どうしよう!?介護・福祉施設の事業承継  はじめの一歩の踏み出し方

どうしよう!?介護・福祉施設の事業承継はじめの一歩の踏み出し方

おかげさまです。
2025年4月より、弁護士法人おかげさまに参画しました弁護士の武田竜太郎です。
本コラムをご覧いただき、誠にありがとうございます。

私は公認会計士試験に合格しており、会計士として実務経験を積んだ後、弁護士としてM&A・事業承継を中心とした案件を数多く手掛けてまいりました。

本コラムでは、一般的な法律問題に限らず、事業承継、M&A、会計に関するテーマで発信していき、介護・福祉従事者の皆様へ有益な情報提供をしてまいります。

さて、今回のコラムの本題です。

現在、日本の介護業界では、経営者の高齢化が進み、事業承継が喫緊の課題となっています。特に、小規模な法人や家族経営の事業所では、「どうやって後継者を見つければいいの?」「事業承継って何から始めるの?」と悩む経営者も多いのではないでしょうか。

事業承継は、経営者の経験やノウハウを次の世代に引き継ぐ大切なプロセスですが、そもそも「どこから手をつけるべきか分からない」という声をよく耳にします。

本コラムでは、介護・福祉施設の事業承継において、多くの経営者が迷いがちなポイントについて解説します。

「事業承継」は3種類ある

「事業承継」は3種類ある 事業承継と一言で表しても、「誰に対して承継するか」という観点から考えると、以下の3つの選択肢があります。それぞれのメリット、デメリットも解説します。

①親族内承継

後継者を経営者の親族から選び、経営を引き継ぐ方法です。

ただし、社会福祉法人では理事長職を親族に引き継ぐことは可能ですが、ガバナンスの観点から理事の3分の1超が親族で構成されることが認められませんので、注意が必要です。

<メリット>

・組織文化の維持がしやすい。

・既存の運営方針を継続しやすく、従業員や既存の取引先との関係を維持しやすい。

・利用者やその家族にとっても安心感がある。

<デメリット>

・適任者がいない場合がある。

・親族内にこだわることで適任者でない人に任せてしまう危険性がある。

②従業員承継(役員・職員承継)

法人の他の理事や幹部職員が運営の責任者となる形で承継する方法です。親族内に適任者がいない場合に、この方法を選択するケースがあります。

<メリット>

・施設の詳細を理解しているため、スムーズな承継が可能

・既存の運営方針を継続しやすく、従業員や既存の取引先との関係を維持しやすい。

・利用者やその家族にとっても安心感がある。

<デメリット>

・従業員として能力が高いとしても、経営者としての資質があるとは限らない。

・(株式会社の場合)株式の取得に多額の資金が必要になる場合もある。

③外部承継(合併・事業譲渡)

親族や従業員に適任者がいない場合、外部の法人や第三者に経営を引き継ぐ方法です。

特に近年、介護業界ではM&Aによる承継が増加しています。

<メリット>

・同業他社が承継するケースが多く、適切な後継者を見つけやすい。

・承継先の企業が大手の場合、事業の安定化や効率化が図られる可能性。

・事業を売却することで、経営者は利益の確保が可能(退職金等の方法)。

<デメリット>

・承継先の企業の方針によっては、事業の方向性(例えばサービス内容等)が変更される場合もある。

・経営者が外部の第三者に変わるため、利用者やその家族が不安に感じるケースもある。

親族内承継・従業員承継・外部承継それぞれの特徴とメリット・デメリット

外部承継の手法(合併と事業譲渡)

外部承継の場合、主に、合併又は事業譲渡の手法があります。

外部承継の手法(合併と事業譲渡)

<合併とは?>

合併とは1つの法人が他の法人と統合し、法人そのものが消滅し、他の法人に統合されることです。

<合併のメリット>

・会社全体を引き継ぐため、事業の継続性が高い(顧客や取引先への影響も少ない)。

<合併のデメリット>

・会社全体を引き継ぐため、不要と思われるもの(施設やサービス)も承継する

・会社全体を引き継ぐため、借金や法的リスク(進行中の裁判など)も承継する

<事業譲渡とは?>

事業譲渡とは特定の事業(例:特養、グループホームの施設の一部など)だけを別法人に譲り、法人自体は存続することです。

<事業譲渡のメリット>

・承継する側は、必要な資産・契約・従業員のみを引き継げるため、柔軟な対応が可能(=負債や不要な事業は引き継がずに済む)。

<事業譲渡のデメリット>

・資産や従業員などを個別に移転する必要があるため、手続きが煩雑。

・譲渡による税負担が発生する可能性(消費税)

