介護事業所における事例別カスハラ対処法

近年、当事務所において最も多くご相談を受けるケースがカスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ぶべき「利用者・家族からの圧力」です。

耳にしたことのある言葉ではあるものの、実際の介護現場で発生するカスハラがどういうものがあるのか、そして、カスハラ対応としてどのような対応が適切であるのかという情報に関しては、あまり知られていないのではないでしょうか。

そこで、本ページでは、介護事業所で起きやすい利用者・ご家族からのカスハラの事例、必要な対応をご紹介し、今後の事業所運営において少しでもお役に立てる情報をお伝えしたいと思います。

カスタマーハラスメント事例① セクハラをする利用者家族

概要

在宅のご利用者の息子さんが、訪問する女性職員の体を触ったり「結婚してないの」等と執拗に尋ねてくる。体を触られた際、女性職員は拒絶し、嫌悪感を感じる質問に対しては答えず、やんわりと回避するなどの対応を実施していた。しかし、息子さんの行動は続き、次第に職員は嫌悪感や恐怖を感じた。結果的に「もうあの家にはサービスに入れない」と拒絶した。

必要な対応


あらゆるケースに共通しますが、まずハラスメントをする当事者に対し端的に問題行動を指摘し、止めるよう求めます。サッカーゲームで言うところの「イエローカード」ですが、できれば証拠化するため書面で申し入れたいところです。

これを受けて相手が振る舞いを改めてくれればそれで終了となりますが、応じないようであればレッド―カード=事業所からの契約解除に進みます。

カスタマーハラスメント事例② 事故報告を執拗に求める家族

概要

施設内でご利用者の骨折事故が発生。時系列に沿って丁寧に原因分析を試みるも、いつどこで骨折したかは分からない。原因分析結果を家族へ報告してみても「事実を隠蔽している。こちらが納得いくまで調査を継続してもらう」と迫られ、解決策が全く見つからない状態になっている。

必要な対応

このような事案は、昨今最も多く見られるパターンです。

確かに施設・事業所は発生した事故について調査義務や説明責任を負います。しかし、一般に行うことが可能な範囲で努力をしたにも拘らず、真相が究明できない場合はそこが責任の限界です。

これ以上はどうやっても解明できないことというのは存在します。法律は不可能なことまで強いるものではありません。

施設として行った調査の経緯や結果を懇切丁寧に説明し、受傷原因が不明であれば、そのことを前提として損害賠償の話を勧め、損害保険会社と協議しながら示談による解決を目指すことになります。その説明をしても家族としてどうしてもご納得されないようであれば、後はご利用者側から施設を提訴するなど、法的措置をとって頂く他ありません。

しかし、この場合は調査資料をもとに事実を証明し、事業所として出来る限りの調査をした事実を提示することで事業所が負う責任を果たしていることを示せます。最終的には損害賠償の協議になり、法に基づいた対応を実施することとなります。

カスタマーハラスメント事例③ 暴力をふるう認知症ご利用者

概要


施設に入所する男性利用者(認知症)の介護拒否が強く、関わる職員に殴りかかったり手にかみつこうとする。このご利用者に身寄りは無い。介護業務中の職員に危害が及ぶ。

必要な対応

最も対応困難なケースですが、最終的に契約を解除して引き取って頂くべき家族等、身元引受人が存在しない以上施設内で何とかする他ありません。

この場合の考え方として、行為者が認知症や精神疾患であっても、その行為自体に危険性等が認められればハラスメントは健常者と同様に成立すると言えます。ただし、本人に責任能力が認められないため、そのことを理由として民事・刑事の法的責任を追及することはできません。職員が怪我をしたような場合は、雇用主である施設運営法人がその責任を負うことになります。

現場では、暴力を振るう利用者の手足を制止する等、最低限の拘束をその場で行うことは刑法上の正当防衛として認められます。いざというときに備え護身術を研修のテーマとしても良いでしょう。

対応する人や時間帯、アプローチを変える等の試行錯誤をしても状況が改善しない場合は、最終手段として医師に向精神薬等を処方してもらうことも考えられます。もっとも、鎮静目的で過度に強い薬を投与することはドラッグロックといい、それ自体が身体拘束に該当するため、できる限り控えるべきです。しかし、どうしても現場の他の業務に支障が出てしまう場合は、行為者の状況を把握し、適宜医師に相談をしながら適切な指示のもとで実施するのが良いでしょう。

