これだけは知っておきたい! 社会福祉法人の事業承継の注意点

弁護士 武田竜太郎

おかげさまです。

2025年4月より、弁護士法人おかげさまに参画しました弁護士の武田竜太郎です。

本コラムをご覧いただき、誠にありがとうございます。

私は公認会計士試験に合格しており、会計士として実務経験を積んだ後、弁護士としてM&A・事業承継を中心とした案件を数多く手掛けてまいりました。

本コラムでは、一般的な法律問題に限らず、事業承継、M&A、会計に関するテーマで発信していき、介護・福祉従事者の皆様へ有益な情報提供をしてまいります。

さて、今回のコラムの本題です。

日本の介護・福祉業界では、多くの施設が社会福祉法人によって運営されています。当事務所の顧問先にも、社会福祉法人が運営する介護・福祉施設が多数ありますが、これらの施設が安定して継続的にサービスを提供できる体制を維持することが非常に重要です。そのためには、運営母体である社会福祉法人の持続可能な経営が不可欠となります。

事業承継はどの法人にも避けられない経営課題ですが、社会福祉法人における事業承継には、一般の企業とは異なる特殊な規制や制約が存在します。これらを事前に把握し、適切な計画を立てることで、無駄な時間や労力を削減し、事業の継続が困難になるリスクを最小限に抑えることができます。

本コラムでは、社会福祉法人の事業承継において特に注意すべきポイントや制度上の特殊性について詳しく解説します。

社会福祉法人の基礎知識

これは基本的な事項ですが、事業承継を考える上で重要な前提知識となるため、あらためて整理します。

社会福祉法人とは、社会福祉法に基づいて設立される非営利法人であり、主に介護施設、保育園、障がい者支援施設などの運営を行う組織です。法人格を持ち、一定の要件を満たすことで税制優遇や補助金の対象となります。社会福祉法人の設立目的は、営利を追求するのではなく、社会福祉事業を通じた公共の利益の実現にあります。

また、社会福祉法人は一般的な株式会社やNPO法人とは異なり、行政の監督を受けながら運営される点が特徴です。そのため、運営には厳格なルールがあり、事業承継やM&Aにおいても特有の制約が存在します。

こうした社会福祉法人特有の事業承継の課題と、それに対する具体的な対応策について掘り下げていきます。

ここに注意!社会福祉法人が負う事業承継のハードル

社会福祉法人の事業承継は、一般企業の承継と比べて 特殊な制度や制約 が多く、手続きが煩雑なのが特徴です。以下のようなポイントが、事業承継を複雑にする要因です。

社会福祉法人が負う7つの事業継承のハードル

 

1. 株式の譲渡ができない(持分がない)

一般企業では、株式の譲渡によって経営権の移転がスムーズに行われるが、社会福祉法人には株主が存在せず、法人資産も個人の所有物ではないため、株式の売買という形での承継が不可能です。

また、株式会社の場合のように取締役会や株主総会の承認があれば自由に譲渡できることはなく、経営権を移転するには、法人の理事会・評議員会の承認や行政の許可が必須となり、手続きに時間がかかります。

2. 財産の私物化が禁止されている(公益性の縛り)

社会福祉法人の財産は公共の福祉のために使われるべきものであり、経営者や後継者が自由に処分(売却や分配)できません。実際、社会福祉法人が解散する場合、残余財産は国や他の社会福祉法人へ移転することが法的に定められています。

3. 行政の監督・許認可が必要(規制が厳しい)

社会福祉法人が事業承継をするには原則として行政の許可が必要となります。法人の合併・解散には事前の協議や届出、審査が必要となり、これらの手続きは時間がかかるため、スムーズな事業承継が困難になります。

4. 理事会・評議員会の承認が必要(意思決定に時間がかかる)

承継を進めるには、理事会や評議員会の合意形成が必要であり、意見がまとまらないと承継に時間がかかることになります。

5. 後継者の確保が難しい(人材の確保が困難)

社会福祉法人は営利企業とは異なり、新規事業の立ち上げや売上拡大を目的とするものではありません。極端に言えば、「その地域でどれだけ長く安定的にサービスを提供し続けられるか」が、運営の最も重要な課題となります。

