
目次
【保育園向けカスハラ対策コラムVol.02】
「我が子のため」を思った結果のカスハラ 保育園はどう対処する?
保育園は子どもを預かる施設ですが、意思疎通ができない小さな子どもを預かる場でもあるため、保護者としては心配になる方もいらっしゃると思います。保育園で過ごす様子を直接見られないからこそ、「常時見守ってやれないからこそ、何かあったら親として守ってあげなければ」と思う気持ちは理解できます。しかし、それがあまりにも理不尽な要求であったり、保育士を傷つけるような言動として表出したりすると、保育の現場は疲弊し、混乱してしまいます。
保育園としては、保護者からのカスハラ(カスタマーハラスメント)を含む種々のクレームに適切に対処し現場職員を守らなければいけません。 本コラムでは、我が子を思う気持ちが行き過ぎた結果としてカスハラが発生した場合の対処事例について、具体的な応対法と共に解説します。
「愛情」と「ハラスメント」の境界線
保護者の「我が子を最優先にしたい」という感情は、本来尊重されるべきものです。しかし、その感情が免罪符となり、保育園側の受忍限度(社会生活を送る上で我慢すべき限度)を超える要求へと変貌したとき、それはハラスメントとなります。
具体的には、以下の3つの要素のいずれかが含まれる場合、カスハラと判断すべきです。
1 態様の妥当性 大声で怒鳴る、机を叩く、長時間拘束する、SNSで誹謗中傷するなど。
2 手段の正当性 「誠意を見せろ(金銭や特別な便宜を意図するもの)」という不当な要求や、土下座の強要など。
3 内容の過剰性 保育方針を逸脱した過度な個別対応(例:特定の保育士の解雇要求、園のルールを無視した個別の食事対応の強要など)。
上記3つのいずれかに該当したとしても、相手の威圧的態度や暴言に恐怖を感じ、その場で即座に応対することができないこともあるでしょう。次項では、具体的な事例を挙げ、その応対方法と考え方について解説します。

不快感や嫌悪感を抱くようなことが発生したからといって、全てを「ハラスメントだ!」と訴えて良いわけではありません。そんなことをしていたら業務が円滑に進まなくなりますし、今度は保護者側が困ってしまいます。
しかし、保育士はどこまでは耐えて、どこからはハラスメントと認定して行動するべきでしょうか。この点を難しいと感じる方が多いかもしれませんが、法的な考え方はあります。
法律の世界には「受忍限度(じゅにんげんど)」という考え方があります。社会生活を送る上で、多少の不快感や不便は互いに我慢すべきですが、それを超えた被害については法的救済の対象になります。 保育士も一人の人間であり、職業人です。人格を否定される暴言や、執拗なプライベートへの干渉は、明らかに社会通念上、相当な範囲を超えています。受忍限度を超えていると考えられ、園側が「保護者だから」とこれを放置することは、職員に対する安全配慮義務違反(職場環境整備義務違反)となり得るのです。
受忍限度を超えているか(=違法性があるか)は、主に以下の4つの要素を総合的に考慮して判断されます。
①侵害行為の態様(やり方)
怒鳴る、机を叩く、長時間(数時間にわたり)拘束する、SNSで実名を晒す、といった攻撃的な態様は、受忍限度を超えやすい典型です。

②侵害される利益の性質(誰の何が傷ついたか)
保育士個人の名誉、プライバシー、心身の健康、さらには「園の平穏な運営権」や「評判」がどれほど深く傷つけられたかが問われます。

③公共性・公益性(その要求に正当な理由があるか)
「子供の安全確認」は正当な理由ですが、「自分の気に入らない保育士をクビにしろ」という要求には公益性がありません。個人の好き嫌いや感情に沿ったものは受忍限度を逸脱します。

④ 回避可能性(園側が努力したか)
例えば園側がにミスがあった場合、園がそれを誠実に説明し改善案を提示したにもかかわらず、保護者が執拗に攻撃を続ける場合は保護者側の非が重く判定されます。

なぜ「受忍限度」を意識すべきなのか
園長先生や理事長先生に知っておいていただきたいのは、「職員に受忍限度を超えた我慢を強いることは、園側の責任を問われるリスクがある」ということです。
前項で解説しておりますが、園には「安全配慮義務」があり、職員が心身の健康を損なわないよう配慮する義務があります。受忍限度を超えていることが明らかなカスハラ相手に対し、「保護者だから」「お客さんだから」「あなたは担任なのだから」と職員に対応を丸投げし、結果として職員が適応障害やうつ病を発症した場合、職員から園に対して損害賠償を請求されることにもなりかねません。
保育士採用においてこれは大きな痛手になり、経営においても損失が大きいため、現場任せにせず、しっかりと受忍限度を判定するべきです。
判断に迷うその時、お力になります
「これはカスハラと言っていいのか?」「この要求を拒否して、本当に子どもや園の評判に影響はないか?」 そんな迷いが生じた際は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

私は弁護士であると同時に、保育士資格も保有しております。 そのため、単なる法律の条文を当てはめるだけの回答はいたしません。連絡帳一冊に込める思いや、行事の準備に追われる現場の過酷さ、そして「子どものために」と悩み抜く保育士さんの心境、それらを深く理解した上で、貴園の状況に即した「現場に則したアドバイス」を提供いたします。

弁護士外岡 潤
弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)
2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。
ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。









