介護施設におけるSNS活用の注意点とトラブル対策

近年、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は、あらゆるシーンで活用されるようになりました。介護事業者においては、運営する介護施設のPRや採用活動、利用者や職員同士のコミュニケーションなどの場面で活用されるケースが増えています。

しかし、SNSの活用方法を誤ると思わぬトラブルが発生する可能性があります。実際、当事務所においても、SNSが元となったトラブルの相談が近年急増しています。

そこで本記事では、介護施設のSNS活用に潜むリスクや、トラブルを未然に防ぐためのポイントまで詳しく解説します。現在SNSを活用している、あるいは今後積極的な活用を検討している介護事業者様はぜひ参考にしてください。

 

介護施設によるSNS活用の活発化

SNSのイメージ

現在、多くの介護施設でSNS活用が浸透しています。SNSは種類によって特性が異なるので、目的に応じて使い分けたり、複数のSNSを併用したりしていることも珍しくありません。

例えば、画像投稿SNSのInstagram(インスタグラム)を使って施設の雰囲気やスタッフの日常を画像に載せたり、Facebook(フェイスブック)で事業所のお知らせや最新情報を投稿したり…といった使い方が挙げられます。

 

参考例として、社会福祉法人牧ノ原やまばと学園様(静岡県牧之原市)が運営する施設では、クリスマスや外出レクなどの日常行事や風景をInstagramで投稿しています。
「ともに生きる」という理念を掲げ、日々のレクリエーションや季節の行事、普段のご利用者の様子などをアップしご利用者のご家族はもちろん、介護・福祉に携わる人々の注目を集めています。
参考:https://www.instagram.com/yb_katakuri/
牧ノ原やまばと学園 ケアセンターかたくりの花 様

 

このようにSNSを活用して介護施設の魅力を発信すれば、認知度向上につながり、介護職員の採用力向上や利用者の集客力向上につながります。とりわけ介護施設はハード面(勤務条件、サービス内容など)の違いが出にくいため、スタッフ同士の仲の良さや施設内の雰囲気の良さといったソフト面を伝えることが差別化につながります。主要なSNSは全て無料で利用でき、幅広い年代にPRできるのも嬉しいところです。

スタッフの採用および利用者の集客、どちらも介護業界内での競争が厳しくなる中、いかに自分たちの介護施設の認知度を高め、好印象を抱いてもらうかは介護事業者にとって重要な戦略です。その実現に向けてSNSは欠かせないツールといえるでしょう。

 

以下は主要SNSの種類と概要です。

 

各種SNSの特徴

 

ちなみに、当事務所でもFacebookとYouTubeを使ってさまざまなお知らせや、法律に役立つ情報発信をしていますので、よろしければご覧ください。

Facebookはこちら

YouTubeはこちら(弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル)

 

SNS活用は職員や関係者が行うことが一般的

SNSを活用することで認知を獲得したり、集客力を高めたり、人材採用で有利に活用したりできますが、日々投稿することでSNSを閲覧している方に見ていただけます。専門業者が投稿内容の検討から投稿そのものを行っている事業所も少なからずあると思いますが、多くの事業所は自分たちで投稿しています。専門スタッフを用意するほど余裕は無い事業所がほとんどであるため、介護スタッフや事務スタッフが投稿することが一般的です。業務の傍らで投稿内容を考え、投稿を行われていきます。

事業所で働く職員のほとんどはSNSを詳しく知っているわけではありません。ましてや業務の傍らで投稿しますので、投稿に関するトラブルを引き起こすリスクもあります。また、職員が業務時間外で自身のSNSを使う時間もあるでしょう。その場合も同様にトラブルに繋がるリスクがあります。

昨今、SNSへの投稿がきっかけでニュースで話題となる事件やトラブルが増えています。ニュースになるほどではなくとも、事業所側に実害が出るリスクが必ず存在しますので、是非ともリスクの理解とトラブル防ぐためのポイントをご確認ください。

 

SNSの投稿方法比較

 

介護施設におけるSNS利用に潜むリスクとは

介護施設においてSNS活用の重要性は益々高まっています。しかし、安易にSNSを利用したり無秩序な投稿を許容すると、いわゆる「炎上」や名誉毀損問題、個人情報の漏洩など、思わぬトラブルを引き起こす可能性があります。最悪の場合、訴訟問題に発展するリスクもゼロではありません。ここではSNS利用に潜むリスクについて、具体例をもとに解説します。