法人格による事業承継の選択肢の違い

事業承継の方法は、法人格によって異なります。上記で挙げた方法をすべての法人が実施できるとは限りません。

特に、株式会社は法人格の自由度が高く、M&Aや事業譲渡など柔軟な承継手法を選択しやすいのが特徴です。一方で、社会福祉法人などの特殊な法人は、法的な制約があるため、事業承継の選択肢が限定される場合があります。例えば、社会福祉法人の合併や事業譲渡には、行政の許可が必要となるなど、手続きの煩雑さが伴います。

事業承継を検討する際は、自社の法人格に応じて、どの承継手法が可能なのかを事前に把握しておくことが重要です。具体的な選択肢を整理した比較表をご用意しておりますので、ぜひご参照ください。

法人格に応じて、どの承継手法が可能なのかを事前に把握しておくことが重要

事業承継がスタートする時の主な登場人物

事業承継がスタートすると、法人や事業を引き継ぐためのプロジェクトとなるため様々な関与者が現れます。関与者とのやり取りが発生し、それらをこなしていった先に事業承継というゴールがありますが、では、どういった関与者が登場し、どういう役割を担うのでしょうか。以下に事業承継を行う際に登場する人物とその役割を解説します。

事業承継で登場する人物たち

●経営者および承継する方

事業承継の中心人物です。現在の経営者と事業を引き継ぐ後継者が、承継プロセスの主体となります。本コラムをお読みの皆様の中には、まさにこの立場にいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

●金融機関

金融機関は、特に事業譲渡やM&Aにおいて資金繰りの調整を担う重要な存在です。買い手側では資金調達(事業の購入資金の融資)、売り手側では既存債務の整理(借入金の返済計画の見直し)で関与してくる場合があります。また、M&A後には、経営者による個人保証を解除するなど、保証、担保の見直しも行われる場合にも関与してきます。

事業承継の資金計画は、経営の安定性に直結するため、金融機関と早めに相談することをおすすめします。

●顧問税理士

事業承継の手法により税負担が大きく変わる可能性があるため、顧問税理士による適切な対策が必須です(例えば、事業譲渡の場合は消費税が課税されるものの、合併の場合は課税されません)。承継する事業の価値算定や財務調査、承継後の税務対策は税理士の担当となります。

●顧問弁護士

事業承継の過程で発生する法的リスクを管理し、スムーズな承継を実現するために弁護士の存在が不可欠となります。例えば、契約書の作成、リーガルチェックは重要な役割です。事業承継は従業員にも影響を及ぼすため、従業員との間の契約変更、雇用条件変更の適法性の確認でも関与してきます。そのほか法的なトラブル対応が発生した場合に随時対応します。

●M&Aアドバイザー

特にM&Aを活用する場合は仲介業者やファイナンシャルアドバイザー(FA)が介在します。売り手と買い手のスムーズなマッチング、条件交渉、スキームの策定などで関与してきます。

●社会保険労務士

労働法の遵守と円滑な引き継ぎのために社労士が関与します。例えば、事業承継が完了した後の新しい会社の社会保険の申請や健康保険の引継ぎ等は社会保険労務士の担当領域となります。

●自治体(行政)

事業承継において、行政からの許認可が必要となる場合は行政が登場します。例えば、社会福祉法人の場合は、合併や事業譲渡において行政の関与が必須となります。

介護・福祉事業者はまず何をするべき?

「さぁ、事業承継に取り組むぞ」と、高いモチベーションを持ったとしても、はじめに何をするべきか思いつかない方も多いのではないでしょうか。はじめにやるべきこととしては「現状把握」から取り組むべきです。以下のポイントについて、まずは考えを明確にしていくと良いでしょう。

①事業を承継するのか、廃業するのか

後ろ向きな話になってしまいますが、まずは事業を「続ける」のか、それとも「辞めざるを得ない」のかを考えることになります。例えば、人手不足をどうしても解消できず受け入れ可能な利用者の数も少なく、これ以上の運営を継続することが難しい、というケースもあろうかと思います。

②後継者候補(親族・従業員・外部)は誰か?

