泣く子も黙る!?介護・障害事業所への「最期通告」指定取消処分について弁護士が解説

介護事業が指定取消し処分を受けたらどうなる?回避方法とあわせて解説!

介護事業が指定取消し処分を受けたらどうなる?回避方法とあわせて解説!

ニュース等で見聞きする「指定取消し」。例えば人員配置の不正申告等がありますが、慢性的な人手不足の中いつ人が辞めてしまうか分からず、どのような事業所であろうと他人事ではありません。

「指定取消しを受けたらどうなるの?」「指定取消しを受けないためにはどんな対策をすれば良い?」このような疑問や不安をお持ちではありませんか。

介護保険サービスを提供する事業者は、行政から指定を受ける必要がありますが、指定を受けたらそれで終わりではありません。きちんとした事業運営を行わなければ、指定を取り消されてしまうこともあります。

もし指定を取り消されてしまえば、介護事業を実質運営できなくなる上、罰則も命じられます。そのため、介護事業者は指定取消しを受けないように日頃から適切な運営を心がける必要があります。

本記事では、介護事業・障害者事業所が最も気をつけるべき、指定取消し処分について概要から、回避方法まで紹介します。万が一、指定取消し処分を受けてしまった場合の対処方法も解説しますので、ぜひご覧ください。

 

指定取消し処分の現状について

指定取消しは決して他人事ではありません。「指定取消しなんてどうせされないだろう」と高を括っていると、ある日突然行政から抜き打ち監査がやって来るかもしれません。

厚生労働省の発表によると、指定取消し・効力の停止処分を受けた事業所件数は、2020年度で109件になっています。これは過去10年間の中で最も低い水準ですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、自治体の運営指導件数自体が少なかったことが要因とみられています。

参照:全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料|厚生労働省(令和4年3月)

 

2020年度における、指定取消しの主な理由としては、介護報酬の不正請求(51.7%)、続いて法令違反(31.7%)、虚偽報告(20.0%)、人員基準違反(15.0%)の順となっています。(重複あり)

介護サービス別では、最多が訪問介護(26件)、続いて居宅介護支援(12件)、グループホーム(7件)、地域密接型通所介護(6件)の順となっています。とりわけ訪問介護事業者の処分が多い傾向となっています。

それでは、そもそも指定取消し処分はどういった場合で行われるのか見ていきましょう。

 

指定取消し処分の要件とは

介護事業所の指定取消し処分がどのような場合において行われるかは、介護保険法77条1項各号(居宅介護支援事業については84条1項)で定められています。

77条1項は1号〜13号まであり、都道府県知事は各号のいずれかに該当する場合において、介護事業者の指定を全部または一部の取消しができるものとしています。各号の概要を以下にまとめています。

 

  1. 介護事業者が禁錮刑以上に処された場合や、罰金刑に処された場合など欠格要件に該当するとき。
  2. 介護事業者が指定条件に違反したとき。
  3. 介護事業者が事業所の定員数を満たすことができなくなったとき。
  4. 介護事業者が運営基準に沿った適正な事業運営ができなくなったとき。
  5. 介護事業者が介護事業者としての義務に違反したと認められるとき。
  6. 居宅介護サービス費の請求に関して不正があったとき。
  7. 介護事業者が、報告・帳簿書類の提出提示命令に従わず、虚偽の報告をしたとき。
  8. 介護事業者が虚偽の答弁を行い、検査を拒んだり妨げたりしたとき。
  9. 介護事業者が、不正の手段によって指定を受けたことが明らかになったとき。
  10. 介護事業者が、政令で定めるものや法律に基づく命令もしくは処分に違反したとき。
  11. 介護事業者が、居宅サービス等に関して不正または著しく不当な行為をしたとき。
  12. 事業所の役員に、過去5年の内に不正・不当な行為をした者が在籍しているとき。(法人の場合)
  13. 事業所の管理者が、過去5年以内に不正・不当な行為をしていたとき。(法人ではない場合)

参考:介護保険法|e-GOV法令検索

続いて、行政処分・指定取消し処分がどのような流れで行われるのか、詳しく解説します。

 

