【保育園向けカスハラ対策コラムVol.01】「子どものため」という保護者の暴走 ~過度な個別要求にどう立ち向かうか~

カテゴリ
その他
公開日
2026.03.09
【保育園向けカスハラ対策コラムVol.01】「子どものため」という保護者の暴走 ~過度な個別要求にどう立ち向かうか~」

【保育園向けカスハラ対策コラムVol.01】「子どものため」という保護者の暴走~過度な個別要求にどう立ち向かうか~

こんにちは、弁護士の外岡潤です。私は介護福祉に特化した弁護士として活動してきましたが、近年保育士の資格を取得し、保育方面でも活動するようになりました。これから、このコラムやユーチューブ等で保育業界に向け有用な情報を発信して参ります。是非ご活用ください。

近年、カスタマーハラスメント(カスハラ、顧客からの過度なクレームや迷惑行為)という言葉が定着しましたが、保育現場におけるそれは、飲食や物流などの一般的なサービス業とは一線を画す特殊な背景事情があります。それは、保護者の要求の根底に「我が子への愛情」と「教育・安全への強い正義感」がある点です。

保育の現場では「これからの人生」を歩む子どもが対象であり、保護者の不安が外部への攻撃性に転じやすい面があります。「子どもの将来のために、今すぐ改善しろ」「他の子よりもうちの子を優先してくれ」といった、親の愛情を免罪符にした過剰な要求がエスカレートする傾向にあります。

しかし、保育園は公共性の高い施設であり、限られたリソースで全ての園児を平等に守る義務があります。職員の安全を守ることは雇用契約上の義務でもあり、カスハラはコンプライアンス(法令遵守)の観点からも大きな経営課題となっています。 本コラムでは、弁護士の視点から、エスカレートする個別要求に対する「受忍限度」の考え方と、法的な対処法について解説します。

なぜ「個別要求」はエスカレートするのか

保育の現場でよく見られる過剰な要求には、以下のようなものがあります。

「今日はあまり元気がないみたいなので、1時間おきに検温して報告してほしい」

「他の園児となじめない気がする。担任は一日中うちの子のそばに付いていてほしい」

「少しの擦り傷も許せない。誰と遊んでいて怪我をしたのか、相手の親の名前を教えろ」

これらの要求をする保護者の多くは、自分が「不当なクレーマー」だとは思っていません。「子どものため」を思って当然の権利を主張しているだけだと信じているため、園がその要求を断ると「子どもを見捨てるのか!」「園の怠慢だ!」と強く反発することもあります。

しかし、保育園は「集団生活」の場です。特定の家庭のニーズに過度に応えることは、他の園児への見守り時間を削り、園全体の安全配慮義務を疎かにする結果を招きます。

保護者と職員にズレがある

法的観点から見る「安全配慮義務」の二面性

保育・福祉現場を長年見てきた弁護士として強調したいのは、保育園には「個々の園児への安全配慮義務」がある一方で、同時に「園児全員に対する安全配慮義務」があるという点です。

例えば、一人の園児に専属的に保育士を配置することを要求され、それに応じたとします。すると、他の場所で死角が生まれやすくなり、別の園児が怪我をした場合、園は「体制不備」として損害賠償責任を問われる可能性があります。 つまり、保護者の過度な個別要求に応じすぎることは、園にとって法的リスクを増大させる行為になり得るのです。

法的観点から見る「安全配慮義務」の二面性

現場の保育士の負担を増大させ疲弊させる

すでにご承知のとおり、カスハラが発生する現場では職員のモチベーションが著しく低下します。本来は必要のない対応業務が増え、理不尽な要求や暴言にさらされ精神的に疲弊するからです。恐怖のあまり日常的な対応ができなくなることもあるでしょう。

無理を重ねた職員は休職や離職に直結しやすく、そうなれば大事な戦力を失うだけでなく、園が「職員に対する安全配慮義務」を果たしていないというコンプライアンス問題にまで発展しかねません。 現在の保育業界は深刻な人手不足であり、職員にとって「売り手市場」です。より良い職場環境を求めて、優秀な職員が他園へ流出してしまうことは、園にとって最大の損失となります。

職員への安全配慮義務もある

保育園で発生しやすいカスハラへの3つの防衛策

カスハラは突発的に発生するため、園側は予期せず巻き込まれてしまうものです。トラブルを最小限に抑えるためにできる3つの防衛策をお伝えします。

保育園で発生しやすいカスハラへの3つの防衛策

① 運営規定(契約書)による「限界」の明文化

「できること」と「できないこと」の線引きをし、入園時の契約書や重要事項説明書に明記しておくことが、最大の防御になります。

●食事対応

園児のアレルギー対応は行うが、嗜好(好き嫌い)による個別調理は行わない。

●保育体制

認可基準に則った配置であり、特定の児童への常時マンツーマン対応は不可能である。

② 「記録」の共有と組織対応

カスハラの初期段階で最も危険なのは、担任の保育士が一人で抱え込むことです。保護者は「先生なら分かってくれるはず」「この先生がうちの担任だから責任がある」等と属人的な関係に訴えてきますが、対応としては必ず「園全体としての組織的な回答」に切り替える必要があります。

「私個人としてはお気持ちを察しますが、園の規定により……」

「園長、主任を含めて協議した結果、当園の方針としては……」

このように主語を「個人」から「組織」へ変えることで、特定の職員への攻撃(ターゲット化)を分散させます。

実際に対応するときも、一人ではなく必ず上司らと複数名で行うようにしましょう。

③ 弁護士による「受忍限度」の判定と介入

保護者からの要求が「社会的相当性」を逸脱し、職員が精神疾患を患うほどの執拗な攻撃になった場合、それはもはや福祉として対応すべき範疇ではなくカスタマーハラスメントであり、以下のような業務妨害等の犯罪が成立する可能性もあります。

●不退去罪

閉園時間を過ぎても居座り、謝罪を要求し続ける。

●威力業務妨害

大声で職員に対して怒鳴り、他の保護者や園児を不安にさせる。

この段階に達した場合は、弁護士が「今後の協議は弁護士を通すこと」「直接の連絡を控えること」を記した受任通知を送付することが有効です。当事務所の経験上、弁護士が介入した時点でほとんどの相手は冷静になります。万が一、激しく対抗してくる場合でも、弁護士に窓口を一本化することで園の平穏を取り戻すことが可能です。

カスハラに関するトラブル解決を承っております

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介護・福祉業界特化の弁護士法人おかげさまは、これまで多数のカスハラトラブル解決に携わってきました。カスハラ相手に対して代理人として対応することはもちろん、トラブルを未然に防ぐためのアドバイスも行っております。

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この記事を書いた人
代表弁護士 外岡潤

弁護士外岡 潤そとおか じゅん

弁護士法人おかげさま 代表弁護士(第二東京弁護士会所属)

2003年東京大学法学部卒業後、2005年司法試験合格。大手渉外事務所勤務を経て2009年に法律事務所おかげさまを開設。開設当初より介護・福祉特化の「介護弁護士」として事業所の支援を実施。2022年に弁護士法人おかげさまを設立。

ホームヘルパー2級、視覚ガイドヘルパー、保育士、レクリエーション検定2級の資格を保有。

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