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最近の介護事故裁判例(誤嚥編)
外国人介護士が当事者となった初のケース
人材不足対策のひとつとして外国人介護士を採用することが挙げられますが、現場に入れば国籍は関係ありません。しかし、外国で慣れない言葉を使っての仕事となると、理解不足や緊張もあり問題は発生しやすくなります。重要な人的リソースである外国人介護士ですが、一緒に働いたり管理するうえで「日本語に不慣れ」という弱点を、施設としてはどのようなシステムや対策で補強すべきか。
本コラムでは、実際の裁判例をもとに外国人介護士の勤務上注意しなければいけないポイントを解説します。
誤嚥事故が発生し亡くなったご利用者
令和7年3月25日、名古屋地裁での裁判例です。
施設入所のAさん(85歳)は、食事は自立していましたが少しずつ咀嚼・嚥下能力の低下が見られていました。そのAさんの食事介助を介護士のBさんが行っていた時に発生した誤嚥事故です。最終的にAさんはお亡くなりになりました。
Bさんはベトナム国籍で、日本に来て2カ月に渡り日本語と介護の訓練を受けていました。訓練終了後の勤務地がこの施設でした。
当時Bさんは、Aさん以外に9名のご利用者の対応もしていました。Aさん以外の9名はリビングで食事をしており、Aさんはリビングから少し離れた自室で食事をしており、そこで異変が発覚しました。
当初Bさんの証言では、「自分がAさんを食事介助している最中に急に様子がおかしくなった、顔色が悪くなった」とのこと。「これは危険な状態だ」ということで別の職員Cさんを呼びに行ったということでした。
「顔が変、顔が変!」と連呼したBさん。恐らくパニックになってしまい、言葉がうまく出て来なかったのでしょう。ただならぬ事態と感じたCさんはAさんの部屋へ駆け付けました。Aさんの状態を確認すると顔色は土気色になっており、亡くなっているように見えましたが、すぐに救急搬送を依頼しました。

Aさんが搬送される時点で、すでにAさんは心肺停止状態。救急隊が救急車内で咽頭展開して吐物吸引のために挿管したところ、20グラム程度の食物残渣が引かれたそうです。
病院到着時は既に亡くなっており、医師の診断では「低酸素血症」、その原因は「窒息」とされました。

この事故に関しては、Aさんの遺族が施設の安全配慮義務違反およびそれが原因でAさんが亡くなったことについて訴えを起こし、裁判となりました。
担当の外国人介護士の矛盾する証言
介護士Bさんは当初「Aさんの食事介助中に、急にAさんの様子がおかしくなった」と証言していました。介護記録にもそのように残っていました。
ところが、Bさんの証言や記録には、「呼吸困難の際にみられるチョークサイン等の症状が出た」旨の記録がありませんでした。Aさんは窒息が原因で亡くなっており、Cさんが食事介助中に異変が発生したのであれば、本来はAさんのもがき苦しむような仕草を確認しているはずです。
また、Bさんの記録の中には「ぐったりしていたので、Cさんを呼びに行った」という記載がありましたが、Aさんが窒息した際の様子に関する記載はありませんでした。

このことから、Bさんの証言の信頼性は低く、リビングに居る9名の食事介助をするために一時的にAさんのそばを離れた際、Aさんが誤嚥を起こし窒息した。そして、戻って来たBがAさんがぐったりしている様子、土気色の顔色を見て「顔が変」と連呼してCさんを呼んだ…という流れが現実であろうと考えられました。
もしかるすとBさんは、「自分に責任が及ぶのではないか」と不安に感じ、Aさんの食事介助中にその場を離れたことを隠してしまったのかもしれません。
結果的には施設側の安全配慮義務違反が認められ、それによりAさんは窒息したと判断されました。施設側は遺族に対し2260万円の賠償金を支払うことになりました。

外国人職員にはまず「緊急事態」の対応から教える
外国人介護士が日本の介護現場で働くために日本語や介護に関する知識を習得すると思いますが、緊急時の対応方法、報連相の仕方など、有事の際にどのように行動するべきかという研修の方が優先度が高いといえます。特に転倒と誤嚥はいつどこで起きてもおかしくないところ、そのような場面に出くわしたり自分が関わっているようなときに慌てないよう繰り返し教えることがまず大切なことです。
「介護の現場というものは医療現場のように非日常がベースではなく、普段は穏やかである。しかし相手は高齢者なので、いつ急変したり転んでもおかしくない。その瞬間、一秒を争う緊急事態という非日常の世界に引き込まれる。そのギャップがとても大きいのが介護現場の特徴です。何が起きても冷静に、落ち着いて対処する心構えを持ちましょう。」

その上で、「仮に自分が事故を起こしたとしても、職員個人が責められることはない」と説明し安心してもらいましょう。事故は施設を運営する法人の責任であり、ご家族や関係者への対応も法人が行います。職員にできることは、嘘をつかず、何事も隠さずありのままを報告することであり、それはその事故を体験した人にしかできないことです。「怖がることは何もないので、安心して全て報告してほしい」と伝えましょう。
日常業務は現場にいる先輩や上司が教えることができますし、現場経験が長くなれば慣れてくるものです。しかし、緊急事態は頻繁に起こるわけではなく、また、今回のように現場に一人でいる時に発生することもあり得ます。避難訓練のように定期的に訓練を実施し、理解を確認することが良いでしょう。
また、コンプライアンスや法令、ルールに関する教育も必要です。事業所において発生した事故は、よほど故意で発生させない限りは事業所の責任となります。個人に責任が及ばないことを知っておけば、隠蔽や虚偽の報告を防ぐことができますし、職員も安心して業務遂行ができるでしょう。
介護はリスクマネジメントができて一人前
このように、介護現場の対応というものは飽くまで緊急事態を想定しいつでも最低限の対処ができなければいけません。その意味では、日常業務を一通りこなせるようになったレベルはまだ入り口段階といえるでしょう。
外国人人材が介護現場の主戦力となる未来は、もうすぐそこまで来ています。これまでは日本人同士の「阿吽の呼吸」で成り立ってきた現場も多いでしょう。しかし、国籍や文化が違えば、そうした暗黙の了解は通用しません。
今回の裁判例は、外国人職員を採用するすべての施設にとっての教訓となります。「日本語が話せるから大丈夫」という楽観視を捨て、文化や心理的ハードルを想定した「仕組みとしての安全管理」を再構築しなければなりません。
リスクや問題を減らすために弁護士が存在しています

介護福祉現場は、ご利用者、家族、経営者、職員、行政が関与しており、そのためにリスクや問題が発生しやすい業界です。今後は職員の中に「外国人職員」が新たに入ってきますし、存在感を増してくるでしょう。関与者が多くなればなるほど管理は大変です。小さなリスクが大問題に発展することもあります。
リスクを小さいうちに潰す、問題が発生しにくい環境にする、問題が発生したら早いうちに対処する、こういった取り組みが安心・安全・安定の経営につながります。
この取り組みを支えるのが弁護士です。
私たち弁護士法人おかげさまは、介護・福祉特化の弁護士法人として全国の介護福祉事業所様をサポートさせていただいております。現場を理解している介護弁護士が顧問弁護士として日常の相談やアドバイスを行ったり、代理人として対応したりしております。
顧問弁護士としてサポートする「顧問弁護士サービス」をご用意しており、ご質問などをお受けする「20分無料相談」もございます。

弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。










