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こんな時どうする?荷物だけが残された「契約中の亡霊ご利用者」
施設をふらりと出たきり、行方不明となった入所者。懸命な捜索も虚しく月日が流れたとき、現場を悩ませるのは「残された荷物」と「終わらない契約」です。本人は不在なのに部屋は解約できず、身元保証人からは「荷物を勝手に捨てるな、訴えるぞ」と理不尽に突き放される。こうした「亡霊」のような空室状態は、施設の経営をじわじわと圧迫します。
予期せぬ失踪が起きたとき、施設はどう身を守り、法的に対処すべきなのでしょうか。本記事では、捜索願を出すべき実務上のメリットから、トラブルを未然に防ぐ契約書の条項、残置物への防衛策までを詳しく解説します。
「散歩に行く」と言ったきり失踪した入所者
比較的軽度な方が集う有料老人ホームに入所するAさん(要介護1)。ある日「ちょっと散歩してくるね」と言いフラッと一人で出ていきました。
Aさんは穏やかで年齢の割に元気だったので、周囲の職員も特段注意して対応するようなことはありませんでした。何気ない日常でしたが、ところがその日Aさんは戻って来なかったのです。
慌てた職員たちは辺りを探し回りましたが、全く見当たりません。消防団や警察に届け出てパトロール中に探してもらいましたが、それでも見つかりませんでした。
それから数日は手が空いている職員でAさんの捜索をしましたが、どこに行ったのか一切手がかりがつかめませんでした。

Aさんが失踪して3カ月が経った頃、施設側はAさんの対応をどうするか考えていました。Aさんの部屋には失踪した当時のまま荷物が置かれていたため困っていたのです。
Aさんには家族はおらず、近くに親族もいませんでしたが、唯一遠方に甥がいました。なお、甥はAさんの身元保証人などにはなっていませんでした。
施設はやむを得ず甥に連絡してAさんの状況を伝え、今後の対応や荷物の処理について相談しました。
ところが、
「叔父とは20年以上前から絶縁状態なので、自分は何もしない。」と甥。
更には「部屋の荷物は勝手に処分しろ。ただし、現金や預貯金、時計などの金品がある場合は取っておいてこちらに送れ。処分したら後で訴えるぞ。」
と脅され、施設側は困り果ててしまいました。

失踪発生時は捜索願を出す
入所者が失踪した場合、自分たちで捜索するのはもちろんですが、目途が立たなければすぐに警察へ通報し、力を借りることもするべきです。「行方不明者発見活動に関する規則」というものがあり、警察機関はこれに従い動いてくれます。
また、捜索願を出すことで、防犯カメラ映像を精査して探し出したり、公共交通機関へ情報提供を呼びかけて協力を仰いでくれます。全国の警察で情報を照会できるようになるため、遠方で発見された場合にすぐに照合ができるようになりますので、大ごとになることを恐れず速やかに提出しましょう。
同様に、地元の介護保険課や地域包括、社協等とも適宜連携し情報共有に務めることが重要です。

施設の責任を果たすためにも捜索願を出した方が良い3つの理由
警察の高い捜索能力に頼る以外にも、捜索願を出した方が良い理由があります。
①損害賠償保険の条件になっている可能性がある
施設が加入している「施設賠償責任保険」などは、施設側の過失(見守り不備など)で損害が発生した場合に適用されます。家族が捜索願を出さない(本気で探す意思がない、または失踪を容認している)場合、「損害が発生していない」と判断され、慰謝料や捜索費用の支払いが難航する可能性があります。
②捜索費用の補償を受けられなくなる可能性がある
一部の「行方不明者捜索費用保険」では、警察への届け出が保険金支払いの条件となっている場合があります。家族が届け出を拒むと、民間の捜索業者を雇った費用などが一切補償されないリスクがあります。
③行政から適切な対応でないと指摘される可能性がある
介護保険制度では、利用者が行方不明になった場合、施設は市区町村(保険者)に事故報告書を提出する義務があります。 この報告書には「警察への届け出の有無」を記載する欄がありますが、家族が届け出を拒否したとなると、行政から「家族との連携が取れていない」「適切な対応がなされていない」と捉えられ、指導対象になる可能性があります。
失踪に関する取り決めは契約書に入れておく
捜索願を出して懸命に探しても見つからない場合は、その後のことも考えなければいけません。施設も経営がありますので、失踪した入所者の部屋をそのままにしておくわけにもいきません。ですので、失踪した入所者への対応をどうするかを決める必要があります。
基本的に入所者と締結した契約書に基づいて行動しなければいけませんが、契約書の中に失踪(音信不通状態)となった場合の対応を入れておくと安心です。
例えば、以下の内容を入れておくと良いでしょう。
「入居者が施設を離れて3カ月経過した場合は、施設側の判断で退去とすることができる」
「残置物の処分は身元保証人が責任を持って行う」
※ただし、これらを執行する際は「あらかじめ法的な手順(相当な期間を定めた催告など)」を踏むことが前提となります。契約書に記載があっても裁判手続きを経ずに荷物を処分する「自力救済」は原則禁止されているため、手続きのプロセスを記録に残しておくことが極めて重要です。
これらが契約書に記載されていれば、今回の事例のような失踪や音信不通状態が発生したとしても施設側は適切に対応ができます。

残置物リストを作っておくと安心
契約書をしっかり作っていたとしても、今回の甥のように身元保証人でない親族が非協力的である場合は困ってしまいますね。「預貯金や金品を処理したら訴える」と脅してくるようなことは最早カスハラと言っていいでしょう。
ただ、甥の立場であってもその人の親(本人からみれば、きょうだいに相当)が先に死亡している場合は、法定相続人となり利用者本人の財産の相続権があります。施設側は契約上利用者の財産を保持する安全配慮義務を負うところ、経緯はどうあれ残置物を無碍に処分する訳にはいきません。
そこで、本件のようなリスクに対応するために「残置物リスト(目録)」と写真等の記録を作成しておくと良いでしょう。
入所者が失踪した、連絡がつかないとなった場合に、部屋の中にある荷物のリストを作成します。全てを細かくリストに記入するのは物理的に不可能である場合もありますので、部屋全体や引き出しの中など、荷物が分かるように写真を撮って記録する方法も併用しましょう。

親族から理不尽な言いがかりをつけられた場合でも、このリストがあれば施設の潔白を証明する証拠になります。ここまでしても、「高価な時計もあったはずだ」等と言いがかりをつけられるかもしれません。ですが、そのような施設の把握していない物品に関してはその存在を立証する責任は相手方(甥)が負うことになります。ただ思い込みで言っているような場合は法的に認められるものではないので、最終的には応じなくとも構いません。
対応のプロセスを「記録」に残すことを忘れずに
一連の対応において、「施設側がいかに正当な手順を踏んだか」を時系列で記録しておくことは忘れないでおきましょう。
★警察とのやり取り
通報した日時、担当官の氏名、相談内容、受理番号などを詳細に記録します。
★身元保証人との交渉内容
電話であれば「いつ・誰が・誰と・何を話したか」の電話メモ、メールや手紙(特に催告書は内容証明郵便が望ましい)の控えを全て保管します。
★残置物の確認
前述した「残置物リスト」に加え、部屋の現状を写真や動画で記録する際は、可能であれば第三者(他の入所者や家族ではない外部の立会人など)に立ち会ってもらい、その事実も記録に残しましょう。
「あらかじめ法的な手順を踏む」といっても、その証拠がなければ裁判では認められません。理不尽な言いがかりから施設を守る唯一の手段は、感情的な反論ではなく、「客観的で詳細な対応記録」です。
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弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。