カスタマーハラスメント対応において事業所側が実施すべき対応

上記のようなカスタマーハラスメントへの対応について、職員個々人の対応に任せてしまうことはお勧めできません。なぜなら受け止め方や対応の巧拙に個人差があるからです。結果的にリスクを抱えたままの経営となってしまいます。事業所内での対応方針や方法を明確にしておくことで、従業員の安心感にも繋がるため、下記のような対応を行うことが理想的です。

事業所内での研修(現場職員・管理職向けの研修)

言うまでもありませんが、全ての人は平等かつ対等な人権が保障されており、現場職員の生命・身体の安全や名誉感情等の人権も守られなければなりません。認知症の利用者がすることだからといって、相談を受けた管理者が「体を触られるのもこの仕事のうち」等と言い放つようではいけないのです。

「ハラスメントはいかなる場合も本来許されないことであり、職員を雇用する法人は全ての職員を守る」という姿勢を明確に打ち出し、職員に安心してもらうことが第一歩となります。

その上で、前述のようなハラスメントに関する知識、事件が起きたときの対処法等を、初めは大まかでよいのでマニュアルとして定め、基本的な対応方針を統一・共有します。現場職員向け研修、管理職向け研修を行うことで、業務や役職に応じた認識、対応策を根付かせる契機になります。

職員向け相談窓口の設置

いくら指針やマニュアルが完璧でも、現実に起きる事件を上層部が把握しなければ意味がありません。トラブルや問題は現場で起きるものであり、その芽を小さいうちに摘めるよう、早い段階での報告・相談がしやすい体制をつくりましょう。職員向け相談窓口の設置を検討してみてはいかがでしょうか。

例えば「口頭では上司の時間も拘束してしまうし、面と向かってでは話しづらい」ということがあれば、ライン等のSNSを導入するのも良い方法です。いかなる仕組みも「絵に描いた餅」にならないよう、常に改善を心がけたいものです。

カスハラ当事者への申し入れ

事例紹介で解説したように、カスハラ問題はまずその当事者に対し、止めるよう毅然と申し入れることが重要です。「お客様に物申すことなど憚られる」という方もいらっしゃるかもしれませんが、職員の人権を守るためにやむを得ない場合も多々あります。その際、リアルタイムで法律の専門家に相談できる体制を構築することができれば、担当者としても心強く迷わず対処できるようになります。

当事務所でサポートできること

カスハラにより事業所が疲弊し、ご利用者やそこで働く職員までもが影響を受けることにより、関与する全ての方が悲しい状況に陥ります。日々、誠実に介護・福祉事業を行う事業所が永続的に事業運営を行えるようにするためのアドバイス、ご支援を致します。
開業以降、介護・福祉の事業所様に特化した法律事務所として、カスハラからの組織防衛のために次のようなサポートをご提供可能です。

事業所内での研修

カスハラの傾向と対策は、介護の事業形態によって大きく異なります。また、介護と障害福祉サービスでも明確な違いがあります。そうした事業形態に完全対応した、現場にとって真に役立つ知識を内部研修によりご提供します。ズームや収録によるオンデマンド形式も可能なため、全職員を集める必要もありません。

相談窓口の設置

カスハラの中には、出発点として事業所側のミスや法的責任があるものも多く、一律に迷惑行為として切り捨てるわけにもいかない困難なケースも多々あります。本件において何がこちらの弱点であり、どこを主張できるか、また主張すべきかを豊富な知識経験を基に分析し、相談担当者や管理者等にその都度適切なアドバイスをご提供します。また、弊所が外部相談窓口の機能を担うことも可能です。

ハラスメント当事者への申し入れ等

相談対応等のバックアップのみならず、法人の代理人として弁護士が直接カスハラ当事者である利用者や家族と交渉等をすることも致します。「ご家族が恫喝や暴言ばかりでとても話にならない」という場合でも、相手が第三者的立場の、法律の専門家にバトンタッチすることで襟を正し別人のように冷静になるということも数多く経験してきました。
万一トラブルが訴訟に発展しても、訴訟代理人として最後まで法人や現場職員をお守りします。

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