 

個人情報・機密情報の漏洩

典型的なトラブルがSNSによる個人情報の流出です。例えば、スタッフが投稿したInstagramの画像にご利用者の顔などが写り込んでいることや、スタッフがプライベートのTwitterで普段のご利用者とのエピソード、同僚や上司に対する不平・不満を書いていた…などです。

 

ご利用者の様子をご本人(あるいは家族)の同意なく無断で投稿することは、個人情報の目的外利用であり、個人情報保護法に違反します。また、プライバシーの侵害にも該当する恐れがあります。プライバシーとは、一般的に「個人や家庭内の私事・私生活。個人の秘密。また、それが他人から干渉・侵害を受けない権利」を意味します。

また、スタッフが勤務先の機密情報や内部事情を外部に漏らすことは不正競争防止法に違反する行為であり、雇用主である法人から民事・刑事上の責任を問われることもあります。

一方で法人は、当然情報漏洩の被害者であるご利用者やご家族に対し責任を負うことになります。プライバシー侵害の程度が大きい場合は慰謝料等を支払う場合もあります。

 

こうしたプライバシー侵害や機密情報漏洩が発覚すれば、介護施設全体の社会的信用も著しく低下するため細心の注意が必要です。

 

許可を取ること

 

ありがちなトラブル事例が、「氏名などの個人情報は伏せたものの、投稿の内容が具体的過ぎてご本人に「自分のことである」と気づかれてしまい、問題となる というものです。第三者からみて客観的に個人を特定できないのであれば、厳密に言えば個人情報漏洩には当たらないのですが、勝手に自分の家のプライベートなことをSNS上で書き連ねられたらやはりいい気分はしないでしょう。

法的に、ただちに責任を負うことにはならないかもしれませんが、職員が普段の業務に関して投稿をするときは節度と想像力(相手が見たらどう思うか等)を持って慎重になるよう、呼びかけや教育が重要になります。

 

SNS投稿によって不祥事が発覚する

近年ではSNSを通じて企業や事業所の不祥事が発覚し、炎上につながるケースが後を絶ちません。たった1つの投稿によって社会的信用が大きく低下し、介護施設運営の継続が危ぶまれる可能性もあります。SNSを通じて発覚する不祥事の例としては次のようなものがあります。

  • 介護職員や利用者が介護施設の不備等をSNSで暴露する
  • 在籍する介護職員が職務中の問題行動をSNSで投稿する
  • 利用者に対する虐待や車の違法運転、職員の不適切な態度等を第三者がSNSで投稿する

このように、一つの問題でもSNSに投稿されることで耳目を集め、一気に拡散され大炎上につながることがあります。

 

内部告発とバカッター

 

介護業界ではありませんが、大手飲食チェーンの「大阪王将」のFC店で勤務していた男性が、店舗に大量の害虫が発生する不衛生な環境であったことをTwitterで暴露しました。ネット上では瞬く間に炎上し、店舗は閉店に追い込まれました。

施設としては勿論、暴露されるような不備をつくらないことが最大のリスクマネジメントにはなるのですが、法人の対外的信用を貶める行為も違法となる可能性がある旨、職員に説明し理解を得ることが重要です。

 

SNSによるハラスメント                   

職場内のコミュニケーションツールとしてSNSを利用している事業者も多いでしょう。例えば、LINEは今や電話・メールに代わる便利なツールとして、すっかり定着しています。手軽に操作出来る上、普段から使い慣れていることもあり、業務上のコミュニケーションとしてLINEを導入している事業者は少なくありません。

しかし、便利さとは裏腹に、LINEグループでのやり取りがパワハラに進展するといったケースも増えています。具体例としては、グループLINEで特定の職員のミスをあげつらい嫌味を書き込む行為。あるいは受信したメッセージを読んだものの業務時間外であったため放置していたら、上司から「既読付けたなら返信しろ」「反省するまでグループから外す」といった的はずれな注意を受けたり、仲間はずれにされたりすることがあります。これらはパワーハラスメントに該当します。

或いは、利用者家族から辛辣な指摘や回答を急かすようなラインを繰り返し送信され、アプリを開くのも怖くてできないという状況に職員が追い込まれるケースもあります。

このようにLINEは手軽にコミュニケーションが取れる反面、人間関係上のトラブルも少なくありません。とりわけ業務で使用する際は、事前に一定のルールを決めるなどすべきでしょう。

 