行政処分、指定取消し処分の流れ

違反が疑われる介護施設・介護事業者に対しては、運営指導からはじまり段階的に行政処分が進められます。指定取消し処分は、行政処分の中でも最も重い処分であり、よほどのことがなければ、いきなり処分を受けることはありません。

しかし、報告書の提出を求められているにもかかわらず従わなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合は、指定取消し処分を受ける可能性が高くなりますので、迅速かつ誠実な対応が求められます。

具体的な流れを以下にまとめています。詳しくはこちらもご覧ください。

  1. 運営指導:定期または随時で行われる検査・指導など。報告書の提出が求められることもある。著しく悪質または利用者の生命の危険がある場合は監査に移行する。
  2. 監査:立ち入り等による検査・出頭要請。著しく悪質または利用者の生命の危険がある場合は勧告を実施する。
  3. 改善勧告:改善報告書の提出を求められる。期限内に勧告に従わない場合は、事業所名が公表されることもある。
  4. 改善命令:勧告に従わない場合は、行政指導や命令をうけて改善報告書を提出する。事業所名が公表される。
  5. 行政処分・指定取消し:違反の内容により、指定の効力の全部または一部停止処分を受ける。

 

指定取消しを受けるとどうなる?

行政処分により指定取消しを受けてしまうと、事業所運営の存続に大きな影響を与えます。具体的な影響としては、主に3つ挙げられます。

  1. 介護事業を継続出来なくなる
  2. これまで得た介護(障害)報酬の返還が求められる
  3. 代表以下、役員が別法人であっても介護事業に参画できなくなる

それぞれの影響を詳しく解説します。

①介護事業が継続できなくなる

介護事業者が指定取消し処分を受けた場合、国民健康保険団体連合会(国保連)から介護報酬を受け取ることができなくなります。

介護事業者が指定を受けている場合は、市町村が利用者の代わりにサービスに掛かった費用のうち原則8割、9割を支払います(介護保険法41条6項)。これにより、利用者は費用負担が抑えられるため、介護サービスを受けることができます。

しかし、保険の適用ができなくなれば利用者は全額自己負担になるため、事業者の切り替えを余儀なくされるでしょう。つまり、指定取消し処分を受けることで、介護報酬に頼ってきた介護事業の継続は実質的にほぼ不可能となります。

 

②これまで得た介護報酬(不正利得)の返還

介護報酬の不正請求は、指定取消し処分の中で最も多い事由です。不正請求が発覚した場合、介護事業者は指定取消し処分を受けるだけではなく、これまでに不正利得した介護報酬全額の返還、および課徴金の徴収処分を受けます。

参照:介護保険法22条3項|e-GOV法令検索

不正受給した介護報酬を自主返還することで徴収処分を免れる可能性もありますが、悪質な不正請求の場合は自主返還を受付けてもらえず、詐欺罪で刑事告訴される可能性もあります。いずれの場合にせよ、介護報酬の不正請求が発覚した場合は、事業経営の存続は厳しくなるでしょう。

 

③代表以下、役員が別法人であっても介護事業に参画できない

介護事業者が指定取消し処分を受けた場合、取消し日から5年間は新たに指定を受けることはできなくなります。

さらに法人の場合は、事業者(代表者)以外の役員(取締役、執行役員など)、親会社等実質的な支配者も処分対象となり、事業者同様に5年間は新たな指定を受けることができません(介護保険法70条2項6号~同項6号の3)。

そのため、該当する役員が別の法人・組織で、新しく介護事業を立ち上げる場合でも、指定を受けることができなくなります。

 

どのようなときに指定取消し処分を受けるのか

介護事業者の指定取消し処分要件は介護保険法77条1項の1号〜13号で定められています。

しかし、法令だけでは具体的なイメージが持てない方もいるでしょう。ここでは、具体的な指定取消し処分事由を解説します。

不正請求

先述した通り、介護保険料の不正請求は、最も多い指定取消し事由です。令和2年度の指定取消し事由においては全体の27.2%と4分の1以上を占めています。

参照:全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料|厚生労働省

不正請求が発覚した場合、介護保険料の指定取消しだけではなく、不正利得の介護報酬返還および課徴金の徴収処分を受けることになります。事実上、介護事業継続は不可能となるでしょう。

 