しかし、この特性ゆえに、社会福祉法人の運営に魅力を感じる人材が少なく、後継者候補が見つかりにくいという問題があります。

さらに、多くの場合、給与水準が一般企業と比べて低いため、経営能力の高い人材を確保しにくいという現実もあり、人材確保の難しさが経営の大きな課題となっています。

6. 事業承継・M&Aの方法が少ない

一般企業の場合、M&A(合併・買収)を活用することで経営権の移転が可能ですが、社会福祉法人では営利企業との統合が認められていません。さらに、合併を行う場合にも行政(所轄庁)の許可が必要となります。このように事業承継の難易度が高いのは、社会福祉法人特有の大きな課題の一つです。

7. 地域社会との関係が影響する(地域からの信用と信頼)

社会福祉法人は、地域社会との信頼関係のもとで運営されているため、承継後の新体制が地域に受け入れられないと、事業の継続が困難になることがあります。

特に、地元の医療機関・福祉関係者・自治体との関係が希薄な法人は、承継後に支援や協力を得られにくくなり、経営が不安定になるリスクが高まります。そのため、事業承継を検討する際は、地域社会との関係性の維持・強化が重要なポイントとなります。

社会福祉法人の事業承継・M&Aにおける特殊性:「利益」と「行政」の問題

社会福祉法人の事業譲渡や合併では、「利益」と「行政」の2つの要素が、一般企業と比較して特に大きな違いを生み出します。

通常、事業が買収される場合、売却代金が支払われるのが一般的ですが、社会福祉法人の場合、買収の際に売却代金を支払うことが極めて困難です(特に合併の場合)。その理由は、社会福祉法人は国民の社会保険料や公的補助を財源として運営されているため、その資金が外部に流出することが適切ではないとされているためです。

さらに、社会福祉法人は公共性を持つ法人であるため、事業譲渡や合併の際には所轄庁(都道府県知事など)の許可が必要となります。通常、この許可は大きな問題がない限り認可されますが、申請から認可までに1ヶ月以上かかることもあり、事業承継・M&Aが完了するまでに長期間を要することが一般的です。

社会福祉法人の事業承継・M&Aにおける特殊性:「利益」と「行政」の問題
このように、社会福祉法人の事業承継・M&Aは「利益」と「行政」において特殊性が発生するため、一般企業のようなスムーズな取引ができない点を十分に理解しておく必要があります。

社会福祉法人が選べる事業承継手段の特徴

社会福祉法人の事業承継には、以下の方法があり、一般企業とは異なる制約があることを踏まえて慎重に選択する必要があります。

社会福祉法人が選べる事業継承手段はこの3つ

①理事長・役員の交代による承継

社会福祉法人の経営は理事長を中心とする理事会によって運営されるため、理事長を交代することで事業承継を行う方法です。この方法によれば、社会福祉法人の法人格はそのまま残ります。

②合併

経営の安定化や事業の継続を目的とし、別の社会福祉法人と統合することで事業承継を行う方法です。同じ法人格である社会福祉法人同士であれば合併が可能です。

合併により、合併元の法人格は消滅するものの、事業や従業員の雇用は継続され、法人が保有していた財産や負債も合併先法人に引き継がれます。そのため、財務的に安定した法人との合併であれば、事業の継続性が確保されるだけでなく、資金繰りや運営基盤の強化も期待できるでしょう。

ただし、合併には行政の許可が必要となり、手続きが煩雑で時間を要する場合があるため、早めの計画と準備が不可欠です。また、合併後も事業運営に関する再許可や調整が求められるケースがあるため、所轄庁との十分な協議が必要になります。

③事業譲渡

法人格を維持したまま、特定の事業や施設のみを他の社会福祉法人へ譲渡・移管する方法です。組織全体を承継する合併とは異なり、特定の施設やサービスだけを譲渡したい場合に有効な手段となります。

この方法は、法人としての存続を維持しながら、事業の再編や経営のスリム化を図ることができるため、特に採算性の低い事業の整理や、特定の事業分野に経営資源を集中させたい場合に適しています。