SNSによるパワハラ

 

SNSトラブルを未然に防ぐためのポイント

SNSは介護施設の認知度向上やコミュニケーションに役立ちますが、使い方によってリスクもあるため、利用の際にはあらかじめリスクを想定した対策が必要です。ここでは、介護施設で発生しうるSNSトラブルを未然に防ぐためのポイントを紹介します。

 

介護職員に対する教育の徹底

介護職員に対してSNS活用の教育を徹底しましょう。とりわけ現在では、プライベートを含めてほとんどの人が1つ以上のSNSを利用しています。総務省情報通信政策研究所が令和4年に公表した調査によると、各SNSの利用率は、LINE(90.3%)、YouTube(85.2%)、Twitter(42.3%)、Instagram(42.3%)、Facebook(31.9%)の順に高いことがわかります。

 

令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査

 

参照:令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 報告書(総務省情報通信政策研究所)

 

こうした中で従業員が利用しているSNSアカウントをすべて把握し、投稿内容までくまなく監視することは現実的ではありません。しかしながら、「SNSでやってはいけないこと」は管理者として日々啓蒙すべきでしょう。全ての職員は、職務上知り得た秘密を漏洩しない守秘義務を負っています。これに反することは、労働者としての忠実義務違反であり、対外的にも職員個人が賠償責任等を負う可能性もあります。

 

近年、従業員の問題行動によって炎上しているのは、投稿後のリスクを想定していないことが考えられます。例えば、「こんなこと発信したらバズるんじゃないか」「“いいね”がたくさんもらえるのではないか」といったように、他者の反応欲しさに投稿してしまうケースです。或いは、「友達限定の配信だから」と油断して違法な内容を投稿したところ、それを見た関係者が無制限の設定でリツイートしてしまう…という「落とし穴」もよく見受けられます。どのような条件であれSNSに投稿したら最後、自分では収拾のつかない事態になりかねないという自覚を持つことが第一歩です。

 

SNS管理

 

その他にも、「介護業界あるある」の投稿がエスカレートして、事業所の実態や機密情報にかかわる内容を晒してしまうケースもあります。こうしたことが起きないように教育を徹底することが重要です。実際に起きたトラブルの事例などを紹介すれば、職員もやってはいけないことをイメージしやすくなるでしょう。

 

SNS利用ルールの作成                    

SNSの利用は主に業務時間外に、匿名でなされるため、実態が把握しづらくNGゾーンの線引きもあいまいになりがちです。しかし、だからこそSNSで業務に関連する情報を発信する場合は、利用ルールを作成し、運用を徹底させる必要があります。その他にも、SNSの扱いについて就業規則に規定を盛り込んだり、ガイドラインを作成したりして、注意喚起することも大切です。以下は就業規則中「服務規律」に盛り込む文例です。

 

・勤務中は私物の携帯電話等を持ち込まないこと。会社の許可なく携帯カメラ等を用い利用者や施設内の様子を撮影したりSNS上で公開するようなことをしないこと。

 

・会社の内外を問わず、インターネット、電子メール、SNS等の手段を用いて、利用者や家族等関係者の個人情報やプライバシーに該当する情報を開示したり、守秘義務に違反する行為を行ったり、根会社を誹謗中傷する書込みや文章を投稿しないこと。会社は必要に応じ業務メールの履歴を閲覧することがある。

 

ただし、あまりルールや規則を厳しくし過ぎると、些細なミスによる違反でも処罰することで萎縮効果が生じてしまったり、SNSがもたらす効果が十分に得られなくなる可能性があります。はじめは事業責任者が細かくチェックして適宜アドバイスしながら、徐々に裁量をもたせるようにするなどが考えられます。

 

画像利用は事前に許可をもらう

SNSで画像を投稿する際は、被写体であるご利用者や身元保証人となるご家族に事前に許可を頂くようにしましょう。中には利用者が画像内に、たまたま写り込んでしまうことがありますが、本人と特定出来てしまう場合はモザイク加工をしたり、投稿前に許可を得る必要があります。

許可を得るときのポイントは、具体的にいかなる媒体に、どのような写真を、いかなる態様(大きさやページ数など)で掲載するかをできるだけ詳しく説明することです。例えば、大雑把に「写真掲載」という形でご本人の許可を頂いたことから、ホームページのトップページにご利用者の写真を掲載したところ、家族から「機関誌に載せるだけと認識していた。これだけ目立つとは聞いていなかった」等と苦情が申し立てられる、というトラブルがあります。