運営基準、人員基準違反

介護サービス事業所が、都道府県の条例で定める人員数を満たすことが出来なくなった場合および、運営基準に従った適正な運営が出来なくなった場合は、指定取消し処分を受ける可能性があります。

参照:介護保険法77条1項3号・4号|e-GOV法令検索

近年では、人手不足の影響で思うようにシフトを組めずに、一人の従業員の労働時間が長時間化するなどの問題も発生しています。しかしながら、職員数をごまかして虚偽の報告をした場合は、虚偽報告とあわせて指定取消し処分の事由となり得ます。

技能実習や特定技能制度を活用するなどして、余裕を持った人員体制を目指すことが求められます。

 

利用者の人格尊重義務違反(虐待、身体拘束など)

利用者に対する虐待や身体拘束は人格尊重義務違反にあたり、指定処分取消し事由に該当します。(介護保険法74条6項)

指定居宅サービス事業者は、要介護者の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、要介護者のため忠実にその職務を遂行しなければならない。

※、居宅介護支援は81条6項

具体的には、次のような行為は人格尊重義務違反として認められます。

  • 医師の指示に反した薬の不投与
  • 他人の薬の流用
  • 床ずれの放置
  • 安全帯での身体拘束
  • 認知症利用者への性的暴行
  • 入居者への暴行

多くの場合は、知識不足による適切なケアの怠りや、マネジメントの不行き届きによるものが原因となっているため、運営指導で終わることがほとんどです。しかしながら、よほど悪質なケースは監査・指定取消し処分の対象となります。

 

その他の大規模な不祥事

上記以外で、事業者(および役員)が禁錮刑以上の刑に処された場合も指定取消し処分の対象となります。例としては、傷害罪、名誉毀損罪、運転過失致死傷罪、業務上過失致死傷罪、業務上横領罪などが挙げられます。

事業者以外でも、介護職員による窃盗や利用者に対する傷害、業務上過失致死、送迎時の交通事故(危険運転含む)なども、行政処分の対象となり得ます。

 

指定取消し処分を未然に防ぐためにできること

介護事業者が指定取消し処分を受けてしまえば、事実上介護事業を続けることができなくなります。介護事業者は指定取消し処分を受けないために、対処方法を理解した上で健全な事業所運営を意識すべきでしょう。そのために具体的に徹底すべき対処方法について解説します。

 

コンプライアンス(法令遵守)の徹底

何よりも大事なことは、介護保険法の基準を守り、水増し請求などの不正請求を行わないように健全な事業所運営を行うことです。

「そんなことは知っているが、人手不足で手が回らない」「他の介護事業所も同じようなことをやっているし、自分たちがやってもばれるわけない」と感じるかもしれません。

実際にぎりぎり人員体制で運営している事業所も多いでしょう。しかし、万が一指定取消し処分を受けてしまえば、介護事業の継続は不可能になるため、利用者やその家族、雇用している職員にまで影響を及ぼします。

そのため、問題が生じた際に行政職員に相談することや、万が一運営指導が入ったとしてもごまかさずに、正直に現状の課題を打ち明けることが大切です。指摘された事項は、その都度改善していくことが一番の防止策になります。

 

現場で起きている事件の迅速な把握とトラブル解決

介護事業所のトラブルや不祥事はいつ起こるかわかりません。ヒヤリハットの法則(1:29:300 の法則)にもいわれるとおり、1件の重大な事故の背後には、29件の軽微な事故があり、さらにその背後には300件もの事故寸前の案件が隠されているといわれています。

そのため、事業者や管理者は事業所内のヒヤリハットに着目し、日々その改善に向き合い続けることが大切です。単に監視や指示・命令するだけでは職員は萎縮してしまうため、現場から改善意見が出るように風通しの良い組織体制を構築するよう心がけましょう。

 

指定取消し処分を受けてしまったときの対処方法

もし指定取消し処分を受けてしまったら、介護事業者には為す術はないのでしょうか。ここでは、指定取消し処分を受けてしまったときの対処方法について解説します。

 

審査請求

指定取消し処分に対して不服がある場合、介護事業者は介護保険審査会に対して「審査請求」を行うことが可能です。(介護保険法第183条)

