じるかもしれません。グループホームは少人数での共同生活の場ですから、Aさんが居場所を失うといったことにでもなれば、後見人の判断で大型の施設に移されるといった展開も想像できます。
後見人によりAさんの財産は第三者の管理に委ねられ守られることになりますが、果たしてそれでAさんは幸せになれるのか、愚行権と財産保護のバランスは保たれるのかというと疑問が残るところです。筆者としては、本件のようなケースでは後見人の選任は飽くまで最後の手段とすべきと考えます。

関係者の身元は必ず明らかにする
Aさんの支援者を名乗るBさんが現れ、いきなり抗議文を送り付けてきましたが、この場合は動揺せず、まずはBさんの身元を明らかにしましょう。今回は「ネットで出会った支援者」ということですので、家族や親族である可能性はほぼ無いといえますが「従妹」や「姪・甥」という身分で近寄ってくる不審者もいます。
家族や親戚を名乗り入居者に近づいて、最終的に財産などを自分に相続するよう仕向けるなど、何かしらの被害につながってしまうのです。そうなると施設側の管理責任も発生しますので、戸籍謄本や身分証の提出を求めるなどして「相手は一体誰なのか」を明確にすること、そして、明確になるまでは絶対に情報開示をしたり、安易に施設内に入れないことです。利用者の個人情報も漏洩させないよう注意してください。

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弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。