事業を「続ける」ことを選択した場合は、次に、「誰に」事業を承継させるのか考えることになります。具体的には、「親族」「従業員など社内の人」「第三者」のどの人に承継してもらうのかを検討すると良いでしょう。承継する人によって、その後の行動の仕方も変わってきます。

③経営状況を明確にする

事業を「続ける」と決めた場合、誰に承継させるにしても、まずは法人の経営状況を明確にする必要があります。なぜなら、法人の全体像を最も深く理解しているのは現経営者本人であり、後継者(親族・従業員・外部の第三者など)にとっては、その実態が見えづらいことが多いためです。事業内容が曖昧なままでは、後継者が「本当に引き継いで大丈夫なのか?」と不安を感じ、スムーズな承継が難しくなります。

したがって、「法人の経営状況を分かりやすく整理し、可視化する」ことが最初のステップとなります。

まずは「法人の見える化」からスタート!

事業の承継を円滑に進めるためには、後継者が「この法人は一体どんな事業をしていて、経営状況はどうなっているのか?」を明確に理解できるよう、必要な情報を整理し、資料としてまとめておくことが重要です。具体的には、以下のような情報を整理することで、法人の全体像を客観的に把握できるようになります。

  • 財務状況の整理(収益・経費・利益・資産・負債・キャッシュフローなど)
  • 事業内容の明確化(主力サービス・提供価値・強みと弱み)
  • 利用者の構成と満足度(顧客層・満足度調査・口コミ)
  • 主要な取引先の一覧
  • 今後の市場環境の予測(業界の動向・市場の成長性・規制リスク)
  • 競合他社の状況(競争優位性・市場でのポジション)
  • 重要な従業員の把握(重要な役割を担う従業員・組織構成・後継者候補)

なぜ「見える化」が必要なのか?

これらの情報を整理し、可視化することで、「なるほど、こういう会社・法人なのか」と理解しやすくなります。

また、法人の提供するサービスの強みや課題を明確にすることで、事業承継後の方針や改善点も見えてくるため、後継者にとっても安心して承継の意思決定ができるようになります。

事業承継を成功させるためには、まず「法人の見える化」を進めることが第一歩です。これをしっかりと行うことで、承継プロセスがスムーズになり、後継者がより納得感を持って新たな経営をスタートすることができます。

承継の検討に「法人の見える化」は役立つ

放置は危険!

事業承継はすぐに、簡単に進むものではありません。やるべきことは沢山ありますし、法人ごとに状況は十人十色で、ケースバイケースの対応をとることが必要となります。

重要なことは、事業承継の問題を「放置しない」ということです。

経営者の方は忙しいので、事業承継の問題に取り組むことを後回しにしがちなのですが、上記のとおり、事業承継は時間がかかります。

「まだ先の話だから」と考えていると、突然の体調不良や不慮の事故によって後継者が不在のまま経営が困難になってしまうというケースもあり、私自身、そういった現場に出くわしたこともあります。だからこそ、今のうちに、少しずつ準備を進めていくことが大切です。

事業承継も大事な経営課題

事業継承も大事な経営課題

全ての経営者には「いつかは引退する日」が来ます。

経営者は、「目の前の」経営課題(例えば、人材採用・コスト削減)に追われる日々を過ごしているかもしれませんが、「誰にどのようにして事業を受け継がせるか」という問題も立派な「将来必ず問題になる経営課題」です。

事業の承継について、早めに考え、少しずつ準備することが、会社・法人の未来(つまり従業員や家族、利用者、取引先の未来)を守ることにつながります。

事業承継は「ある日突然やるもの」ではなく、「少しずつ準備するもの」です。まずは、現状の把握から始めていきましょう。

弁護士法人おかげさまでは、経営者の方の事業承継・M&Aに関して、30分の無料相談を実施しています。例えば、以下のような悩みを抱えられている場合には、是非一度、お気軽にご相談ください。

  • 事業承継について考えているが、何から手を付ければいいか分からない。
  • 事業承継に関して、親族間でトラブルを抱えている。
  • M&A仲介会社から、「他の法人を買わないか?」と持ち掛けられているが、どのように対応すればいいか分からない。

等々

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