介護保険審査会とは、介護保険法に基づく処分に審査請求があった場合に審査を行う第三者機関のことです。審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に文書または口頭にて行うことができます。(介護保険法第192条)

介護保険審査会では、審査請求書や弁明書などをもとに審理を行います。その結果、審査請求に理由があると判断した場合は、処分を取り消されます。(認容裁決)

この審査請求は、次に紹介する行政訴訟と異なり行政の内部での審査機関であり、いわば「内輪」のジャッジに過ぎません。訴訟でさえ勝つことは極めて困難であるところ、審査請求で一度出た処分を覆すことは至難の業といえます。

ところが、平成31年2月18日、横須賀市にて医療法人の運営するデイと居宅に出された指定取消し処分が、審査請求の結果取り消されたという事例があります。

これは、元々当該事業所が人員基準違反と運営基準違反であるとして指定が取り消されました。これに対し運営法人が市に不服を申し立てました。

裁決の主な理由は、本市が平成28年2月に事業所の虚偽の指定申請を認識してから平成30年3月に処分を行うまでの期間が長期にわたることが、裁量権の逸脱濫用にあたり違法な処分であると判断されたためです。

参考:https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/2640/soumu/unkyou/documents/h30_4_siryou9.pdf

 

取消訴訟

認容裁決とは逆に、審査請求に理由がないと判断と判断された場合は、棄却裁決が出されます。棄却裁決が出された場合、あるいは審査請求をせず直接、介護事業者は裁判所に対して行政処分の取消訴訟(行政訴訟)を提起することもできます。

取消訴訟での請求が認められれば、取消し処分が取り消されます。これも不服審査と同様、極めてハードルは高いといえますが、筆者の知る限りでは過去に一件、指定取消し処分が見事取り消された裁判例が存在します。

那覇地方裁判所判決/平成22年(行ウ)第7号(平成24年12月26日)

原告会社の運営するデイサービスに対し、沖縄市が「サービス費を不正に請求している可能性がある」旨の情報提供を受けたことをきっかけに監査に入り、主に①「生活相談員が1以上確保されていない」②「常勤の管理者が置かれていない」③「通所介護を行っていないにもかかわらず,通所介護を行ったように虚偽の記録を作成し,居宅介護サービス費を不正に請求した」との理由から指定を取消しました。

これに対し裁判所は、①②については「人員補充により改善済みとなっている過去の事由に基づくものであって,今後,同様の事態が繰り返されるおそれがあるとみられる状況にあるとも解し難い」、③は「(利用者が)いったんは通所介護を拒否したが,その後に気が変わってその提供を受けた事実があった可能性もあながち否定できない」「単なる過誤の可能性を否定できず,不正請求があったと断じることはできない」等として原告の主張を認め、一方で被告市の調査につき「聴き取りはその経緯や状況が明らかでない」「被告が,家族に対し,原告が通所介護計画の内容を利用者又はその家族に説明して,同意を得たことがあるか否かという調査を行った形跡もなく、…裁量を逸脱するものといわざるを得ない。」と判示しました。

 

まとめ(取消し処分を受けないために)

本記事では、介護事業所の指定取消し処分について、指定取消し処分の概要・流れから、指定取消し処分を受けた場合の対処方法まで解説しました。指定取消し処分を受けてしまえば、事実上介護事業を行うことは出来なくなります。

指定取消し処分を受けた後も、審査請求や取消訴訟を行うこともできますが、正当性を示すだけの書面の用意をはじめ多くの労力・時間を割かなければなりません。仮にそこまで行ったとしても、処分が取り消されないこともあります。

そのため、日常から行政処分を受けないように、余裕を持った人員体制を構築することや、現場のマネジメントを徹底することが大切です。余程悪質でなければ、いきなり取消し処分を受けることはほとんどありません。

運営指導で指摘された時点で改善するなど、問題が小さいうちに解消することが大きなトラブルを防ぐことにつながりますので、できることから行っていきましょう。

「弁護士法人おかげさま」は、介護・福祉現場で生じる様々な問題・トラブルの解決代行に特化しています。指定取消し処分に合わないための対策を法律の観点からサポートします。事業所運営にお悩みをお持ちの際は、まずは無料相談からお問い合わせください。

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