ただし、譲渡・移管の対象となる事業の採算性が悪い場合、引き受け先の法人が見つかりにくいという課題もあります。

また、特定の事業・施設のみを譲渡するため、承継に際して、そこで働く職員や利用者の承諾が必要となり得る点にも注意が必要です。スムーズな移行のためには、事前の十分な説明と調整、関係者の理解を得るための丁寧な対応が求められます。

事業承継がスムーズに進みやすい社会福祉法人の特徴

事業承継を円滑に進めるためには、計画的な準備が不可欠です。承継相手がいて初めて成立するものですが、単なる偶然やタイミング任せではなく、日頃から事業承継を見据えた体制を整えておくことが重要です。特に、以下のような特徴を持つ社会福祉法人は、事業承継がスムーズに進みやすい傾向があります。

事業継承がスムーズに進みやすい社会福祉法人の4つの特徴

①後継者の育成が進んでいる

次世代の経営層や経営幹部候補者が育成され、承継に向けた準備が整っている法人は円滑に経営権の移行が可能です。介護・福祉業界では、人員不足により日々の業務に追われがちですが、長期的な視点で後継者の育成や幹部候補の登用を行っている法人は、承継時に混乱が少なく、経営の継続性を確保しやすいといえます。

②健全な財務状況である

適正な経営管理が行われ、財務基盤が安定している法人は後継者が引き継ぎやすいです。言わずもがなですが、財務状況が不安定な法人では、後継者が見つかりにくく、承継が難航する可能性が高くなります。事業承継をスムーズに進めるためには、財務の「見える化」と健全な財務管理を日頃から意識することが重要です。

③理事会・評議員会が機能している

組織のガバナンスが確立され、意思決定がスムーズな法人は、事業承継時の合意形成が容易です。特に社会福祉法人は、事業承継にあたり、理事会・評議員会の承認が必要なため、組織運営が適切でないと手続きが滞るリスクがあります。

日頃から透明性の高い運営を行い、関係者間の意見調整を円滑に進める環境を整えておくことで、事業承継の成功確率を高めることができます。

④地域と良好な関係を築いている

地域住民や関係団体との連携が強く、社会的な支援を受けやすい法人は、承継後も安定した運営が可能です。介護・福祉施設の利用者は、地域住民が中心となるため、施設の評判や地域の信頼は、事業承継において非常に重要な要素です。

また、地域との関係性は職員の確保にも影響します。地域に根ざした法人であれば、承継後も安定した人材確保が見込めるため、長期的な経営がしやすくなります。

 

事業承継は専門家との連携が成功の鍵

事業継承・M&A経験のある 弁護士武田竜太郎

事業承継は、法人にとっての大きなイベントとなり、その進め方次第で法人の将来が大きく左右されます。社会福祉法人は、法的・制度的な制約が多いため、適切な承継手法を選択することが不可欠です。

また、事業承継は、法人だけでなく、ご利用者・ご家族・職員・金融機関・地域社会など、多くのステークホルダーが関与するプロセスです。そのため、しっかりと準備を進め、関係者の合意を得ながら進めることが重要です。専門家(弁護士・税理士・社労士・M&Aアドバイザーなど)と連携することで、法的リスクを回避しながら、スムーズな事業承継を実現することができます。

弁護士は、契約書の作成、行政手続きのサポート、ステークホルダーとの調整、リスク管理など、多方面から事業承継を支援します。適切な法的アドバイスを受けることで、スムーズかつ確実な承継を実現できます。

なお、弁護士法人おかげさまでは、事業承継・M&Aに関する無料相談の場を設けております。

事業承継・M&Aの経験のある弁護士が30分間の相談対応をいたします。

<例えばこんなご相談を承ります>

  • 事業承継について考えているが、何から手を付ければいいか分からない。
  • 事業承継に関して、親族間でトラブルを抱えている。
  • M&A仲介会社から、「他の法人を買わないか?」と持ち掛けられているが、どのように対応すればいいか分からない。

事業を引き継ぎでほしい、引き継ぎたい、どうしようか悩み中という経営者の方は、お気軽にご相談ください。

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