また、職員の氏名や姿を載せる場合も同様です。中には退職者が写っている画像をそのまま施設紹介ページで使用しているケースもありますが、退職後も利用して良いか許可を得るか、他の画像に差し替えるべきです。

 

SNSへの画像利用の許可の必要性

 

被写体の許可なく無断で掲載することは「肖像権」の侵害に該当します。肖像権とは、「みだりに自己の容貌や姿態を撮影されたり、撮影された肖像写真を公表されない権利」のことです。肖像権は、最高裁判所判決で法律上保護されるべき人格的利益の一つとして認められています。(平成17年11月10日最高裁判所判決)

 

とりわけ、人物が特定可能な画像は肖像権の侵害になりやすく、場合によっては賠償金や慰謝料の請求を受ける可能性があるので注意が必要です。

 

SNSトラブルの凡例

ここでは、SNSトラブルの実際の判例について2つ紹介します。

 

1つ目は、訪問介護事業者の職員が、プライベートで公開しているブログ上に、訪問介護先の利用者について投稿したことが発覚したというトラブルです。この結果、プライバシー侵害および名誉毀損に該当するとして、当該職員および事業者に損害賠償責任が課せられました。(東京地裁平成27年9月4日)

 

SNS上の名誉毀損

 

2つ目は、SNSによる漏洩ではありませんが、病院勤務の看護師が家庭内の夫との会話の中で、入院中の患者さんの症状や余命などを話した結果、夫から患者さんの家族に内容が伝わってしまったというトラブルです。この結果、患者さん家族は病院側を訴え、当該看護師が勤務する病院に対して損害賠償を命じられました。(福岡高裁2012年7月1日判決)

 

病院での情報漏洩事案

 

とりわけ介護職員は業務上、利用者さんのプライバシーに踏み込むため、本人やその家族が他の人に知られたくないような秘密の情報を扱うことが多々あります。こうした秘密を漏洩しないように監督する義務が、介護事業所には課されています。

 

そのため、SNSを活用する際は利用範囲や運用時の取り決めなどをあらかじめ明確化し、トラブルの発生を未然に防ぐことが大切です。

 

当事務所がサポートできること

今回は、介護施設におけるSNS活用の注意点と対策について解説しました。

SNSは、上手に使えば介護施設の認知度向上や人材採用に役立つツールです。

しかし安易にSNSを活用すると、思いもよらないトラブルに発展して介護施設の評判を落とす可能性もあります。とりわけSNSはインターネットで世界中に公開される上、拡散力が大きいため、ネガティブな情報はあっという間に広がってしまいます。

 

SNSを利用する際は、運用ルールやマニュアルを設けることや、SNSによってどんなトラブルが発生するリスクがあるか事例を交えて教育していくことが大切です。

また、万が一トラブルが発生したときのことを想定し、あらかじめ専門機関に相談しておくと良いでしょう。

 

SNSトラブル対応とSNSトラブル予防アドバイスを致します

私たち「弁護士法人おかげさま」は、介護・福祉業界に専門特化した法律事務所です。SNSトラブルが発生した際の対処方法から、トラブルを未然に防ぐ就業規則の作成まであらゆるサポートをいたします。SNS活用を検討されている方や、SNSを既に活用されている中で不安や気になることがある方はお気軽にご相談ください。

 

この他にも当事務所のYouTubeチャンネルでは、法律に役立つ情報発信をしていますので、この機会にぜひ、ご視聴やチャンネル登録をお願いいたします

 

 

介護福祉に関するトラブル対応・予防の顧問弁護士

介護福祉は人の生命、健康を常に預かる分野であるため、質の高い対応を常に提供していくことが求められます。尊い仕事である半面、あらゆる分野のトラブルが発生しやすいという特徴があります。本コラムのテーマであったSNSトラブルまで関連してきます。介護福祉とは一見関連の無い分野まで網羅するのは、相当大変なことです。

出来る限り「いつもの介護福祉サービスを提供する」ことを維持するために、当事務所では介護福祉分野のトラブル対応、予防の顧問弁護士プランをご用意しております。トラブル発生だけでなく、未然に防ぐためのご相談、所内研修、アドバイスを行っております。

既に顧問弁護士がいらっしゃる場合でも、セカンドオピニオンとして介護福祉分野におけるトラブル対応のために当事務所をご利用いただくことも可能です。

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